年下の彼女はツインテール(バッドエンド2―2−2)'
【4】どうにか慌ただしい日常が戻ってきました
自宅であるボロアパートの前で開放された俺とノノは、一息つくと買い物に出ていた。
一週間以上も外出していたから、多くの食材が駄目になっていたからだ。
(それに、旨いもんでも食べさせて元気にしてやりたいしな)
結局、このアパートから出かけた時から変わったのは、排泄管理栓を管理する相手だけだ。
管理者が政府に変わったことで、陰謀に関わり大勢の人を殺めるようなことは無くなるだろう。
だが、連中がノノの能力を遊ばせるようなことはしないだろう。どんな無理難題を押し付けてくるかわかったものではないのだ。
今度は倒せば解決するような相手ではない。慎重にことを進める必要がある。
そのための具体的な策があるわけではなかったが、小さな恋人を守ろるためなら出来ることは何でもしようと心に決めていた。
(それに、なんかノノが元気がないんだよな)
温泉宿から連れ去られて、一度別れてから様子がおかしかった。
一緒だった他のメンバーに聞いてもはぐらかされるだけで、なにがあったか教えてくれないのだ。
(聞かないでそっとしてやる優しさもあるんだろうけど……こうもションボリしてるとな)
一応、俺が話しかければ反応はするし、笑いもしてくれる。それでも、一緒にいる俺にはノノが元気がないのがわかってしまう。
少しでも気が紛れるように商店街をまわり、ウィンドウショッピングなどしてみたが、あまり効果はなかったようだ。
もうまわれるところもなくなり帰路につくと、横を歩くノノがギュッと俺の腕を掴んできた。
「どうした?」
「……ノノに、ご褒美をくれる約束でしたよね?」
室斑との直接対決の前に、ノノと約束していたことを思い出す。
その後はドタバタしていたために二人になる機会もなく有耶無耶になっていたのだ。
「あぁ、なにがいい? なにか食べたいものとかあるか?」
ノノが元気になるのなら外食や遠出をしても良いかもしれない。
そんなことを考えながら膝を屈めると、俯くノノに問い掛けていた。
すると、答える代わりに彼女の両手があがり、小さな手が俺の頬を挟み込んできた。
怪訝に思っている間にノノの顔が近づき、柔らかな唇が重ねられていた。
「――ッ!?」
大胆なノノの行動に驚かされたものの、その勇気を拒むようなことはしない。
背に手をまわして抱き寄せると、唇の隙間に舌先を差し入れてみせる。
「んッ……うふ……ん、んふぅ」
舌を絡めめて相手の粘膜を舐め合ってみせる濃厚な大人のキスを交わした。
湧き上がる興奮で抱きしめる手にも力がはいる。ノノの小柄で華奢な身体を感じながら、さらに口づけをしていく。
「ん、んんぅ……」
呼吸することも忘れて道端でキスを交わし続けていた俺たちは、相手の確かな温もりを感じながら喜びに打ち震えていた。
飽きることなくキスを繰り返した俺たちは、ようやく唇を離す。
ふたりの間を唾液の透明な糸が繋ぎ、その先には激しく瞳を潤ませた高揚したノノの小顔があった。
「……ご褒美は、これだけですか?」
恥ずかしげに頬を赤らめながらも、ノノは俺をジッと見上げて唇の感触を確かめるように指先で触れてみせる。
夕日を浴びながらみせる彼女の仕草が妙に初々しく、それでいて艶めかしい。
俺の理性による静止を振り切って暴走するには充分な魅力をもっていた。
「――えッ?」
買い物の荷物を持ったままノノを抱き上げると、驚くノノを胸に抱えて一目散に駆け出していた。
畑のど真ん中にポツンと建つ一軒のアパートがすぐに見えてくる。
昭和の香りが漂う木造建てで壁の薄いボロアパートだが、今や俺とノノしか住んでいない。猛る気持ちを発散するには支障がなかった。
「あれ……先輩?」
俺には担ぎ運ばれて嬉しそうに胸に顔を埋めていたノノだが、突然、俺が立ち止まると怪訝そうに顔をあげてくる。
目の前のアパートの前に何台ものトラックが停まっていたのだ。その周囲には荷物を抱えた人々が行き交って騒然としていたのだ。
「な、なんだぁ?」
彼らは引っ越し業者だった。様々な動物のマークが描かれた荷台から、大量の荷物を競うように運んでいるのだ。
「あッ、やっと帰ってきた」
その光景を前にして呆然としていた俺たちに、声を掛けてきたのは唐木田だんだった。
動きやすいジャージ姿で、両手でダンボールを抱えている。
「今日から私たちも一緒に住むことになったから、よろしくね」
「……私たち?」
眉をひそめているとトラックの影から黒人女性と金髪碧眼の女性の顔もひょっこりとでてくる。
「教会ごと住処を焼き払われたシスターふたりは引っ越してきた理由はまだわかるけど、唐木田さんは実家住まいでだろう?」
一週間以上も連絡がつかず失踪していた彼女だが、弐式さんが上手く情報操作をして口裏を合わせていたようだ。
「重要な事件に関わって政府の方でしばらく保護させてもらいます……だってさ」
どうやら関係者を一箇所を集めてまとめて監視しようという腹積もりのようだ。
だが、一応外出への制限もなく学校にも通えて実家にも顔をだせる。彼女自身は親の目を逃れて悠々自適に生活できると呑気に笑ってみせる。
だが、お陰でノノの気が紛れるのなら随分と助かるのも事実だった。
それは今回の件で親しくなったシスターたちも同様だ。
(ただ、また騒がしい日々でふたりの時間が確保出来なさそうなのが残念かな)
俺の腕からノノを奪い取って激しいスキンシップをしてくる唐木田さんに振り回されるノノを見ながら、俺は苦笑いを浮かべていた。
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