淫獣捜査スピンオフ 双極奴隷たちの調教クルージング2
【3】伝授された調教術
媚薬によって官能を狂わされ、散々に逝き狂わされたナナはついに気を失っていた。
再び目を覚ました時は水の中だった。
「ごぼぉ……ごばばばば……」
不意討ちでの水没に思わず肺の中の空気を吐き出してしまう。浮上しようとジタバタと足掻くも身体が自由に動けないことがパニックを誘発させる。
(なに、どういうこと?)
混乱して焦りだす一方で、心の奥に常駐させている自分がにパニックを回避するために感情を切り離して、氷のように冷めた気持ちに切り替えていく。
そうすることで客観的に自分の状況を観察できるようになる。
今の自分が後ろ手に縛られ、両脚も揃えた状態で幾重にも縄を巻きつかれているのを理解する。
そうして逆さ吊りで頭から水没させられているのだ。
(……気を失っていたのか……失態だ)
腰まで水に浸かった状態で、簡単には水面に顔を出せそうにない。ならば少しでも空気を無駄にしないように対処するしかない。
そう冷静に判断すると、口から溢れ出ていた気泡がみるみる減っていく。ヨガの要領で最低限の酸素の消費に抑えているのだ。
脳の活動がもっとも酸素を消費するため、パニックになることがもっともこの場合は悪手だった。思考そのものを抑えて、さらに酸素の消費を抑える。
だが、それも長くは続かない。突如、股間から背骨を貫くような激しい刺激が駆け抜けたのだ。
揃えられた脚と一緒に麻縄で巻きつけられた電動マッサージ器が、稼働をはじめて刺激を与えてきたのだ。
「ごぼッ……うッ……うぐぅ……がぼぼぼ……」
何度も堪えようと歯を食いしばるものの、まだ媚薬の効果が残っている肉体は通常時の何倍もの甘い刺激を全身に駆け巡らせてしまう。
おかげで残っていた僅かな空気すらも吐き出してしまっていた。
(く、苦しい……)
空気を求めて身体を捩るものの、緊縛された状態では水面にバシャバシャと水飛沫をあげることしかできない。
酸欠で意識を朦朧とさせながら、このままでは溺れてしまうとようやく恐怖を感じはじめるのだ。
――ザバーッ
肺に残っていた僅かな気泡すらも吐き出して、意識を飛びかけていたナナ。その身体が急に引き上げられていた。
濡れた黒髪を逆立たせて、ポタポタと水滴を滴らせる。そんなナナの正面に仁王立ちするシオの姿があった。
相変わらず感情のない人形のような表情で見下ろしている。その瞳に残忍な光が宿っているのをナナは認識していた。
水死する寸前まで追いやられて、流石にナナの顔には死の恐怖で表情が強張っていた。
それを目にして、シオの口角がわずかに吊り上がる。
「げほッ、こほッ……はぁ、はぁ、はぁ……まったく――んんッ」
そのシオの反応に反射的に悪態をつこうとした途端、再びナナの身体は水没していた。
呼吸もまだろくに整っていない状態だ。すぐに酸欠になってしまう。
(ま、またッ!?)
追い打ちをかけるように電動マッサージ器による刺激も加わり、先ほどと同じ結末となってしまう。
今回は先ほどよりも長く水に沈められていた。再び溺れる寸前まで追い込まれて、ようやく引き上げられた時は息も絶え絶えの状態になっているのであった。
「はぁ、はぁ、げほッ……はぁ、はぁ……」
もう悪態などはつかず、ただ呼吸を整えるのに専念する。それでも悔しさからつい相手を睨んでしまうナナであった。
すかさず、ナナの逆さ吊りのされた肉体は自然落下をしていた。
――ドボーンッ
三度目の水没はさらに長かった。意識も朦朧として目の焦点も怪しい状態だ。
ゲホゲホと飲み込んだ水を吐き出して、力なく逆さ吊りにされていた。
そんなナナの顔を覗き込みながら、シオは右手に握られたコントローラーを見せつける。
それはナナの身体を吊り下げているウィンチの操作パネルであった。その親指が降下ボタンに触れられようとすると、ナナの表情は反射的に強張っていた。
その瞳には先ほどまでにあった挑戦的な眼差しは消えていた。それの代わりに溺れる恐怖に対する怯えが垣間見えていた。
それに満足感したのだろう。目を細めてシオは近づけていた顔を引いていた。背を向けて、壁際にある棚の方へと歩いていく。
そこでようやくナナも周囲の状況を把握する余裕が生まれる。
吊られているのは変わらず調教室だ。天井に設置されているウィンチによって部屋の中央で逆さ吊りされたナナは、全身を幾重にも巻きつた麻縄によって身動きが取れない状態にされていた。
逆立った黒髪から滴る水滴が床に口開いた穴の中へと消えていく。
一辺がわずか二メートルにも満たない正方形の穴の中には水が満たされているのだ。
喉に残る塩辛さから海水が使われているのだろう。底が見えないことからも、沈めようとすればナナの全身まで水没させることもできそうだった。
――ビシッ
床を打ちつける音で視線を正面に戻せば、鞭を手にしてシオが戻っていた。
革紐を束ねて編み込まれた一本鞭だ。まるでサーカスの猛獣使いのように長くしなる鞭を変幻自在に扱ってみせ、ナナの両耳を掠るように繰り出してみせる。
「――くぅッ」
ヒュン、ヒュンと風切り音を轟かせて、音速を超えた衝撃音が背後から響いてくる。
(あきらかな挑発……これが殿方の相手なら怯えてみせれば満足するのだろうけど、彼女が相手ではそれも癪だわね)
ジンジンする耳の痛みが反抗心を後押しする。
ギッと睨みつけてくるナナに、シオの口角がますます上がっていった。
「珍しく感情をあらわにしているのね……責めるのが愉しいみたいね」
「えぇ、不思議……多分、私はいま……愉しい……みたい……」
笑みを浮かべているのを自覚していなかったのだろう。自分の口元を指で触れて、不思議そうに首を傾げている。
「なに間抜けな顔をしてるの。少なくとも今までの貴女よりかは、ほんの少しだけど共感してあげられるわよ」
「そう……ありがとう……それじゃぁ、もっと……愉しませてね」
そう告げて笑みを浮かべたシオは、手にした鞭を高々と振り上げるのだった。
――ビシッ
今度の一撃はナナの身体への直撃だった。容赦ない横殴りの打撃に吊られたナナの身体がくの字に折れ曲がり、苦悶の呻きをあげさせられる。
「ぐッ、あぁぁぁぁッ」
ギシギシと縄を軋ませて吊られた女体が揺れる。戻ってくるところを迎え撃つように次の痛打が襲ってきた。
「ぐあぁぁッ…………ひぐぅぅぅぅッ」
風切り音を響かせて次々と鞭の連打が浴びせられた。
染みひとつなかった白い柔肌に次々と朱色の鞭痕が刻み込まれていく。
手加減なしの重い一撃は骨にまで衝撃を響かせる。屈強な男でも音を上げる痛打は、もはや拷問に近い責め方だ。
そうやって心身に苦痛と恐怖を刻み込んで反抗心を削ぎ落していくのが支配人直伝のシオの責め方なのだ。
他の方法を知らない彼女には手加減という言葉もないのだろう。同僚であるナナを相手してもその責めは容赦がない。
(無造作に叩いているように見えて……くぅぅ、イヤらしい責めね)
左右から襲い掛かる鞭の痛撃は、リズムに慣らさせないように絶妙にタイミングをズラしてくるのだ。
その上、不意を突くように乳首などの敏感なところだけをピンポイントで打ってくるコントロールの良さまで持っている。
お陰で目などの危険部位を鞭打たれる心配はなさそうではあったが、それは気休めにしかならない。
「うぐぅぅぅッ」
乳首を打ちつけられて、ナナも苦悶の呻きをあげてしまう。
それでも、心身をコントロールすることもできるナナだ。痛みから心を切り離せる術も持っているのだ。
それにシオの方も無限の体力を持っているわけではない。ついには鞭を下ろして全身から汗の珠を噴き出しはじめていた。
「つぅ……もう……終わりかしら?」
全身を赤く染め上げられて苦痛に顔を歪めながらもナナには皮肉を言えるだけの余裕をまだ残していた。
流石にそれには少しムッとしたのだろう、シオの眉がピクリと揺れる。
苛立ちは鞭を手放す動作にも表れていた。無造作に投げ捨てると先ほど持っていたコントローラーに手を伸ばす。
「……いいえ……少し休憩するだけ……貴女も……汗を流してあげる……」
無造作に押されたボタンによって、ナナの身体を吊るしていたロープが緩められた。
「ちょ、なにを――んんッ」
水飛沫を上げてナナの身体が真っ逆さまに海水の中へと落下する。
そう足元に満たされているのは塩分を多く含んだ海水なのだ。
全身を鞭打たれて腫れている状態で、そんな所に飛び込めばどんなことになるか明白だろう。
「んん――ッ!!」
全身の傷に塩を塗り込まれているようなものだ。激しい痛みに水中でナナは苦悶の呻きを上げさせられる。
水中から脱しようにも中途半場に狭い穴では、身体を折り曲げて抜け出ることも難しい。
ジャバジャバと水飛沫を上げて悶え苦しむことになる。
その光景をシオはゆっくりと休憩を取りながら眺めて溜飲を下げたようだ。
再び、ナナが海中から引き上げられた時には体力を回復させたシオが待っていた。
「……さぁ、続きを……やりましょうか……こちらは何回でも……続けられます……」
鞭を手にして淡々と言い放つシオを前にして、ナナは改めて自分の分の悪さを自覚させられた。
ようやく一日が終えて緊縛から解放された時には、ナナは自力では歩けないような状態だった。
引きずられるようにしてベッドに乗せ上げられた彼女は、四肢をベッドの脚へと繋ぎとめられる。
シーツの上で大の字の姿勢で拘束されると、その口にはリングギャクまで噛まされる。
すでに反抗する気力もなく体力も限界に近い。ただ相手にされるままに拘束を受け入れていく。
「――んッ!?」
ヒンヤリとした腹部の感触に朦朧としていた意識を戻せば、ボトルに満たされたローションが垂らされているところだった。
それを両手を使って肌に塗り込むように広げてくる。まるでマッサージのように、肌には揉み込んでくるのだが、それがただのローションでないのは、塗られた箇所から熱をもったようになることからもわかった。
次々とローションは追加されて、乳房や股間だけでなく、手足や指の間までも塗り込まれてしまう。
それにともなって熱を持つ部分は全身へと広がっていったのだ。
「んんッ、うふぅ」
「……どう? 紫堂様よりお預かりした……性感ローション……新型の媚薬……成分を含まれているそうよ……」
激しい疼きに全身が覆われ、皮膚の感覚が敏感になっていくのがわかる。
その後の効果はすでに身をもって体験している。ローションで使用することで服用するよりも浸透は遅いが、その代わりに持続時間は長くなるらしい。
すでにシーツに触れている部分の感触だけでゾクゾクと拘束された身体が反応していた。
このまま徐々に浸透を増していったらどうなることか、これ以上責められて理性が保てるかナナには自信がなかった。
「……安心して……今日は……もうおしまい……」
驚くことにローションを塗り終えるとシオはそれ以上はなにもしてこなかったのだ。
部屋の電気を消すと、宣言通りにそのまま退出していったのだ。
(……そう……今日は、もう終わりなのね……)
そのことでナナも気が抜けた。すぐに意識は深い闇の中へと落ちていくことになる。
だが、しばらくして嫌でも目を覚ますことになった。
全身に無理込められた媚薬ローションが浸透して本格的に効果を発揮しはじめたからだ。
まるで熱病に犯されたように全身が燃えるように熱い。柔肌の表面には次々と汗の珠が噴き出てくるのだ。
問題は、その汗がツーッと肌の表面を滑り落ちると、その感触に凄まじい快感を感じさせられることだ。
ビクンビクンと全身が跳ね、それがさらに汗の珠を滑り落ちさせる。それが更なる快楽を生み出す循環を繰り返した。
「ひゃ、ひゃめッ」
滑り落ちる先から汗は次々と噴き出して補充される。汗が滑り落ちては、身体を揺すって快楽を得てと、まるで永久機関のように繰り返されるのだ。
そんな状態に置かれては寝れるはずもなく、そしてそれが終わる気配もないのだ。
「あぁ、んッ、んんッ……ひゃめ、あ、ああぁぁぁぁン」
暗闇の中から女の切なげで艶めかしい声が聴こえてくる。それは夜が明けるまで絶えることなく続くのだった。
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