年下の彼女はツインテール(バッドエンド2―2)

【2】先輩とのお出かけは、いつも嬉しいです

 数日後、俺とノノは帝都大にいた。
 唐木田さんの父親が経営している企業が、ここにある研究室に出資していたのだ。
 そのツテを使い、受験も控えている俺の学校見学という体で訪れてみたのだ。
 国内最高峰の学舎とあって、広々とした学内には物珍しいもので溢れていた。
 屈強なフレームに複雑な機器を組み込んだ外骨格を装着した学生とすれ違えば、今度は足元をシャカシャカとクモのような小型ロボットが群れをなして横切っていく。
 
「うわ、なんだアレッ、かっけえぇなぁ」
「せーんーぱーいーッ、そっちじゃないですぅ」

 おもわず童心に戻ってはしゃいでいたのだろう。気がつけば裾を持って踏ん張るノノを、随分と引きずって歩いていたようだ。

「もぅ、目的を忘れたらダメですよ、約束の時間に遅れちゃいますよぉ」
「あぁ、悪い。そうだな、少し急がないとなッ」

 小柄な少女に怒られてる大柄な少年の姿に、周囲にいた学生や研究員たちが笑顔になる。

「どうもお騒がせしました」

 彼らにも頭を下げて逃げるようにして、その場から立ち去る。
 目的の研究室へ向かうために、柱が並ぶ通路を小走りに進んでいく。
 俺の後ろについてきていたノノだが、途中の柱の陰から姿が消えていた。
 俺の付添人として学内に侵入した後、密かに調査するのがノノの役割なのだ。

(気をつけろよ、ノノ)

 探していた研究室にたどり着いた俺は、唐木田さんが取り次いでくれた教授に会うためにドアをノックした。


 そうして研究室をでたのは、すっかり日が暮れた後だった。
 昼休みが終えた頃に訪ねているから半日近くもいたことになる。

「ふぅ、やっと終わった、予定よりも随分と遅くなってしまったな」

 紹介してもらった教授は冷凍保存について研究を進めている人物で、その成果を活かして冷凍食品の改良もしていた。
 料理が趣味となってきた俺には実に興味深い分野で、説明を聞いているうちに本当に興味がわいてきた。
 更に教授の本来の目的は冷凍睡眠らしく、SFのような技術の話に熱中してしまい、最後には研究スタッフも巻き込んで白熱した議論を交わして遅くなってしまった。
 そうして意気投合した教授らに、再来を約束してようやく開放されたのだった。

「でも、案外面白かったなぁ、真面目にこっちの方を目指すのも良いかもな」
「それって、なんの話ですか?」

 人気の絶えた構内をでて、ひとり校門へと向かう途中、街路樹の上から声がかかる。
 上を見れば枝に脚をかけたノノがブランっと逆さまになって見下ろしていた。

「わるい、待たせてしまったな」
「ホントですよ、なんか愉しそうにお話しているのを窓の外からずっと眺めてました」

 プクッと頬を膨らませて拗ねてみせるノノに、俺を両手を合わせて謝罪する。

「お詫びに帰りになんか美味いもの買っていこうな」
「ホントですかッ、それならノノは食べてみたものがありますッ」

 パッと笑顔になってキラキラと瞳を輝かせたノノは、そのまま飛び降りると俺の胸に抱きついてくる。
 そのままグリグリと顔を擦りつける仕草は小動物のようだ。

「こらこらッ、流石に外では吸うなよな……たっくぅ、でもノノに何事もなくって良かったよ」

 胸の中でゴロゴロと甘えている姿はまるで大きな猫のようで、離れる気配がまるでないのに諦めて俺はノノを抱えたまま帰路についた。


 教会で再び合流した俺らは、シスター・ショコラの足取りを調査をしていたふたりと情報を共有していた。

「これは確定ですかね……」

 結社の動きが見られはじめた頃とEOSのプロトタイプが稼働を開始した時期が一致していた。
 その頃に研究に出資していたのは軍の研究機関だ。
 当初は戦術シュミレーションに活用できないかと模索していたようで、猩々緋エレクトロニクスもその頃から絡んできている。

「だけど、途中から軍部は手を引いて、代わりに政府がスポンサーについているわね」

 詳細は不明だが、どうやら開発を主導していた両新田(りょうしんだ)教授と軍部が仲違いしたようだ。
 だが、その直後に教授は不慮の事故で亡くなってしまう。
 後釜には猩々緋エレクトロニクスに移籍していた元助手がおさまり、研究成果を引き継いでいるようだ。

「でも、両新田教授は猜疑心が強く、秘密主義なところがあったみたいね。正しく引き継げてるかは怪しいみたい」

 どうやらブラックボックス化している箇所が多いらしく、詳細までは把握できていないらしい。
 開発を進めながら、今でも解析を続けているような状況なのだ。

「そして、俺たちが関わったテロ行為の前から、再び軍が絡んできたわけだ。大学内でも話題になっていたよ、ガタイのよいスーツ連中が出入りし始めたって」
「ノノもそれ見ました。研究室の入り口を警備してましたけど、あの物腰は軍人ですね」

 両新田教授の研究室は、大学内でも最奥の位置にあった。
 EOSのために新築された建物を専用でつかい、周囲には警備員が配置されているのだ。
 ネズミ一匹も通さない物々しい様子は、大学内では随分と異様な光景だった。
 だが、どうやらノノはそれを軽々と突破してきたらしい。

「そうですか? いろいろと脇が甘かったですよ」

 何事もないかのようにケロッと言い放つノノに、俺たちは顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。

「なんか中では、軍人さんが苛立った様子で怒鳴り散らしてましたよ」

 どうやらテロ行為とEOSを結びつける者の存在にあちらも気づいたらしい。
 物々しい警備もそのためで、こちらの正体にたどり着く可能性も高そうだ。

「その怒り散らしていた軍人て、この人?」

 シスター・シフォンが差し出したのは神経質そうな顔立ちの青年将校だった。
 室斑 慎ニ(むろぶち しんじ)少佐。高級将校を輩出してきた室斑家の次男で、今は諜報部に所属という立場ね。

「この人ですッ、目の下がパンダさんみたいでした」

 見るからに胃でも悪くしてそうな男には、クッキリと目の下に隈が刻まれていた。
 そのことを揶揄したのだろうが妙にツボに入ってしまい、ノノを除く三人が、うつむいて肩をプルプルと震わせてしまう。

「ぷふッ、パ、パンダ……な、なるほどな……」
「うふッ、なにやら不祥事で昇進が見送られて焦ってる様子……て……うくくッ……彼女の手帳にも書いてあるわね」
「い、いや、人の顔を見てそんな笑ったら……悪い……ですよ……」
「理沙ちゃん、目に涙浮かべながら言っても説得ないよ」

 そんな愉しげなひとときを楽しんでいた俺だが、首筋が粟立つような馴染みの感覚に襲われる。

「――やばい、ノノッ!!」
「はいッ」

 俺が動き出した時には、ノノはふたりを床に押し倒していた。
 それを守るように応接セットのテーブルを倒して盾にする。
 次の瞬間には、窓ガラスは砕け散り、無数の銃弾が飛び込んできていた。
 ヴォォォッと唸り声のような速射音とともに部屋の中が蹂躙される。
 穴だらけになって弾け飛んだ家具や調度品が、パラパラと破片となって降り注いでくる。
 銃撃がようやく止んだ時には、室内は無惨なありさまで、それが外から照射されたライトによって照らされた。


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