年下の彼女はツインテール(バッドエンド2―2)'

【4】先輩がいてくれれば負けないんですよ

 普段は学徒たちで賑わう帝都大の敷地は物々しい雰囲気に包まれていた。
 壮厳な鉄門をそなえた正面ゲートの左右には装甲車両は配置され、上部に装備された重機関銃が月明かりを浴びて冷たい光を放っている。
 その周囲にもバリケードを設置されて、着々と防衛線が構築されつつあった。
 さらに兵員輸送車が次々と停車しては、増員の兵士らを降ろしていくのだった。
 その光景を近くのビルに潜む唐木田さんが望遠カメラで捉えて、こちらに送ってくれていた。
 その映像は指向性の高いレーザー送信によって送られて、上空で停滞している飛行船タイプのドローンを経由して、俺の元まで送られてきていた。

「凄い兵士の数ですけど……本当に行くつもりなんですか?」

 逃走用の車で待機しているシスター・シフォンが同じ映像を見て心配そうに声をかけてくる。
 映像は移り変わり、今度は立ちこめる朝靄の中でゲートへと向かう一台の車両を映す。その濃緑の塗装が施された軍用車に搭乗しているのは俺とノノ、そして弐式さんの三人だ。

「大丈夫だって、僕に任せて大船に乗った気でいてよ。さぁ、そろそろ着くから威厳あるようにビシッとしてね」

 ハンドルを握る彼と俺は軍服を着ていた。俺は少尉、弐式さんは中佐の階級章を付けているのだが、どうにも軍服姿が様になっていない。
 だが、すでにゲートは目の前だ。いまさら引き返したら怪しまられる。
 覚悟をきてめ軍帽を深々とかぶり直すと表情を改める。

「よく似合ってますよ、先輩ッ」

 俺の足元に潜んでいるノノだけは、この状況を愉しんでいるようだ。軍服姿の俺を見上げながら妙に鼻息を荒くしている。

「あとで軍服姿を写真を撮らせてくださいねッ」

 何度も念をおしてくる無邪気なノノのお陰で緊張もほぐれてきた。
 停止した車両がライトに照らされて、士官らしき兵士が歩み寄ってくる。
 運転席に座る弐式さんの階級章を目にした彼は、緊張した様子で敬礼してきた。

「失礼ですが、身分証を確認させていただきますッ」
「あぁ、ご苦労さん。キミらも朝早くから駆り出されて大変だね」

 応対する弐式さんは緊張というものとは無縁のようだ。
 気さくに話しかける彼に相手の士官は反応に困ったように苦笑いを浮かべながら、背後にいる部下に受け取ったカードの確認を急がせる。
 その顔には、目の前の佐官に対する疑惑の眼差しがありありと見える。
 それに気にした様子もなく軽口を吐き続ける弐式さんの豪胆さには、もう舌を巻くしかない。
 しばらくして慌てた様子で先程の兵士が戻ってきて士官に耳打ちするに至っては、見る見る険しくなっていく兵士らの顔に俺の緊張も限界を迎えそうだった。
 だが、幸いなことに俺が予想した最悪な事体にはならなかった。

「お待たせして、失礼しましたッ。お通り下さいッ」

 なぜか周囲の兵士らが一斉に直立不動の姿勢をとると敬礼してきたのだった。
 その光景にア然としている間に、車両は開かれた鉄門を抜けて敷地内へと進んでいった。

「ねぇ、僕の言ったとおりに大丈夫だったでしょう?」

 狐に化けされた気分で間抜け顔をさらす俺を弐式さんは面白そうに見ていた。

「だけどねぇ、僕の魔法が効くのはここまでさ」

 大学の敷地内は閑散としていた。早朝ではあるが泊まり込みの研究者や警備の兵士らの姿すらみあたらない。
 妙に静まり返っているところが不気味だ。

「どうやら今回の一件の真相を知るのは、ごく一部の者だけのようだね。信頼できる手駒以外には秘密を漏らさないように動員した一般兵は敷地の外に配置している訳だね」

 その為に、敷地内に配備できる人員は限られてしまっているのだろう。
 その代わりに番犬代わりの鳥足の二足歩行のドローンが徘徊しているのが霧の中に影として認識できた。

「二、三……六台……結構、いるなぁ」

 全長三メートルの巨体に機銃やグレネード、火炎放射器まで装備している厄介な相手だ。
 それが時速百キロ近い速度で迫ってくるのだ。

「うーん、大丈夫だと思いますよ……エヘへッ、先輩がご褒美くれるなら、ノノは頑張っちゃいますッ」

 潜んでいたノノは俺の膝の上にチョコンと座り、なにか期待する眼差しで見上げてくる。
 そのキラキラした瞳を向けられるのが、どうにも俺は弱かった。
 気恥ずかしさにボリボリと頬をかいてみせた俺だが、目の前の小さな頭を優しく撫でてやる。

「わかったよ。なんでも言うこと聞いてやるから、怪我せずにクリアしてこいよ」
「――はいッ、やったーッ!!」

 スルリと窓から抜け出たノノは、芝生の上を疾走して、益々濃くなってきた霧の中へと消えていった。
 それを検知した鳥足ドローンが、ガショガショと駆動音を響かせて周囲から三メートル近い長身を駆使して追撃を開始する。
 その数は次々と増して、学園中に配置された全ドローンが集まってくるのに時間はかからない。
 だが、いつの間にか張り巡らされた綱糸によって長い脚は絡めとられ、動きが止まったところを飛鍼がカメラとセンサーを貫いていった。
 特殊装甲を誇る最新鋭の戦闘メカも脚を封じられて装甲で覆われない部位を狙い撃ちされてはたまらない。

「はーぁ、これは噂以上に凄いね。大幅加点で修正しないと駄目ですね」

 霧の中で小さな影が縦横無尽に飛び交う。そのたびに強力な火器を装備している無人メカが発砲もできずに、次々と戦闘不能にされては巨大なオブジェと化していく。
 その一方的な光景に、弐式さんは車両を停めて興奮した様子をみせていた。

「しかし、対する鳥隼の方は情けないね。やられ方がパターン化してきても対応もできていない。情報の共有が上手くできてない証拠ですね、進歩しないドローンなんて大幅な減点で、評価項目から見直すべきですよッ」

 ノノの活躍に歓喜をあげて、ドローンの不甲斐なさに嘆息する。まるで二重人格のようにコロコロと表情がよく変わるものだと脇で見ていて関心してしまう。

「おッ、どうやら今のでドローンは打ち止めらしいですね。十二台も配備して十分そこらか……なるほどね」

 なにやら手帳に書き込んでは、ひとり納得している。
 その間にもノノは歩みを進めてEOSのある建物へと侵入を果たしていた。
 すぐさま中から断続的な銃撃が聴こえはじめた。

「――まずいッ」
「大丈夫だよ。外にいる彼らは入ってこれない。そう命令されているだろうからね」

 敷地の外を警備している兵士らも異常に気づいているようだが、その言葉通りにその場から動けずにいた。
 しきりに無線で状況を把握しようとしているようだが、連絡が取れずに混乱に発車が掛かっていたのだ。

「残念ながら、アレのお陰でこの一帯は電波が使えないんだなぁ」

 彼が指差す上空には、飛行船タイプのドローンが停滞していた。
 それが妨害電波をだしているのだろう。有線を使うか、俺らのように光学式の通信をおこなう必要があるのだ。
 だが、それも濃くなっていく霧のせいで光学式の方も怪しくなってきていた。
 すでに室内に入ったノノとは接続が途切れており、今の状態を確認できないのは不安であった。

「そんなに心配しないでも、彼女の戦闘能力なら制圧できると僕は思うけどね」

 たまらず車両を降りて駆け出した俺にヤレヤレと首を振りつつも、ついてくるあたり弐式さんも付き合いがよい。
 そして、俺の不安は残念ながら的中してしまう。内部へと駆け込むと床に倒れ込んでいるノノの姿が飛び込んできたのだ。
 巨大な機器がズラリと並ぶ大部屋で、切断された銃器や昏倒させられた兵士たちが床に点在している。
 その中で唯一、室斑少佐だけが立っていた。
 軍帽が脱げ落ち、乱れ髪でゼェゼェと息を見出した彼は、目の前で倒れているノノを怒りの形相で見下ろしているのだった。

「ふ……ふはははッ、どーだーッ、腹を限界まで膨らまされて苦しいだろうッ」

 どうやら排泄管理栓に搭載されている空気浣腸の機能を使われてしまったらしい。
 いくら銃弾すら避けるほど素早く動けるノノも、身に付けさせられた器具からは逃れようもない。
 悶絶させられたノノの身体は、漆黒のボディスーツ越しでもわかるほどに下腹部が膨れてしまっているのだった。

「うッ、うぅぅ……ぐあぁぁぁッ」
「ふ、うふふ……どんどん膨らんでいくな。まるで妊婦だな」

 膨張を続ける腹部を抱えてノノはのたうちまわる。
 その様子を魅入ったように見つめる室斑は、手にしたコントローラーを操作して空気浣腸を続けていた。
 その行為に没頭するあまり遅れて入ってきた俺らに気づいていないようだ。
 こちらを見ることもなく、残忍な笑みを浮かべてズカズカとノノへと近づいていく。

「くッ――まずいッ」

 ゴツい軍用ブーツの靴底で膨れた腹を踏みつけるつもりなのだ。
 高々と上げた足を振り下ろす瞬間に、間一髪で滑り込んだ俺が割り込むことに成功する。
 勢いよく下ろされた足が俺の背を踏みつけて、おもわず痛みに呻いてしまう。

「ぐぅッ」
「うぅ……せ、先輩?」

 苦しげに表情を歪めるノノを見下ろしながら俺は微笑みかける。
 その間にも背中をドカドカと蹴られ続けたが、痛みより間にノノを守れた安堵が大きかった。
 大きな体躯を駆使してノノの全身を守るように覆いかぶさる。

「な、なんなんだ貴様はッ!?」

 突然、割り込んできた邪魔者によって愉しみを取り上げられて、室斑は目を血走らせて激高していた。
 ついには腰のフォルスターから自動拳銃を抜き出すと、その銃口をこちらに向けてきた。

「先輩……どいて……」
「ダメだ、隠れていろ」
 
 ガチリっと撃鉄が起こされる音に、俺も覚悟を決める。
 だが、続いて銃声が鳴り響いても俺の身体には痛みがなかった。
 続いて聴こえきたのは大きなため息だ。
 恐る恐る顔を上げて見えたのは、煙の立ちこめる銃を構える弐式さんと、痺れた右手をおさえて呻く室斑の姿だった。

「あまりの見苦しさについ撃ってしまいましたよ。僕は銃が苦手なんですから次は眉間に当たっても知りませんよ」

 メガネのブリッジを中指で押し上げながら語る弐式さんだが、その顔立ちからかどうにも不真面目に見えてしまう。
 だが、弾き飛ばした銃を拾うときさえも、銃口はピタリと相手の眉間を狙ったままだ。

「な、なんなんだ貴様はッ!?」
「見ての通り中佐ですよ。まったく上官に対する口がなってませんね」

 これみよがしに肩に付けた階級章を見せつけるのだが、威厳を感じさせないので効果はイマイチだった。

「ふざけるなッ、貴様のようなフザけた軍人がいるものかッ」

 軍人の家系の生まれ故に、弐式さんのようなフザけた態度が気に入らないのだろう。
 銃口を向けられながらも、額に血管を浮かせて罵りだした。それを涼しい顔で弐式さんが受け流すものだから、それは益々ヒートアップしていった。
 傍からみても関心するほどバリエーションに富んだ罵詈雑言だったが、とても効果があったとは思えない。

(……まてよ、この感覚に覚えがあるぞ)

 そのまるで子供が癇癪を起こしたような怒る反応には思い当たる節があった。
 テロ行為が過激さを増す中で指令を拒絶したノノに対して、ある時からそれまでの長期における排泄管理だけでなく執拗な空気浣腸を施すようになったのに雰囲気が酷似していた。 

「……お前かぁ」

 気がつけば目の前にあった襟首を掴みあげていた。

「ぐぅ、なにを……がはッ、や、やめろッ」

 暴れた手脚が当たるが怒りで我を忘れていた俺には関係ない。
 つま先が床から離れて、ギリギリと首を締め上げていくと抵抗も次第に弱まり、室斑の顔色が赤く染まっていく。

「フーッ、フーッ……とっとと死んどけッ」

 茹でダコのように真っ赤になっていた室斑の顔が今度は青くなっていく。
 それでも俺の力が弱まることはなく、完全に殺意に呑まれていた。
 そんな俺の腕に優しく触れるものがあった。小さく温かな手が置かれていたのだ。

「先輩……もぅいいですから……」

 苦しげに表情を歪めながらもノノが俺に縋りついていた。

「…………ノノ?」
「あぁ、良かった……先輩が……戻ってくれた……」

 白眼を剥いて泡まで吐きはじめた室斑の放って、慌てて崩れ落ちそうになるノノを抱きとめる。
 腕の中でグッタリしたノノの軽やかで華奢な身体を改めて目にする。
 愛用の漆黒のボディスーツは肢体に密着しているが故に、お腹の膨らみの異常さが際立っていた。
 妊婦のように腹部を膨らまされて、流石のノノも顔を青ざめさせていた。
 我慢し続けていた便意の方も限界なのだろう。苦しそうな息遣いとともにガクガクと震えが止まらなくなっていた。

「すまんッ、すぐに楽にしてやるからな」
「これを使ってください。でも、ここにはすぐにでも兵士が来ますから、すぐに離れた方がいいですね」

 コントローラーを手渡した弐式さんは、表に止めてある軽装甲機動車を指差す。
 半ば強引に車両に乗せられた俺は、バタバタと近づいてくるローター音に気づいた。

「弐式さん、アンタは……」
「さぁ、行ってください。僕には残ってやることがありますから……あぁ、困った顔をしないで下さいよ。なぁに、すぐにキミたちに会いに行きます」

 濃霧を切り裂くように軽装甲機動車が走り出すと、バックミラーには上空に停滞した二機の垂直離着陸機の巻き起こす風の中に立っている弐式さんがみえた。
 強力なライトで照らされた彼の周囲には、リペリングで次々と黒尽くめの兵士らが降りてくる。
 そのままアクセルを踏み込んで加速した俺は、正面ゲートの強行突破を覚悟していた。
 だが、そこはすでに撤退の準備をしており、止められることもなく素通りできてしまった。

「よし、ノノ、あとは二人と合流するだけだからな、せめてトイレに行く前に排気だけでもしておくか?」

 助手席で苦しげに呻いているノノの姿に狼狽していた俺は、持ってきたコントローラーを操作してみる。
 タッチパネル式で操作は簡単だった。すぐに実行ボタンをタッチする。

「……あッ、い、今はダメですッ」

 排泄管理栓の稼働を感じて跳ね起きたノノは、慌てた声をあげた。
 だが、稼働しだしたものは途中で止められない。カシュっとスリットが開いた音が微かに聴こえていた。

「あぁ、ダメェぇッ」

 ノノの絶叫とともに、溜め込められた腸内の空気が排気されはじめる。
 その音は蓄積されていた量に比例して音量をあげ、長らく排泄できずにいた分の匂いもまじり強烈なものだった。
 それが締め切られた車内で開放されたのだから堪らない。その予想外に凄まじい威力に俺の意識は飛ばされてしまうのだった。


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