年下の彼女はツインテール(バッドエンド2―2)

【3】こう見えても、襲撃には慣れてるんです

 窓の外にフワフワと浮かぶ物体があった。ローターを仕込んだ円盤の下に重機関を吊り下げている軍用ドローンだ。
 噴煙が立ち上る銃口の脇に並ぶグレネードの射出口がこちらへと向けられていた。

「マズいぞッ」

 四十ミリのグレネード弾が射出されるのがスローモーションのようにゆっくり見える。
 射出口から頭を出してきた弾頭だが、次の瞬間にはカカンッと乾いた音とともに複数の飛鍼によって射出口ごと串刺しにされていた。
 すぐさま閃光とともに耳をつんざくような轟音が響く。爆散したドローンの破片が身を隠していたテーブルで跳ね返っていた。
 再び、顔を上げた時には、目の前の壁は爆風によって跡形もなく吹き飛んでいた。

(鉄板入のテーブルが役に立ったな)

 いざという時のためにとシスター・ショコラが仕込んでいたものだ。
 それだけでなく、様々な仕掛けが敷地中には施されている。
 そのひとつである床下の脱出経路への入り口をシスター・シフォンが開いていた。
 俺と頷きあうと唐木田さんを連れてスルリと中へと身を滑り込ませていった。

(さーて、襲撃がドローンだけ……て、はずもないよなぁ)

 次にくるとなると制圧部隊だろう。襲撃も何度か経験しているので、この先の行動もある程度は予測ができてしまう。
 予想通りに見晴らしのよくなった壁側から催涙弾が次々と放り込まれてきた。カラカラと転がりながら白煙を吹き広げて、すぐに視界が白く染めて奪おうとする。

「先輩ッ」
「おぅ、こっちは任せろッ」

 あらかじめ持ち歩いていたゴーグルを装着すると壁の穴から飛び出していくノノとは別方向に動き出す。
 ズッシリと重い鉄板入りのテーブルを強引に持ち上げて、部屋の入り口を封鎖するのだ。
 手慣れた連中なら、すぐに爆薬で壁にも穴をあけて突入してくるから、ほんの気休め程度にしかならない。
 だが、そのわずかな時間を稼げればノノには十分だった。
 外からは聴こえていた銃声と怒号、そして悲鳴が徐々に移動していく。

「とはいえ、今回ばかりは不利かもな……」

 別の窓から覗き見ると、アームで持ち上げられた照光器が点灯して、周囲は真昼のように明るくなった。

「うへぇ、流石は正規部隊だ。堂々としてらっしゃる」

 今までの隠密行動が基本だった敵とは違い、相手は国家軍事力の象徴である陸戦部隊だ。
 区域を警察に封鎖させて、眼の前の通りに装甲車両で乗り付けていた。
 車両の搭乗口が開くと完全武装した兵士らが次々と降り立って陣地を形成する。
 上空には先ほど破壊したのと同型のドローンが集まってきており、完全に包囲されている状態だ。

「先輩ぃッ、たっだいまですぅ」
「おぅ、お帰り――げふッ」

 勢いよく胸に飛び込んできたノノの衝撃を殺しきれずに呻いてしまう。
 ノノとの付き合いで俺もそれなりに鍛えられているつもりだが、まだまだのようだ。

「あわわわ、だ、大丈夫ですか?」
「イテテ……なぁに、大丈夫だよ。それより首尾の方はどうだい?」
「ひとまず敷地内にいた方々には退場いただきました……あッ、もちろん殺してませんよ」
「わかってるさ、その方が時間も稼げるしな」

 死者なら放置はできるが、負傷者となると見過ごすわけにはいかない。回収するにも人手も必要で、時間もかかるはずだ。
 それに堂々と正面から来たのが災いして、野次馬の目を完全に断てない。これなら、非道なこともやりにくいはずだ。
 相手は優位にみえても出鼻を挫かれたことで、後手にまわりはじめているのだった。

「お待たせッ、準備ができました」

 床の穴から唐木田さんが呼びに戻ってきた。
 俺は迷うことなくノノを抱えたまま、脱出口へと滑り混んでいった。
 人がひとり通るのが精一杯の縦穴を、ノノを肩に乗せたまま梯子を使って降りていく。
 十数メートルも降りると横穴になっていて、地下水路に繋がっている。
 そこに二台の水上バイクが準備を終えて待機しているのだった。

「早く乗ってッ」

 乗り物のハンドルを握ったシスター・シフォンは、普段のお淑やかな雰囲気とは打って変わって、とてもワイルド雰囲気になる。
 俺が後ろに飛び乗った途端、確認もせずにアクセルを全開に急発進していた。

「あわわ、落ちるって」
「落ちたら置いて行きますからねッ」

 ヒシっと細い腰にしがみついた俺の後方、ノノが乗ったもう一台を操縦するのは唐木田さんだ。
 スポーツ万能な彼女らしく、はじめて操縦する水上バイクを楽々と操っており、背後からノノに抱きつかれてご満悦の様子だった。

「……そろそろですね」

 暗い水路を爆走して、しばらくすると背後から爆発音が聞こえてくる。追撃を断つために縦穴を爆破したようだ。

(これらの仕掛けを事前に用意しておいたシスター・ショコラの入念さには頭がさがるな……)

 途中、ドローンによる追撃を何度か受けたものの、それも用意されていた仕掛けを使って撃退に成功する。
 そうして追手を振り切った俺らは、首都の地下に網の目のように張り巡らされた水路を利用して、包囲網から脱出することができたのだった。


「えーと……あッ、あったッ、あったッ、ここですね」

 先頭を走っていたシスター・シフォンは、真っ暗な水路を迷うことなく進んでいた。
 どうやら要所要所に目印が仕掛けてられるらしく、それに従った移動しているようだ。
 そうして、小一時間ほど移動したところで水上バイクを乗り捨てて、地上へと出るところまでやってきた。

「まずは俺が先にいって様子を見ますよ」

 水上バイクを操縦するふたりには、なにかあったら逃げられるよう待機してもらい。ノノには追撃に警戒してもらう。
 ひとり梯子を昇りきり、重いマンホールの蓋に手をかける。

「開けた途端に敵とバッタリは勘弁してくれよな」

 警戒しながら、ゆっくりと蓋を持ち上げた俺は、目の前で屈んで待ち構えていた人物と鉢合わせすることになるのだった。

「やぁ、遅かったね」
「な、な、な――ぁ」
「おっと、あまり大声で騒がないでくれたまえよ」

 口元で人差し指をたてながらシーッと言ってたみせたのは、スーツ姿のサラリーマン風の男だった。
 髪を七三に分けて、黒縁メガネのレンズの向こうで糸のように目を細めている。

「あぁ、慌てて逃げないのはポイントが高いですね。状況を見極めようとしているのも加点してあげましょう」

 目を細めているのは普段からなのだろう。口角が上がっているために柔和な顔のつくりなのだが、どうにも男からは温かみを感じない。

(存在感が稀薄で、表情もなんか作り物ぽくって読めないなぁ)

 それが目の前の男――弐式 五三六(にしき いさむ)の第一印象だった。
 道中にシスター・シフォンから、この男のことは聞かされていた。
 シスター・ショコラが最後に出会う予定だった人物で、ジャーナリスト仲間だという。
 今回の逃走も陰ながらサポートしてくれている人物なのだが、どうにも胡散臭さが際立つ。

「まぁ、僕のことが信用できないとしても、いつまでモグラみたいに穴から顔を出しているつもりもないだろう?」

 どうやらマンホールの上に止めたトレーラーのコンテナに繋がっていたらしい。
 彼以外は人は見当たらず、ひとまず危機はないようだ。
 下で待機しているノノたちに、問題がないと合図すると穴から這い出てみせる。

「下水の中を逃げ回ってお疲れでしょう? 良かったらお茶でもいかがですか? 軽食も用意してますよ」

 背後に設置されたテーブルセットには、カップに注がれた紅茶が湯気をたて、皿の上にはサンドイッチまで用意されている。
 三人も上がってくると、それぞれがテーブルにつかされた。

(……紅茶が冷めていないな)

 カップの紅茶に口をつけながら、その熱さに内心で驚いていた。
 到着したときには既に用意されて注がれた後だ。長時間も放置されていれば冷え切っているはずなのだ。

(俺たちの到着がわかっていたのか……)

 用心深いシスター・ショコラが最後に会おうとしていたのだから無能ではないのだろう。

(だが、どうにも胡散臭い気配がして好きになれないタイプだな)

 動き出したトレーラーの振動をわずかに感じながら、俺は思考にふけっていた。
 どんな時でも思考を止めなるべきでないと恩師に叩き込まれたことを実践しているのだ。

「へんふぁいッ、ほれ、おいひぃへふほ」

 物静かな俺を心配してか、ノノがサンドイッチも食べるように促してくる。
 思考を中断させられるのだが、不思議とノノには腹が立たない。

「だぁ、わかったから、落ち着いて食べろって……んんッ、確かにこれは旨いな」

 口にしたのはシンプルなタマゴサンドだったが、ふんわりとした食感に濃厚な黄身の味が広がる。
 食材の良さもあることながら、丁寧な調理がうかがえる。

「それは、ありがとうございます。頑張って作ったかいがありました」
「これをアンタが作ったのか?」
「はい」

 残るツナサンドやハムとチーズのレタスサンドもシンプルだが、あきらかに美味かった。
 満足そうに頬張っているノノの様子からも、それはうかがえる。
 疲労と空腹からつい警戒心も緩みそうになる。

「酒と美味いもの、そして美女がソイツの武器だから出されても気を許すな……シスター・ショコラがそう言ってましたね」

 シスター・シフォンが面白くなさそうに弐式さんを見ていた。その言葉の端々が心なしかトゲトゲしく感じられた。

「いえいえ、あくまで支援で今は他意はないですよ、もちろん、頼まれていたこちらの品もちゃんと用意してあります」

 弐式さんは気にした様子もなく、コンテナの奥の山を覆っていたシートを剥がす。
 すると、そこには軍が仕様している軽装甲機動車があるのだった。


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