気高き心は砕かれて、欲望の昏き水底へと沈められる
【5】望まぬレッスン
処女を奪われた事実を悲しんでいるうちに眠ってしまったらしい。
荒々しく扉を開けてやってきた来訪者によって、毛布が?ぎ取られると叩き起こされたのだ。
突然のことで頭を覚醒できずにいるルイザの前に、ロドリゲスが告げた教師役の娼婦が立っていた。
「アンタかい、昨日まで生娘だっていう娘はッ」
エヴァという年配の娼婦は、新人の娘を娼婦として使えるようにする役目を担っているようだった。
彼女がいる間も手足を拘束されずに済んだが、代わりに二人の監視役の男が壁際で待機していた。
ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべて、これからのことを傍観するつもりらしい。
エヴァの方は彼らを無視して会話をはじめる。
「最初に言っておくよ。仕事だから教えるけど、アタシはアンタが嫌いだからね」
そう告げたエヴァは、なぜか憎しげに睨んでくる。
どうやら彼女の顧客だった男たちが、ルイザたちの襲撃の責任をとらされて組織に処分されてしまっていたようだ。
「酷い話だよ。気前よくチップをくれる連中だったのにさぁ……全部、アンタらのせいだからねッ」
「でも、アタシたちは……」
「なに? 言い訳かい? 御大層な理由なんて、どうだっていいさ」
ルイザたちは銃も使わず襲撃にも不殺を心がけていた。それに自分らの行動によって、スラム街の住人すべてが幸せになると思い込んでいたのだ。
だが、結果的に襲撃によって人が死んでいたという事実に彼女はショックを隠せなかった。
「さぁ、レッスンを始めるよ。アンタにちゃんと娼婦に仕立てないと今度はアタシが処分をされちまうよ」
エヴァの言葉は嫌味であったが、警護役だった構成員が組織によって処分されてた話の直後だ。
ビクッとルイザの肩が反応してしまう。
エヴァの言葉は偶然ではあるが、ルイザの心にクサビを打ち込んでいたのだ。
(あぁ、これ以上、アタシのせいで犠牲者はだせない……)
無意識のうちにエヴァに強く抗えなくなっていた。
教師役であるエヴァに嫌味をいわれながらも、娼婦になるための男を悦ばせる仕草や性のテクニックを覚えこまされていく。
それが嫌なのに拒絶することもできないのだ。
そうして、娼婦としてのテクニックを覚え込まされる日々が始まった。
監視役の男たちが見守る前で、男性の性器を模した張り型を相手に舌を使い、口で清め、全身を使って奉仕するテクニックを覚え込まされていった。
ときには監視役の男たちの前で、男を誘うためのストリップ紛いの行為までさせられるのだ。
そうやって、恥辱にまみれたレッスンに耐えながら、夜になるとロドリゲスから支払われる賃金にわずかばかり心を救われる。
賠償金額は途方もない額だが、手持ちのお金が少しずつ増えることでそれに近づけているのだ。
だが、その多くもない賃金からレッスン料と称してエヴァが半分を無慈悲にも徴収してしまう。
「なんだい、文句あるなら止めるかい? アタシらが身を張って稼いだ金を盗んでたんだろ? これぐらいでケチケチするんじゃないよッ」
娼婦たちの売り上げ金も確かに組織はまとめて上納していた。ルイザたちが強奪した金の中にはそれは含まれるだろう。それをエヴァに指摘されればルイザも文句をいえなくなってしまう。
悪いことに、このことは既に他の娼婦にも知れ渡っているようで、なにかと理由をつけてやってくる娼婦たちもルイザから金を徴収しようとするのだった。
それに監視役の男たちは見て見ぬふりで止めようともしない。その為、必死に稼いだわずかな額の金を、ルイザは隠さなければなかなかったのだ。
そうして、数週間が経過していた。
地下に幽閉されて、外のこともわからず、ただ、淫らな娼婦になるためのレッスンをひたすら受けさせられる単調な日々が続いた。
そして、恐れていた日がやってきた。
「さぁ、喜べ、ついに最初の客をとれるぞ。いい加減、覚悟を決めたのだろう?」
強張りながらも頷くしかないルイザに、ロドリゲスは笑みを浮かべる。
「あぁ、そういえばアリシアの治療は順調だぞ。今は大きな病院で治療を受けているが、経過は良好だそうだ」
「ほ、本当ですか!?」
差し出された端末には、病院らしきベッドの上で笑顔を浮かべているアリシアの画像があった。
「あぁ、順調にいうけば数ヵ月で退院できるらしいからな。そうなったら、しばらく綺麗な空気のところで療養させようかと思っている」
「お、お願いします」
「なら、わかっているな?」
「はい、一生懸命に娼婦として働きますから、どうか妹のことをお願いします」
昼も夜もわからない場所で延々と娼婦になるためのレッスンを淡々と受けさせられてきたルイザは、娼婦たちによる虐めも加わり、次第に余計なことを考えないようになっていた。
受け取って増えていく手元のお金と、こうしてて時々ロドリゲスから聞かされる妹の近況が心の支えなのだ。
だから、これまでよりも大きな額を稼げる客に、緊張しながらも笑顔を浮かべることができたのだ。
初めての客となったのは身なりのよい年配の紳士だった。
「僕はキミのことをよく知ってるよ、ルイザ」
残念ながらルイザは覚えていないが、子供の頃に屋敷にも来ていた財界の人間らしい。
父親であるカルロスに共感する高潔な人だったらしいが、ロドリゲスに懐柔されてからはその志も汚れてしまったようだ。
この日のために用意された大胆に胸元がカットされた真紅のドレスをルイザは身に着けていた。
露出した肌は筋肉質で無数の傷跡があるが、恥ずかしそうに身を縮める彼女の初々しい反応とのギャップに年配の男には好評だった。
黒豹のようにしなやかで力強い肉体だと、しきりに誉めてくれる相手に次第に気を許していく。
覚えたてのテクニックを必死に駆使して応える姿に、男はえらく感激していた。
「あぁン、どうか、逞しいお客様のチ×ポをルイザに下さい」
事前にエヴァに教えられたセリフを口にしながら、客の前で大胆に股を開いて見せる。
監視役の男たちの前で何度も覚えさせられた行為だ。いまだに異性に秘部をみせるという行為に赤面してしまうが、相手の興奮を高めることには成功したようだ。
年配とは思えない股間の反り返りがそれを顕著に物語っていた。
「そういえば、僕が初めての客で、この前まで処女だったらしいね。それなら痛みが和らぐよい物があるよ」
そう言って痛み止めだという性感ローションをルイザの秘裂へと塗り付けはじめる。
ドロリとした粘液をまぶした男の指が秘裂に触れ、ビクッと身体が反応してしまう。
だが、相手を不快にさせまいと中に指が入り込んでも必死に耐えて見せるのだった。
「どうだい、こうやって塗られていると段々と熱くなって早く欲しくなってくるだろう?」
「んんッ……えぇ……あッ、んッ……そ、そうですね……」
徐々にローションが粘膜へと浸透しだすと、確かにカッとした熱を感じはじめる。
それは徐々に全身に広がり、ピンク色に染まった肌には汗の珠が浮き始める。
それがスーッと表面を滑り落ちるだけで、ゾクゾクと身を震わせるほど身体の感度が上がっていた。
それと同時にフワフワした陽気な気分にさせられるのだ。
使われたローションは麻薬性分を含んだ媚薬効果のあるものだった。
強引に連れ去られてきた娘でも楽しめるように娼館側で提供しているものだ。
特に今回はいつもより成分を強めに調整されており、塗られたら一晩中でも腰を振り続けないと疼きを解消できないほどだ。
無理に我慢しようものなら精神に異常をきたしかねない危険なものだが、女をボロボロになるまで使い潰すロドリゲスの方針で頻繁に使われていた。
「あぁン、早くぅ……ルイザに早く挿れてください」
薬効が全身にまわりきり、肉欲を求めるはげしい欲求に彼女の高潔な理性も押し流されていた。
自ら秘部を指で広げながら挿入を求める姿のなんと卑猥なことか。
欲情して盛った獣のように涎を垂れ流して甘えた声をだしているのだ。
彼女を知るものが見たら、場末の娼婦と完全に化した女をルイザだとは信じられないことだろう。
目の前にいる紳士すら豹変ぶりに驚かせられていた。
「はは、いつもながら凄い効果だな。今回もたっぷりと愉しませてもらおうか」
「あぁン……す、すごく硬くて熱いぃぃッ」
「お前が魅力的だからだよ、今夜は胃にも膣にもタップリと注いで悶えさせてやるからなッ」
「ひぃぃッ、あぁぁン、凄く感じすぎて狂っちゃうぅ」
温厚そうな紳士の仮面をかなぐり捨てて男はのっけから激しくピストン運動を繰り出す。
それに頭を掻きむしって悶え苦しむルイザだが、肉体はより肉悦を得ようと肉棒を強烈に締め付けていった。
「おぉぉぉ、まずは一発目だ。しっかり子宮で味わえよ」
「ヒィ、ひぃぃぃッ、逝く、逝っちゃいます」
年齢を感じさせない腰使いの果てに、注ぎ込まれる白濁の精液。
それに確かなる絶頂を迎えて、ルイザは恍惚とした表情を浮かべるのだった。
初めての客が満足そうに帰っていくのを見届けて、ロドリゲスは客室へと足を踏み入れる。
むせ返るような濃厚な精臭に苦笑いを浮かべて、ベッドに大の字で白眼を?いているルイザを叩き起す。
「おら、いつまで呑気に寝てやがる。まだまだ客は待っているんだぞ」
髪の毛を掴んでグラグラと揺すり、頬にビンタを食らわせる。
それでようやく意識を取り戻したルイザだが、まだ目の焦点が合っていないようだ。朦朧としたままロドリゲスを見上げてくる。
だが、剥き出しの乳房に指を埋められて揉まれると甘い声をあげはじめる。
「あン、あふぅぅン」
「あの媚薬を使ったからなぁ、爺さんひとりじゃ満足できないだろう?」
「あぁン、少しでいいから、休ませて……」
「甘えるなよ、さぁ、客がお待ちだ、しっかり腰を振って稼いでこいッ」
廊下に控えていた配下の者たちよってルイザは無理やり次の客の部屋へと連れ出されていった。
すでにこの日だけで三組待ちであり、明日以降も休むひまも無く予約を詰め込んでいるのだ。
「まだまだ、こんなもんじゃねぇぞ、慣れてきたら二人や三人の相手もしてもらうし、サドの変態客もあてがってやるさ。お前の娘がボロボロになっていくのを、あの世から悔しがれよ、カルロス」
美味そうにタバコを咥えて、天井に向けて煙を吐き出したロドリゲスは、そこには彼だけが見える誰かがいるように語り始める。
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