年下の彼女はツインテール(バッドエンド2)

【5】恥辱の屈服宣言

 その後、教会で仕入れた情報をもとに、俺たちは独自に結社に関する調査をすすめてみた。
 とはいえ、機関からのバックアップがない現状では個人的なパイプに頼るしかなく、それぞれの顔見知りの情報屋や探偵に調査を依頼するぐらいしかできず、なかなか有益な情報を得ることが出来なかった。

「あッ、くぅぅ……」

 その夜も俺の膝の上で甘えていたノノが、苦しそうにお腹を押さえていた。
 排泄管理をされてから一週間が経過していた。
 その間に結社からの動きはなく、調査をしつつ日常を過ごしていた俺たちだが、排泄を自由にできない苦しさを噛み締められていた。

「だ、大丈夫か? お腹を温めようか?」
「あ、ありがとうございます……でも、もう……うぅ……大丈夫です」

 脂汗をポタポタと滴らせながら、ノノは笑ってみせた。
 それが俺を安心させようとしたものであるのがわかっていた。だが、俺にできることは限られていた。

「くそッ、唐木田さんは排泄許可がきたのに、なんでノノはまだなんだよ」

 彼女には、三日前に排泄許可がおりていた。
 懸念していた彼女への指示も、所定の喫茶店に決められた時間を滞在するという簡単なものだった。
 排泄する姿は流石に俺には見せられないと言われて部屋の外で待たされたが、出てきた彼女は幸せそうな表情を浮かべていたのが印象的だった。

「ふふ、先輩、大丈夫ですから……」

 弱々しく微笑むノノをギュッと抱きしめるが、その身体が苦しげに震えた。

「あッ、あぁぁ……また、来ちゃう」

 慌てて時刻を確認すると零時になっていた。
 この一週間でわかったことは、例の腸内ガスの排出は零時に行われることだけだった。

「大事丈夫だ、このままで良いから」

 慌てて離れようとするノノに優しく囁いて抱きしめる。
 程なくして盛大な放屁の音が響かせて腸内のガスが排出された。
 それは流石に無臭とはいかず、ノノは羞恥で耳まで真っ赤にして胸に顔を埋めてしまうのだった。

「ご、ごめんなさい……」
「気にするなって」

 いつもの元気な姿はなりを潜めて、申し訳なさそうに呟くノノの頭を優しく撫でてやった。
 そうして、翌日になってようやくノノへの初めての指示が届いたのだった。


 
「あれだな……ノノ、来たぞッ」

 燦々と輝く太陽の下、ビルの屋上に潜んでいた俺は、双眼鏡を覗いたまま目的の車が来たことをノノに知らせた。
 ビルの合間を縫うように通された高速道路を行き交う車列の中に、事前情報にあった大型のトレーラーがいた。前後に護衛らしき車をひきつれて、物々しい雰囲気こちらに向かってきている。
 脇にいたノノはひらりと舞うとフェンスの上に立ってみせる。
 スリムな肢体に漆黒のボディスーツをまとい、ツインテールにまとめた長髪が風で舞っている。
 ヒールタイプのブーツで器用にバランスを取りながら、彼女も目を凝らして目標を確認していた。

「あーッ、ノノも発見しましたッ」
「わかってると思うが目的を確認しておくぞ、ターゲットのトレーラーを所定の位置で転倒させるんだぞ、高架下には一般道や公園もあるんだ。休日で人も多いから間違っても落としたりせずに車体で道を塞ぐんだぞッ。タイミングや狙う場所は指示のあったようにな」
「だ、大丈夫でしゅ……あだだッ……な、何度も先輩と復習しましたから」

 シスター・ショコラから聞いた通り、指示は実に細々としたものだった。
 対象がやってくる時刻やパンクを装う手順から、事細かく記載されているのだった。
 お陰でそういうのを覚えるの苦手なノノに、何度も予習させる羽目になっていた。

(まぁ、もう大丈夫みたいだけどな)

 舌を噛んで涙目になっていたノノだが、次の瞬間にはスーッっと目が細まり、感情が薄れていく。ノノが本気で取り掛かるときの精神状態に入っていたのだ。

「それじゃ、行ってきます」

 次の瞬間には、ノノの身体は地上数十メートルの空中に飛び出していた。
 極細のワイヤーを駆使して、小さな体躯が振り子のように移動する。
 天空に舞うノノの姿に、俺は思わず見惚れてしまう。
 そのままターゲットの方に向かっていく後ろ姿を見送ると、俺も次の合流ポイントへと向かうために移動を開始する。

(それにしても、中枢って何者なんだ?)

 今回の指示書には、襲撃に必要な情報も網羅されていた。その中には天候や湿度に風向きなど、本来なら事前の予測も難しいものまで含まれていたのだ。

(寸分違わず同じってあり得るのか? これじゃ予測じゃなく予知だぜ)

 シスター・ショコラが言っていた「何もかも見透かされて掌で踊らされている気分」を理解しはじめていた。
 ノノが実行する指示も大きな思惑があっての行動なのだろうが、末端である俺らにそれを推測することも難しかった。

(それでは、いつかチャンスがあるはずだ……今はそれまで耐えるしかないよな)

 ビルを降りるとビルの裏手にはSUVに搭乗したシスター・シフォンが待っていた。
 俺が助手席に飛び乗ると、巧みなハンドル捌きで車体を疾走させる。
 驚いたことに彼女は俺よりも随分と歳上だった。年齢詐称を疑ったレベルなのだが、どうやら事実らしい。
 大型な車体でも手足のように自由自在に操る彼女だが、その小柄な体躯のせいで外からは無人車のように見えてしまう。
 時折、ネットで騒がれる深夜を疾走する無人カーの噂を聞いたことがあったが、その真実を垣間見た気分だった。

「そろそろ時間です、サンルーフを開けてください」

 俺の操作で屋根の扉が開ききるのとノノの滑り込んでくるのは同時だった。
 ストンと俺の膝の上に着地してニッコリと笑顔で見上げてくる。

「おかえり、ちゃんと出来たか?」
「エヘヘッ、ただいまですッ、バッチリと狙い通りで引火もなしです」

 俺の胸に頬をグリグリ押し付けて甘えてくるノノに、俺は頭を撫でて労ってやる。

「はーい、甘々なのは結構ですけど、次のポイントまで飛ばしますからね。シッカリ掴まっててくださいよぉ」

 キュルキュルとタイヤを鳴らしてドリフトで道を曲がると、車体は狭い裏道へ猛スピードで飛び込んでいく。

「うおぉぉぉッ、マジかよッ」
「おーッ、スゴいテクニックですッ」
「黙ってないと舌を噛みますよ」
 
 車幅ギリギリの道だろうとアクセルが緩む気配はない。中枢から指示されたルートは、彼女の運転技術を前提としたものなのだ。
 あとで聞いた話では、その誤差は秒単位であったと聞かされて、徐々に予知という話も笑えなくなっていくのだった。

「ふぅ、時間通りに到着――って、え?」

 俺たちがポイントに到着した瞬間、背後から轟音が響いてきた。
 それの正体を確認する前に、激しい衝撃波に襲われて車体が激しく揺らされた。

「だ、大丈夫か?」
「なになに、なんなのよぉ!?」

 周囲にある建物の窓ガラスはすべて砕け散り、あたりは騒然としていた。

「…………そんなぁ」

 サンルーフから屋根に飛び出たノノが呆然としていた。その視界の先にはもうもうと立ち昇る黒煙が見えていた。
 それは先ほどまで俺らがいた方角なのだった。

「いやいや、トレーラーの炎上程度でありえないだろう?」

 爆発による噴煙と衝撃波だが、その規模ははじめて経験するものだ。車体が爆発した程度では、ここまで届くはずがない。

「いや、でも……まさか……」

 指示されたポイントに到着した瞬間に爆発がおこり、ギリギリで被害が届かない位置に俺たちはいる。
 その状況は、あまりにも出来すぎていた。

「まさか積荷が……」
「今はとにかく、次の指示に従って移動します」

 シスター・シフォンの言葉に従って、その場を離れた俺らは翌日のニュースで騒動の大きさを知ることになった。

「トレーラーに化学物質が搭載か?」

 高速道路で転倒したトレーラーは上下線を塞ぐようにして止まった。
 幸いなことに炎上はないかと思われた矢先、大爆発を起こしたようなのだ。
 その威力は路面を大きくえぐり、高架を崩れさせ、周囲のビル群を倒壊させるほどだ。
 轟音と爆風は俺たちがいた位置まで届くほどで、現場はまるで爆撃でも受けたような惨状だった。
 どうやらトレーラーには密かに移送されていた新型爆薬が積載されていたらしく、ニュースキャスターが読み上げる多数の死傷者に、呆然となってしまう。 

「関係ない人も大勢、亡くなってしまいましたね」

 この大惨事の意図を知ることはできないが、その切っ掛けとなったのは俺たちのようだ。
 車でお出かけする家族や恋人たち、公園で無邪気に遊ぶ子供たち、あの現場近くにいた一般人の姿が脳裏に浮かぶ。彼らが直後の爆発から逃れられるはずもなく、読み上げられるリストにはそうした人々も含まれていた。
 ショックを受けているノノを抱き寄せながら、俺も罪悪感に押し潰されそうになる。
 そんな中、ノノの端末がメロディを奏でて排泄許可のメッセージを着信したことを知らせるのだった。


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