ソール・トレーダー  ― 中古奴隷もお取り扱いしております ―

【4】販売先

 弁護士である涼野 真理愛の失踪や人気アナウンサー鴨池 瀬里奈の急な番組降板など一時期は週刊誌が騒いでいたけど、それも時間が経過するにしたがい話題に上らなくなっていた。

「忘れ去られてしまうと商品価値が下がるから、悩ましいところだよね」

 すっかり冬模様となった景色の中、私は駐車場に停めた愛車から降りると建物へと向かって歩いていた。
 あれから身辺整理を終えた静流 香奈絵も約束通りに自ら私の元へと赴いた。
 彼女も含めて三人の身柄は今は河間口調教所にあった。
 普段の営業活動に加えて、中古品である彼女らの販売にも精力的に動いていた私だけど、ようやくその目途も立ったところだった。
 通い慣れた地下への階段を降りると、そこは所長である厚子の専用空間だった。
 施設を立ち上げた時に、昔の防空壕を改築して作り上げた場所だったけど、運営が軌道にのり、敷地を拡張した今でも彼女専用の空間として愛用しているのだった。

「やぁ、いらっしゃい」

 私の来訪を厚子は笑顔で出迎えてくれる。その向こうには彼女による調教を受けていた三人の姿があった。
 両腕を高々と吊り上げられた彼女らは全裸にされて、その首には奴隷の証である首輪が装着されていた。
 厚子に並んで前に立った私に対する反応は三者三様だった。
 女社長であった静流 香奈絵は観念した様子で、静かな眼差しを向けてくる。
 女弁護士であった涼野 真理愛は気丈に振るまおうとしつつも瞳の奥では恐怖を隠せずにいる。
 女性アナウンサーであった鴨池 瀬里奈にいたっては、清楚さが売りとは思えない鬼のような形相を浮かべていた。ボールギャグを噛まさせていなければ、罵詈雑言を浴びせられていたと思う。

「肌ツヤもよいし、いい仕上がりね」
「メンテナンスと軽い躾だけって注文だったからね。その分、身体の内側まで綺麗にしておいたわよ」

 ここには小さな医療施設よりも機材が揃えられており、入念なメディカルチェックとエステを施してある。
 全身脱毛によって余計な産毛は除去されて、柔肌は赤ん坊のようにきめ細かくなっている。激務に追われていた彼女らは、ある意味では前以上に健全な肉体に戻っていた。
 その仕上がりに私は満足すると、彼女らにそれぞれの売り先を伝えていった。

「香奈絵、貴女は若手与党議員の磯原氏の元に行くことが決まったわよ。奴隷として買われたけど昼は議員の政治資金の捻出に手助けしなさい。ご主人様としても新人だから、そちらも上手くやりなさいね」

 恐らく今までと変わらずに日中の自由も許されるはずだった。紀里谷氏と比べればサドとしても随分と若輩だけど彼の死にショックを受けている彼女にはちょうど良いと判断した。
 年上好みである磯原議員もひと目で彼女を気に入ってくれたから、ひとまずは心配ないだろう。
 でも、次の真理愛の場合はそうはいかない。自由を与えればすぐに逃げ出すだろうし、なにをしでかすかわからない。
 そこで、彼女が仕切った裁判で痛い目にあった顧客の方々をターゲットに絞ってみた。
 彼女に恨みがあれば簡単には逃がしたりはしないだろうから、彼女を飼うための施設を用意して共同購入するプランを提示させていただいた。
 余暇に好きな時に好きなだけ滞在して、彼女を嬲ってもらおうという試みだ。
 彼女の販売自体では利益を取らず、施設の管理費と彼女の飼育費が定期的に振り込まれることで長期的に利益を求める考えだった。そのままでは数年もすれば飽きられるだろうから、その時のプランも検討中だった。

「そういう訳だから、貴女は複数のご主人様に買われることになったわ。良かったわね」
「う、うぅぅ……」

 恨みを募らせる彼らがどんな意趣返しをしてくれるか興味深い。同様のことを考えているらしく、真理愛は涙目になって震えていた。
 大手弁護士事務所のバックアップで弱者の味方を気取っていた新鋭の美人弁護士も最後まで気丈さを維持できなかったようだった。
 これからは身の丈に合わない蛮勇の代償を身をもって払っていくことになるはずだった。
 そうして、最後は美人アナウンサーであった瀬里奈だ。

「ごめんなさいね。貴女を買ってくださるお得意さんは見つからなかったの……」

 その言葉に睨みつけていた瀬里奈がわずかにホッとした様子をみせる。
 本来ならば誰もがテレビで見ていた夜のニュース番組の看板キャスターであれば、中古品でもいい値がついたはずだった。
 だけど、主人である大物政治家を暗殺したとなると話は大きく変わる。
 そんな取り扱いの難しい彼女を危険を犯してまで飼いたいという物好きはいないし、仮にいたとしてもお客様を危険にさらすリスクも大きい。
 適正な売り先を求めて奔走したものの、ついに顧客から売り先を見つけられなかった。
 そうなれば殺処分も検討されるところだけど、それは私の主義に反する。

「でも安心して、新規のところだけど、ちゃんと行き先を用意してあげたから」

 困り果てていた所に、ある方から売り先を紹介してもらっていた。
 それは秘密の漏洩さえ防げれば、もはや利益は考えていなかった私にも都合のよい販売先だった。。

「聞いたわよ、また変わったところとパイプを持ったわね」
「はじめての処だから搬入したら私も様子を見に行く予定だけどね」

 厚子に応えながら笑みを浮かべる私に、瀬里奈は不安げに表情を曇らせていた。


 三人の出荷からしばらくして、それぞれの様子を見に私は搬入先へと足を伸ばした。
 農家の次男坊として生まれた磯原議員は若くして立候補して、今では二期目を勤め上げている若手議員だ。
 地盤とするのは中部地方の片田舎の町。自然豊かといえば聞こえが良いが田畑ばかりが広がる土地ばかりだ。
 首都の華やかな喧騒が恋しくなる静かな場所だった。周囲には街灯もろくになく、夜になると足元のおぼつかない真っ暗な闇に覆われる。
 彼は広い敷地の日本家屋を住居としており、静まり返る広い庭園の片隅に蔵がポツンと建っている。
 その厚い扉を潜り抜けると、地下への隠し階段が見えてくる。
 ギシギシと階段を軋ませて降りると、見事に改装された和風仕立てのプレイルームが姿をあらわす。
 天井の梁から垂れ下がるロープの先でユラユラと揺れるのは、全裸に剥かれた香奈絵だった。
 裸体には厳しく麻縄がかけられて、後ろ手に縛られて乳房を絞りだすように胸縄もかけられている。
 その状態で大きく身を反らせるようにして宙に浮かされているのだ。
 いわゆる逆海老吊りにされているわけだが、自らの重みで柔肌に食い込む麻縄の感触に苦しくも恍惚とした表情を浮かべていた。
 そんな彼女へと?燭をたらし、鞭で打ちつけるのは磯原議員だった。
 骨格のしっかりして粗野な印象を与えるところは、どこか若い頃の紀里谷議員を思い出させる。
 議員としての日中でのストレスを解消するように、彼女を責めては愉しげな笑みを浮かべていた。

「どうだ? もっと激しくしてやろうか?」
「あぁ、お願いします。もっと……もっと泣かせて下さい」

 クールな顔立ちを興奮で紅潮させて、香奈絵は鞭で打たれて悶え泣いている。
 彼女の激しい反応につられるようにして磯原議員の責めは激しさを増して興奮を高めていた。
 股間の男根ははち切れんばかりで、耐えきれずに目の前の秘裂へと荒々しく挿入する。
 愛液が溢れだす肉壺は歓喜とともに、それを激しく締め上げるのだった。

(なかなかご主人様もサマになってきてますね)

 先輩議員の影響で嗜虐趣味に目覚めた彼だけど、奴隷を手に入れるのはこれが初めてだった。
 興味はあるものの不安も抱える彼の為に、今回はお試し期間を提案させてもらっていた。
 三カ月と期間を設定して気に入らなければ返却を受け付けるプランであったけれど、想像以上に二人の相性がよかったらしく一カ月も立たずに正式契約に更新してくれた。
 すぐさま専用のプレイルームが欲しいとの追加注文までいただき、彼の要望を組み込んで蔵を改造したこの場所を用意させてもらっていた。

「よい方を紹介いただき、ありがとうございました」

 幸せそうにする香奈絵を抱き寄せて屈託のない笑顔で磯原議員に礼を述べられては、逆にこちらが恐縮してしまう。
 なによりもお客様に満足いただけるのは、私には無上の喜びだった。


 次に都内に戻って向かったのは、かつて紀里谷氏のために用意していたマンションだ。
 最上階のフロアを大幅に改装して、紳士たちが集う秘密の社交場へと変貌させていた。
 共同出資者に名を連ねれば、いつでも自由に使える場所だ。
 強固なセキュリティで煩いマスコミをシャットアウトして、日頃のストレスをここで発散させてもらう。
 その為に各自の奴隷を持ち寄るのも可能だけど、共同飼育している真理愛がここにはいる。
 新鋭の美人弁護士と話題になっていた彼女を、好きなだけ嬲ることができるのが売りだった。
 共同出資者は彼女に苦汁のなめさせられた方々ばかりで、その雪辱を晴らそうかとひときわ激しく彼女を責め立てる。
 三角木馬に股がされて前後から鞭を打ち付けられ、時には妊婦のように下腹部が膨れるまで浣腸をほどこして、口腔奉仕で満足させるまで排泄を許さない。
 そうして毅然としていた真理愛が泣き叫び、無様に許しを請うのを周囲で美酒を片手に愉快そうに眺めていく。
 そうして、興奮でいきり立った肉棒を全員で穴という穴に突き入れては、卑しき牝奴隷を悶え狂わせるのだった。

「皆様に愉しんでいただけて良かったですわ」
「いえいえ、日頃のストレスを気兼ねなく発散できて大助かりですよ」
「追加で参加したいというメンバーもいますから紹介しますね」

 口コミによって出資者したいという人も増えていて、なかなかの好評ぶりだった。
 ここで知り合った方々を顧客として新たな商売の可能性も見えてくる。

「今度、アンケートを取って真理愛の姉妹か先輩弁護士でも一緒に買うのを提案してみようかしら」

 参加者たちの笑顔に答えながら、密かに次のプランのための手筈を考えていた。


 最後の瀬里奈に関しては少々遠出になってしまう。
 飛行機や車を乗り継いで辿りついたのは、東南アジアのジャングルの中。
 ガタガタと揺られる軍用トラックの荷台から、木々に隠れるように建てられた建物が目の前に見えてくる。
 ここは反政府ゲリラが軍資金を得るために密かに作りあげた麻薬工場のある場所だった。
 航空機や衛星からの監視を逃れるために巧妙にカモフラージュされているけど、人が住むのに必要なものがすべて揃えられている。
 自動小銃を担いて煙草をくわえたゲリラ兵たちが、周囲を警戒しながら闊歩しては殺伐とした雰囲気を漂わせている。
 そんな中でも休憩時間になると、男たちいそいそと向かう場所があった。
 施設の片隅にある厩舎のような粗末な建物だ。
 足を踏み入れると咽かえるような濃厚な淫臭いが出迎える。
 中には何人もの拘束された女たちがいて、裸に剥かれた身をまとうのは卑猥に肉体を変形させるボンデージ衣装だ。
 首には鉄枷がはめられており、逃げ出せないように太い鎖が床や柱に繋ぎ留められている。
 囚われている人種は様々だ。アジア系だけでなく、白人や黒人も混ざっている。
 彼女らは各地で攫われた旅行者だったり、奴隷として買われてきた者たちだった。

――その中に瀬里奈の姿もあった……

 薄汚れた身体に卑猥なボンデージ衣装を着せられて後ろ手に拘束されている彼女は二人の男に犯されていた。
 背後から荒々しく肛門を犯される一方で、長い黒髪を手綱のように握られて口にも怒張を押し込まれている。
 涙ながらに必死に奉仕する姿には、あの反抗的な様子は微塵も残っていない。
 その身には激しい暴行の痕が刻まれていて、少しでも男たちを満足できないと折檻を受けるのだった。

「むぐ――ッ!!」

 今も締まりが悪いと背後から肛門を犯す男が、咥えていた煙草を尻肉に押し付けていた。
 ここでは人間の命など銃弾よりも安い。政府軍との闘いで毎日のように死人がでては貧村から補充されてくるからだ。
 そんな激戦で荒ぶった気持ちを発散するように、帰還した男たちはこうやって女を犯すのだった。
 ここでは自国では誰もが知る彼女が築き上げたキャリアはなんの役にも立たなかった。
 男を満足させられる肉玩具であるかどうかを求められ、飽きられれば処分されるだけ。彼女を知る者もいなければ、もちろん助ける者もいない。
 知らない言葉で罵詈雑言を浴びせられて、穴という穴を犯される女たちが建物内にズラリと並ぶ中で、ゲリラたちが彼女を識別するのは額に刻まれた番号の入れ墨だけだった。

「どう? 毎日のように人を殺している人たちに囲まれている気分は、彼らなら主人を暗殺した貴女のことも気にしないわよ」

 底辺まで堕ちきった元美人キャスターだったモノがそこにはいた。
 その気丈さ故に簡単には心を狂わすこともできず、紀里谷氏を殺害したことを後悔していることだろう。
 ここを紹介してくれた立河氏への手土産としてその彼女の姿を記録すると、私も満足して出国の準備をするのだった。

「さて、次は残る女優さんをどうするかよね」

 飛行場に向かう私は、すでに次の回収する商品をどう売り出そうか考え始めていた。


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