淫獣捜査スピンオフ 双極奴隷たちの調教クルージング
【5】ギャラリー&オーナ室
食事のお礼として軽い抱擁とキスで紳士を骨抜きにしたナナは、ヒトイヌ拘束を施したシオを連れて散歩がてらに探索してみることにした。
「あら、これは面白そうね」
見つけた場所をイメージしやすいのは美術館だろう。落ち着いた雰囲気の空間に展示物が置かれてライトに照らされている。
ただ、普通の展示とは大きく違うのは置かれているものだろう。
生きた人間、それも少女や若い女性を様々なポーズで固定したオブジェが展示されているのだ。
固定方法にはいくつかあった。可動式のフレームによって四肢が固定されているものや、人の形に成形された透明樹脂の中に閉じ込められているもの、ギロチン台や磔台のように拘束設備を使ったものなどだ。変わったものの中には人魚の姿で水槽に入れられているものまである。
流動食を与え、排泄物を処理するためのチューブがそれぞれ取り付けられており、長時間にわたって展示物として置かれているようなのだ。
キュレーターと呼ばれる専門の管理人が駐在しており、望むなら乗客も展示に参加できるらしい。
興味深く説明を聞いていたナナだが、最後のそれを聞いて目を細める。
「ホント、面白そうですわね」
その夜、ナナが創作した展示物が片隅に置かれることになった。
大理石の台座の上にいるのは、もちろんシオだ。
ボディスーツ姿を脱がされた彼女は両手を頭の後ろにまわし、がに股で股間をつきだすような姿勢をとらされている。
呼吸と流動食を流し込むチューブを鼻と口端に差し込まれ、排泄用に尿道にカテーテル、肛門には排便用のチューブが装着されていた。
その上、膣内にバイブを挿入され、乳首や陰核にローターを配置され、全身には電動パットがいくつも貼り付けられているのだ。
それらは不定期に出力を変えるように設定される入念さだ。
仕上げには姿勢を維持させるために、前後からラバーの膜でプレスしてみせる。
半透明の膜に押し潰された彼女の無惨な姿が、そこにはあった。
「う、うぅぅ……」
余分な空気が抜かれた膜に挟み込まれて、卑猥なレリーフが完成していた。
苦しげに呻き、身じろぎするたびにギチギチとラバー膜が軋む音をたてる。
だが、密着した膜によって押さえられて指ひとつ動かすこともできないのだ。
「うん、素敵な作品ができましたわね、今夜はこれでおやすみしましょう」
完成した作品を前に、ナナは満足そうに頷いてみせる。
展示品は部屋の真ん中に置かれることとなり、三百六十度、様々な角度から鑑賞することが可能だ。
「それではナナ様、確かに二十四時間、お預かりさせていただきます」
「――んんッ!?」
管理人の言葉にプレスされていたシオが激しく呻いた。そんな長時間も放置されるとは思わなかったのだろう。
だが、なにか喋ろうとしてもただの呻きにしかならず、ラバーの膜がギチギチと音を立てるだけで身体もピクリとも動かないのだ。
「えぇ、お願いするわね。それじゃ、シオ、明日にまた迎えにきますね」
背を向けてカツカツと歩み去っていくナナ。
それを恭しく頭を下げて見送った管理人は、展示品に備えたパネルを操作する。
「んッ、んん――ッ!!」
全身に装着された淫具がいっせいに稼働をはじめたのだ。
その刺激に激しく身を反らそうとするシオであったが、それも膜によってわずかな蠢きと化してしまう。
照明の抑えられた展示場でスポットライトを浴びながら、シオは全身を刺激され、それから長い間、焦らされ続けることになる。
「それにしても、これは見事だ」
年配のキュレーターは作品の背後にまわって感嘆の声をあげていた。
シオの背には、日本でも指折りの有名な彫り師による刺青が彫られてあったのだ。
――鬼女
嫉妬と恨みを込めた般若の面となった鬼女の恐ろしい姿がそこにはあった。
東洋の美術に疎い者でも、その刺青は放つ鬼気迫る迫力には圧倒されてしまうのだろう。
事実、シオが悶え蠢く姿と、それによって蠢く般若の鬼女の迫力は話題となり、展示の延長を頼まれるほど人気を得るのだった。
その後もナナによる調教は続き、七日にして紫堂が合流した。
到着したとの報告を受けてスーツ姿に戻ったナナは、船旅を満喫して晴々とした笑顔を浮かべていた。
「終わってみれば、あっという間でしたわね」
「……そうかもね」
その横を歩むボディスーツ姿にシオも淡々とだが応えていた。
「また、元に戻ってしまってるわね。責められている時は、あんなにも可愛らしいのに勿体ないわね」
結局のところ、調教でシオを変えることなどは出来なかったが、提案してきた支配人や紫堂には別の思惑があるようだったのだ。
今は日頃の鬱憤が少しでも晴らせたことで良しとするのだった。
「来たようだな」
船オーナーの私室へと案内されたふたりを、応接セットに座っていた紫堂が立ち上がって出迎えた。
白スーツの似合う精悍な顔立ちの男だ。その落ち着いた物腰と背後に支配人を従わせている姿から遣り手の資産家といった雰囲気を感じさせる。
だが、ノンフレームのメガネ越しに見える鋭い眼光が、彼もまた裏社会の人間であると認識させられるのだ。
(おや、珍しいわね)
紫堂がいつになく上機嫌だった。
恐らく船オーナーとの交渉が上手くいったのだろう。ふたりを近くまで招き寄せると、テーブルを挟んで座っている人物へと紹介する。
肥大した肉の塊のような大男が、そこにいた。三人掛けのソファがまるで子供の椅子のように小さく見える。
手にしたバケットから鶏の丸焼きを掴み取ってはムシャムシャと頬張るのだが、彼のグローブのような手が握ると丸焼きがフライドチキンに見えてしまう。
その怪異な姿におもわず言葉を失うが、ナナはその人物を知っていた。
――剛田 剛士(ごうだ たかし)
金融業からはじめ、通信業界まで手を広げた資産家だ。
彼は自ら買収と統合を繰り返して作り上げた巨大通信網から様々な情報を抜き出せると噂されている。
それによって世界中の様々なスキャンダルを掌握しており、交渉後とを有利に進め、各国のパイプを強めて不動の権力を握っているというのだ。
「船に滞在している間のお前たちの姿を剛田氏にも楽しんでもらえたようだ。お陰で交渉も上手くいったよ」
紫堂の言葉で、合点がいった。カメラの先には剛田がいたのだ。
彼と紫堂がどんな交渉をしたのかはうかがえないが、ふたりの様子からそれは成功して良好な関係を築けたようだ。
駄肉に埋もれそうな目を細めて好色の視線を注いで露骨な視姦をしてくるのだが、紫堂も支配人も気にする様子もない。
それにイチイチ気分を害するような柔な精神をもっていないナナではあるが、やはり気分はよくない。
「それはお役に立てたようで良かったですわ」
半分以上はナナが予想した展開であった。だが、どうにも嫌な予感が先ほどからしていた。
そして、その予感も正しいことがすぐにわかることになる。
「それでだな、今度はシオがナナを責めるところを見たいそうだ」
「……は?」
ナナとシオをいたく気に入った剛田は、立場を入れ換えたケースも見たいと提案してきたらしい。
それによって交渉では随分と良い条件を得られたようで、紫堂の機嫌がひときわ良いのはそれが理由だったのだ。
「いや、ちょっとまって……」
「なにを慌てておる。散々楽しんだのだから、良いではないか」
いつの間にか背後にまわったのか後ずさりするナナの方を支配人がガッシリと掴んでいた。
拒否権の発動も今回ばかりは無しだと紫堂にも先に釘を打たれてしまう。
進退窮まったナナの前にスーっとシオがやってきた。
「大丈夫よね、終わってみればあっという間……でしょう?」
いつもと変わらない淡々とした口調だが、すでに調教師としてのスイッチが入っているのか、その瞳にはゾクッとするような冷たい光が宿っていた。
それから七日間、ナナは自らがシオへと施した責めと丸々受けることになるのだった。
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