年下の彼女はツインテール(バッドエンド2―2)

【6】ちょっと勝てる気がしないです

「それにしても、ここの温泉いいでしょう。人は少ないし静か、下界のことも忘れられる」

 呑気にくつろいでみせる弐式さんに、少し苛ついてしまう。

「お陰様でゆっくりできたけど、こうも情報が遮断されていると、そろそろ状況が知りたくてしょうがないけどね」

 携帯の電波が届かないだけでなくテレビのニュースや新聞といったものから今回の件は遮断されていた。
 そのくせバラエティ番組などの普通の番組はみれる。どうやらリアルタイムで映像を吟味して、今回の事件に関する情報だけを省いてこちらに流しているようなのだ。
 シスター・ショコラの話では、EOSの処理能力を使えばそんなことも可能らしい。
 そのことから、室斑の企みは失敗したのは確実のようだ。

「そう目くじらを立てないで下さいよ、僕も宮使いの身分ですからね、上司のわがままに付き合って大変なんですよ」

 飄々とした雰囲気からは、とても大変そうには思えないが、この食えない男を管理している上司がいるなら拝んでみたいものだ。

「それでですね、この一週間は後片付けに奔走してましてね、ようやく貴方がたの処遇も決まりましたよ」
「――ッ」
「あぁ、この件にはお父上にも感謝してあげて下さい。いろいろと上と掛け合ってくれたみたいですよ」

 そう言って、まずは全員で集まりましょうっと大広間に連れていかれた。
 浴衣姿でノノと廊下を歩きながら、お互いの手を強く握り合う。
 収容所に収監されるとなった場合、男女は分けられてノノとは引き離されるだろう。
 そうなった場合に、ノノが素直に従うとは思えない。俺も暴力組織を率いる親父の力を借りてでも阻止する腹づもりだった。

「さぁてと、皆さんお集まりいただいたところで、ご説明をさせていただきます」

 企業のプレゼンテーションよろしく、室内が暗くなったとともに背後に映像が表示される。
 だが、全員が浴衣姿となると、どうにも締まらず、雰囲気はまるでビンゴゲームでも始まりそうな絵面だ。

「はい、こちらに注目ください」

 表示されたのは一連の事件に関する報道をまとめたものだ。
 どうやら都内に潜んでいた架空のテロ集団を逮捕するための騒動だったと演出されたようだ。
 見たこともない厳つい顔の男たちが逮捕されていくのが映っていた。

「あー、彼らは別件で潜んでいた国際的な窃盗団のメンバーですね」

 ろくな武装もしていない彼らのアジトにドローンの重機関銃が火を吹き、特殊部隊が雪崩込んでいく。圧倒的な武力で圧倒されて、一方的に制圧されていく姿は哀れにみえてしまう。

(だが、一歩間違えたら、俺らも同じになっていたわけだ……)

 このときの撃退で死者を出さなかったのが彼の上司の印象を良くしたらしい。
 本来なら潜在的なテロ要員として隔離された後に厳重に監視されるのを免れたようだ。

「とはいえ、無罪放免とはいきません。管理はせよとの厳命で、ここは上司も譲れませんでした」

 どうやら、その管理にEOSと排泄管理栓をそのまま利用するつもりらしい。
 もちろん今までの罰則的な使用は極力避けるつもりで、定期的な排泄も許可される。
 ただし、逃亡や潜伏を避けるために対面でのセラピーと身体検査も兼ねて排泄させるつもりなのだ。

「それって、前みたいに機械で排泄させられる訳じゃなくって……」
「はい、医師らによって浣腸を施して、腸内の隅々まで異常がないかチェックされます」

 その返答にシスター・シフォンと唐木田さんは落胆した様子だった。

「アナタは大丈夫なんですか?」
「べつにタダで検査してくれるって言うんだ、良いじゃないか」

 豪快に笑ってみせるシスター・ショコラの横で、絶望して涙目になっているふたりが対照的だった。
 ちなみに残るノノとは言えば「ん? 先輩が気にしないなら大丈夫ですッ」っとケロッとしていた。
 彼女もまた価値観が特殊で、俺も医師を相手に嫉妬するつもりもなかった。

「あぁ、俺も大丈夫だが、もし変なことをされたら教えろよ」

 正体不明だった結社と違って、相手が明確なら俺も我慢するつもりはなかった。

「ははは、キミもなかなか怖い顔をするねぇ、そんなキミにプレゼントです」

 手渡されたのは例のコントローラーだ。タッチパネル方式の画面に表示されているメニュー項目のいくつかがグレーになって無効化されている。

「悪いけど、いくつか機能制限させてもらってますが、腸内ガスの排気はできるから安心して下さい」

 そのうえ、このコントローラーはバイオ認証でもう俺にしか扱えないらしい。これを使って彼女らを管理しろということだろう。
 その上、今後は不定期ながら弐式さんの仕事を手伝えというのだった。

「キミは意外に真面目だからね。彼女らの体調に異変がないか確認して欲しい。あぁ、彼女ら自身にも音声入力で体調を報告させるのもお忘れなく」

 管理期間に問題がなければ排泄管理栓も取り外され、手伝ってもらった分にはボーナスが支払われるらしい。
 そう説明を終えた弐式さんは帰り際に、「酔った黒猫にはご注意を……」と俺だけに耳打ちした彼は、まるでなにかから逃げるように慌ただしく去っていった。

「でも、結局は排泄管理栓という首輪はつけられたままで、その管理者が変わっただけな気がしてならないけどな」
「まぁ、いくら考えたって今は状況が変わりはしないんだ。ひとまず、収容施設に放り込まれなかったことを喜ぼうじゃないかね」

 シスター・ショコラは深刻そうな顔をする俺の肩をバンバンと叩いてニッと笑ってみせると、そのまま首根っこを掴んで歩き出す。

「さぁ、アンタらも行くよ」
「ちょ、ちょっと待ってッ、何処にいくんですか……って、アンタ、ちょっとアルコール臭いぞ!?」

 食事のときも、お酒を飲もうとしてはシスター・シフォンに取り上げられていた。
 どうも酒癖が悪いらしく、なんども釘を刺されていたのだが、どうやら隠れ呑んでしまったようだ。
 そんな彼女に凄い力で引きずられていったのは、先ほどまでいた露天風呂だった。
 あっという間に裸にされると、抵抗する間もなく湯船へと放り込まれる。
 溺れそうになって浮き上がったところに、全裸になったシスター・ショコラが飛び込んできた。

「がはッ、ちょ、ちょっと待って……」

 溺れかけながらも再び浮き上がったところに、今度はノノまで飛び込んでくる。
 まるでプールサイドのようにはしゃぐシスター・ショコラを、脱衣所から残るふたりが恐る恐る覗いていた。

「まったく、いつも通りお酒が入ると滅茶苦茶ですね」
「いやいや、混浴とかアタシは無理ですからッ」

 逃げ出そうとする俺を無理やり隣に座らせたシスター・ショコラがふたりに声をかける。

「何をいまさらテレてるんだい、ふたりともすでに見せるもの見せてるんだろう」

 唐木田さんは前の事件のときに救出時に裸を見ている。シスター・シフォンにいたっては自ら下半身をさらして肛門まで見せているのだ。
 それらは、不可抗力であり、当人が見せたくてやったわけでもない。

「この国では親しくなるのに裸の付き合いがってヤツで親睦を深めるんだよね」
「いやいや、男女では使わないから」

 黒豹のように筋肉質だが滑らかな裸体が密着して、爆乳と呼ぶの相応しい膨らみが背中に押し付けられる。
 その感触に赤面しつつも肉体は健全に反応してしまう。
 その元気になった下半身を黒肌の手が握ってくる。

「へぇ、結構、立派なのを持ってるじゃない」
「はぅ、や、やめ……」

 男のツボを押さえた指使いに翻弄されて、俺はピクリとも動けなくなる。

「へーぇ、止めてとは身体は言ってないみたいよ」

 甘い囁きとともに熱い吐息が耳元に吹きかけられる。
 それだけで、果ててしまいそうだった。
 そんなピンチの俺の前にノノがユラリとたっていた。

(あッ、マズイぞ、これは……)

 目が完全に据わっていて、これはキレる寸前の兆候なのだ。

「やっぱり先輩は大きい方がイイんですねッ」
「そりゃ男なら当たり前だよなぁ」

 背の高さと胸の大きさを密かに気にしているノノに、背後から油を注ぐように茶々がはいる。

(こりゃ、親睦を深めるどころか破滅だよ)

 ケラケラと笑うシスター・ショコラに顔を突き合わせて、もはや一発即発の状態だ。
 次の瞬間にはノノの攻撃が彼女の命を断っているだろう。
 そう思わされた次の瞬間、ニッと笑ったシスター・ショコラが目の前の唇を奪っていた。

「――んんッ!?」

 突然のことに目を白黒させてパニックになっていた。
 口腔に潜り込んだ舌先が触手のようにノノを蹂躙する。とっさに逃れようとする顔を押さえつけて、さらに凄いキスの音が響き渡る。
 暴れていた小柄な身体から次第に力が抜けていき、最後にはダランと弛緩してしまう。
 放心状態となったノノを俺に預けて満足そうに口元を拭うシスター・ショコラに、ついに脱衣所で容子を見ていたふたりが咎めに来てくれた。

「まったく、なにやってるんですかッ」
「そうですよ、ジョークにしては悪質です」

 流石に俺の前で全裸になるのは恥ずかしいのか、身体にタオルを巻きつけた状態だ。
 それに金色の瞳がキランと光ると、止める間もなく彼女らから素早くバスタオルを奪い取って、混乱に発車をかけていった。

「今度はふたり、相手してあげるわ」
「ちょ、ちょっと、やめ……あぁぁン」
「もぅ、アナタは気を許すとこれだから……くぅぅン、は、離しなさい」

 巨体を活かしてシスター・シフォンと唐木田さんを背後から抱え込み、その乳房を揉みあげながら首筋に舌を這わせていく。
 どちらかというと理知的な人かと思っていたシスター・ショコラだが、どうやら俺の勘違いだった。
 アルコール臭を漂わせた彼女の眼差しは獲物を前にした肉食獣のようだ。
 手中におさめた獲物を嬲り、悶える姿を堪能する。
 舌舐めずりしては、ニタリと笑うさまは完全に悪役顔そのものだった。

「あはは、愉しいねぇ」
「もぅ、滅茶苦茶だぁ……」

 眼の前にいる人物は、解き放っていけないモノのようだ。弐式さんの帰り際の忠告は、このことだったのだ。
 グッタリとして抵抗しなくなったふたりを小脇に抱えて、意気揚々と湯船を出ていく。

「アンタらも、よかったら相手してあげるよ」

 ペロリと舌舐めずりしながら金色の瞳が俺の下半身に向けられる。
 俺は手で股間を隠すと、すぐさま辞退を伝えていた。

(すまない、助けられそうもない)

 人身御供となったふたりに心の中で手をあわせて謝罪すると、気を失っているノノを抱えながら、彼女には二度と酒を飲ますまいと硬く誓った。
 それから彼女らは部屋に籠もったままで、再び顔を合わせたのは翌日の夕方だった。
 満足そうな黒人女性とは対照的にゲッソリしたふたりに恨めしく睨まれて、俺もノノも申し訳なさに視線を逸してしまう。
 あとで弐式さんに聞いた話だが、シスター・ショコラは気に入った相手なら男女構わず寝取ることから”両刀遣いの黒猫”という不名誉な二つ名が付けられていたと聞かされた。


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