淫獣捜査スピンオフ 国民的アイドルとの休日
【2】謝罪と要望
「あの時は、いろいろとすまなかった」
酒の力も借りて、ようやく口にできた謝罪の言葉、自分でも精彩を欠いたものだと自覚できた。
それでもその言葉は玲央奈の肩をビクッと震えさせて、先ほどまでの陽気な雰囲気を消させる威力があった。
ゆっくりと振り向いてくる彼女からの叱責や暴力を覚悟する。それだけのことを玲央奈にしたと自覚していたからだ。
だが、目をつぶって待てども、何も起こりはしなかった。
恐る恐る瞼をあけた俺が見たのは呆れ果てた表情を浮かべる彼女だった。
「はぁー、もしかして謝罪なの? 一年以上も経っているのにぃ?」
「あ……いや……そうだな……」
関係者同士の接触にもいろいろと制限がつけられていたが、それは言い訳にもならない。
いくらでもやりようはあったはずだ。俺は制限を理由に玲央奈に会うのから逃げていただけなのだ。
「――で? 一応、聞いておくけど、何に謝っているのよ」
「あ……いや……その……」
不機嫌そうな顔でズイッと迫られて、思わず言葉に窮してしまう。
アイドルとは思えない見事なメンチの切り方は、彼女の初主演映画のワンシーンを彷彿とさせる。
その映画では派手なアクションシーンや肌も露わな濡れ場もあり、話題になっていた。
思わず三回も観に行ってしまったから、よく覚えている。
「まさかとは思うけど、アタシのバージンの責任でも取ろうというわけ? 具体的には、どうしようというのよ」
「えーと、それは……」
「処女膜の再生手術とか言ったらマジで怒るからねッ」
「…………はい、すみません」
具体的な謝罪の方法を考えてあったわけではない。
ただ、紫堂が使用していた医療技術なら再生も可能だろうとは脳裏に浮かんでいたのは事実だった。
改めて考えても具体的な方法は浮かばない。それでも玲央奈に何かしてやりたいという気持ちは本物だった。
「はぁ、たっく……そっちだって雰囲気が随分と違うじゃん。アタシを助けだしてくれた時なんて……」
いろいろと不満そうにブツブツと呟き出した玲央奈を真摯に見つめて待ってみせるしかない。
再び深々とした溜息をついた彼女は、どうにか自分の中で折り合いをつけられたのだろう。
先ほどまでと同じ砕けた雰囲気に戻っていた。
「もぅ、わかったわよ。それに関しては助けてくれて感謝はしてても怒ってはいないから安心して。ただ、代わりにガス抜きに付き合ってもらうからね」
「……わかったよ。で、具体的に何のガス抜きをすれば良いんだい?」
こちらから尋ねると少し躊躇してみせる玲央奈だが、意を決したように事情を話しはじめた。
事件に巻き込まれた直後は、対外的に過労による療養という名目で隔離されていた玲央奈だが、俺と同じく徐々に仕事を再開して日常生活に戻っていった。
彼女の所属するプロダクションの社長も騒動に巻き込まれていたので事態を理解していたのも大きかった。
過度のストレスがかかっていた心身をリハビリしながら、無理のない復帰を果たすことができたのだ。
そうして、以前のようなアイドルとして多忙な日々を過ごすようになった玲央奈だが、自分の中に起こっているふたつの変化にも気づくことになる。
ひとつは今での事件のことを夢でみてしまうことだ。あの倶楽部での体験が克明に再現されて、その内容が段々とエスカレートしているのだ。
本来ならPDSD(心的外傷後ストレス障害)として悪夢として悩まされそうなのだが、彼女の場合はそれが不快ではなく逆に心地よく感じてしまっているのだ。
その証拠に目覚めるとベッドのシーツがまるでオネショをしたかのように大量の愛液でびっしょりと濡れてしまっているのだという。
もうひとつがサドマゾの性癖の覚醒だった。ライブなどで気分が昂ぶると、サドマゾの欲求が強まってしまうらしい。
自慰行為などで解消できないか試みてきたらしいが、どうにも解消しきれずに悶々とした日々を過ごしていたのだ。
今夜の急な来訪は、元々はそれを相談するためのものだったようだ。
(シャワー後の露出とか変な行動もこれのせいなのかもな……)
サドとしての俺を刺激するように玲央奈なりにアピールしていたのだろう。
「そういう訳だから、もちろん協力してくれるわよね、ご主人様」
言葉とは裏腹に拒絶を許さない強い意志を青い瞳にこめて玲央奈は見つめてくる。
事情も理由も目的もわかった。原因の一因には俺も関わっているとなれば、俺に選択肢があるはずもない。
迷うことなく同意するのだった。
アルコールの影響もあるのだろうが、俺の同意を得られて玲央奈は上機嫌だった。
彼女の要望を大枠で聞き終えた俺は、その期待に応えることを約束していた。
「それじゃぁ、お願いね」
白い肌をほんのりとピンク色に染めながら告げると、玄関で待ち伏せしてた時に隠し持っていたボストンバッグを取りだしてきた。
ドサッと想像していたよりも重々しい音をさせると、鼻歌を奏でながら中身を次々と取りだしては床へと置いていく。
カーペットの上にズラリと並べられていくのは黒革の拘束具や淫具の数々だった。
見たところ、どれも細かな採寸によってオーダーされた品々ばかりで、今回のことが思いつきによる行動でないのが裏付けされた。
(しかし、国民的アイドルがSMの道具やボンデージ衣装を自らお取り寄せしているなんて、マスコミにでもバレたら大事だろうな……)
採寸に関しては仲の良い衣装係スタッフに教えてもらったそうだ。
ステージ衣装などは玲央奈の身体に合わせて一品、一品が職人による品だから、そういう細かな情報も常にあるのだろう。
趣味で乗っているバイクのライダースーツやスキューバーダイビングのウェットスーツを作るといえば誤魔化すのも意外に容易い。
そうやって入手した情報を嬉々として入力してネットで注文している玲央奈。その光景は今の愉しそうな彼女を見れば容易に想像できてしまうのだった。
(まぁ、玲央奈もまた俺と同じように欲望に忠実であろうとしているのだろうな)
その感覚をよく知るだけに、いまさら俺も止める気はなかった。
そうでなくても喜びが溢れ出してしょうがないっといった風な今の姿を見ただけで、手助けしてやろうと思わされていた。
そんなことを考えている間に準備は整ったようだ。自分を拘束する道具を目の前にして玲央奈は床に正座した状態でソファに座る俺を見上げていた。
(まるで忠犬のようだな)
催促するような無粋な真似はせず、ただジッと待っている。
その瞳は俺が首輪を手にすると期待で激しく潤んでくる。
「髪を上げてごらん」
照明の光に輝くブロンド髪をかき上げて、細い首筋を差し出してくる。
そこに巻くのは黒革で細めにデザインされた首輪だ。
指を挟める程度の余裕を持たせながら巻きつけ、縦穴から突き出たU字金具にシルバーの南京錠を引っ掛ける。
――カキンッ
澄んだ音を響かせて施錠されてしまうと、その途端、ブルッと玲央奈の背が震えていた。
「苦しくないか?」
「あッ、はぁい……大丈夫ですぅ……」
覗き込んだ彼女は瞳を激しく潤ませて表情を蕩けさせていた。
毎夜のように見ている淫夢の中で調教を受けていたことで、首輪をはめられる事がマゾとしてのスイッチとなっているのだろう。
先ほどまでの陽気な雰囲気とは打って変わって、今ではすっかり牝の顔になっているのだった。
「あんッ……ふぁぁぁ……」
すでに肌の感度も敏感になっているのだろう。自らボタンを外して脱いでいくシャツが表面を滑るだけでゾクゾクと身を震わせている。
「ほら、拘束衣を巻くから立ってごらん」
久々に見る玲央奈の裸体は見事なものだった。
小柄でありながら骨格がしっかりした造りのボディは、手に収まりきらぬ巨乳に垂れ下げることなく見事につり上げている。
それでいてウェストはキッチリを細く腰の位置が恐ろしいほど高いのだ。
アメリカ人である父親の遺伝もあるだろうが、日々の鍛錬も欠かしていない成果だった。
この一年で成長したのか、さらに磨きがかかっている印象をうける。
「どうぞ……お願いします」
見惚れていた俺に少し照れくさそうにしつつも、手で隠したりはしない。
それどころか努力の成果をもっと見て欲しいとさえしているように感じられる。
長い金髪を邪魔にならないように上げながら、その見事な裸体を差し出してくるのだった。
そこに用意されていた黒革の拘束衣を巻き付けていく。
黒いハーネスを菱形に組み合わせたデザインのもので、潜入捜査の時にはじめて涼子さんに装着したものを思い出させる。
その時を思い出しながら目の前にある白い裸体をギリギリと締め上げて変形させていく。
根元を絞られた乳房は量感を増して、砲弾のように前方に突き出される。
その先端にある乳首はすでに痛いほど尖り、早く触れられたいと訴えているかのようだった。
(だが、それは今ではないな)
軽く息を吹きかけただけで膝が震えているものの、玲央奈はグッと堪えて拘束される喜びを噛みしめている。
初めて出会った頃はSMの知識もろくになかったはずの玲央奈だが、この一年で彼女なりに知識を得てきたのだろう。
夢でそれを疑似体験して補強されてきた彼女は、じつに奴隷らしいよい反応をしてくれる。
その姿に大いに嗜虐欲を刺激されつつも、欲望に振り回されることなく冷静に観察ができている自分に満足する。
徐々に蘇るあの感覚を噛み締め、俺もじっくりと今を愉しんでいた。
そうやって身体にハーネスを装着し終えると、今度は腕の拘束を開始する。
「さぁ、今度は腕を後ろで揃えてごらん」
背中を向けて肩を寄せる玲央奈の両腕に、手にしたアームバインダーを装着していく。
尻つぼみになった革袋で指先から二の腕までスッポリと覆ってしまう。
袋口にある二本のハーネスをそれぞれ肩から反対の脇の下を通して袋へと括り付けていくと、お互いを胸の上で交差するよう調整してからゆっくりと引き絞っていく。
それだけで自力でこの拘束具から抜け出すことは不可能になるのだが、袋の表面にある三本のベルトを順次、締め上げて拘束をさらに強めていった。
手首、肘の前後で袋がギリギリとベルトによって引き絞られていく。
激しいダンスやアクション演技のために格闘技のレッスンまで受けている玲央奈の肉体は柔軟性にも富んでいる。
肘が引き寄せられて、肩が後ろへと引っ張られるまでベルトを絞られる。それを難なく受け入れられるのは彼女の肩の可動域が広いからだ。
「ブーツは、座ってもらった方がいいな」
膝上まである黒革製のロングブーツだ。ソファに座らせると、カモシカのように引き締ま素足へと履かせていく。
「人に履かせてもらうのは、なんか不思議な感じがするね」
玲央奈の素直な感想に俺も編み上げ紐を結びながら口元を綻ばせていた。
かしずいて汗を垂らしながら拘束する俺の姿は、どちらが仕えているのかわからないからだ。
だが、このどちらが上とか関係ないひと時が、ふたりの心を通わせる共同作業のように感じられて俺は密かに好き時間だった。
そういう意味でも、あの倶楽部にいた支配一辺倒な連中と俺では少し趣きが違うのが今ではよくわかる。
「さて、次なんだが……本当にコレでいいのか?」
用意された品を順々に手にしていた俺も、次の品には躊躇してしまう。
それは黒いゴム製のパンツなのだが、内側にはバイブレーター機能を持った二本の突起と陰核に当てられるローターが備えられていた。
バイブレーターとしての造形はシンプルなものだが、リモコンによる遠隔操作で振動させることができるようだ。
小振りとはいえ、それを前後の穴に挿入するわけで、当然として片方は肛門に入れることになる。
倶楽部の施設から逃げ出すために共闘した俺たちは、連中の目を欺くために偽りの主従関係を築いて調教までした仲だが、その時もアナルは手付かずのはずだった。
「だ、大丈夫だから……少し、自分でもいじってたし……」
気恥ずかしそうに告げられて、俺はそれ以上は口を挟まなかった。
彼女の夢の中で培われてきた欲求は俺が想像していたよりも大きく膨らんでいるようだ。
(こりゃぁ、生半可じゃぁ満足させられないかもしれないな)
ローションを突起に垂らして満遍なく塗り付けると、今度は玲央奈の身体の方にも塗り付けようとする。
前の秘裂の方はすでに潤いは十分だが、肛門の方はそうもいかない。
硬く窄まる肛門をほぐすように指先で塗り込んでいく。
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