年下の彼女はツインテール(バッドエンド2)

【1】甘く愉しい日々を過ごしてました

「先輩ッ!! お、お待たせしましたッ」

 いつものように下校時間となり校門で待っていると、やや舌足らずな甲高い声とともにノノがやってきた。
 ツインテールにまとめた長い髪をなびかせて、ドタバタと駆けてくる小柄な少女。
 これが裏の世界では”ツインテール”やら”殺戮人形”と恐れられていた凄腕のエージェントとは、とても想像できないだろう。
 普段は鈍臭さく見えても、出会った頃はひとたびスイッチが切り替われば俊敏に跳びまわり、人殺しも淡々とこなしてみせた。
 だが、そうした姿を何度も見てきた俺ですらも、こうして嬉しそうに腕にすがりついてくるノノと同じ人物であるのを忘れそうになる。

(いや、もう忘れても良いのだったな……)

 新興の暴力組織を率いていた親父が発端となった裏世界のドタバタは、ひとまずは終結をむかえていた。
 すでに俺を警護する必要もなくなり、ノノが所属していた機関も手を引いていた。
 では、なぜ警護役であるノノがまだここにいるかと言うと、エージェントを辞めていたからだ。

(辞めてきましたッ……テヘッって笑顔で済まされたが、エージェントってあっさりと辞めれるものなのか?)

 撤退命令に不服を感じたノノは、上司に直談判してきた結果がそれだった。どうやらひと悶着があったようだが親父の介入で落ち着いたようだ。
 便宜上は親父が個人的に俺のボディガードとして雇うという形なのだが、もう機関のバックアップもなく、裏の世界から足を洗った状態なのだった。

(だから、正確には元エージェントだな。しかし、今のボディガード代も、単に親父がお小遣いをあげたいだけな気もするけどなぁ)

 俺の腕により掛かり、買い物ついでに買ってやったクレープに目をキラキラと輝かせている元エージェントの姿に俺は苦笑いを浮かべる。

「なんへふは、たへまふか?」
「いや、いらんが……それよりハムスターみたいに頬に詰め込んで喋るなよッ、あぁ、もぅクリームも頬についてるぞ」

 ハンカチで口元を拭いてやると、ニヘヘッと嬉しそうに笑う。
 一応、これでも恋人関係なのだが、傍目には兄妹のように見えるようだ。
 周囲の通行人たちに微笑ましく見守られてしまうのはいつもの光景だった。

――ッ!?

 ほんわかした雰囲気も、俺たちが人気のない通りに入った途端に一変する。
 高い建物に挟まれた抜け道のような通路へとノノに手をひかれるままに入ると、前後をワゴン車が急停止して車体で通路を封鎖してきた。
 ガラリと開かれたサイドドアから、ドカドカと武装した男たちが降りてくる。
 彼らが放つ殺気によって首筋が粟立つが、この感覚にも随分と慣らされていた。

(またか……)

 親父が起因となった俺の身柄争奪戦が一応の収束を迎えて、周囲にいた物騒な連中も引き上げていった。
 これで平穏な日常が戻ってくると思っていたのだが、そうはいかなかった。

――すぐに新たな問題が生じたからだ……

 派手な立ち回りが災いしてか、裏世界の連中にノノの居場所が露見してしまっていた。
 機関の後ろ盾がなくなったノノに対して、様々な目的で接触してくる連中が激増していたのだ。

(先日は中東の諜報機関の勧誘で、その前は復讐に来た傭兵連中だったか……今日はどこの連中だ?)

 復讐を企てる者、組織に引き込もうとする者と目的は多種多様だが、ノノは裏世界の連中に大人気なのだ。

「ひゃにものれふかッ!!」
「食べながら喋るんじゃねぇよッ、行儀悪いだろッ、ほら、飲み物」

 ビシッっとポーズを取ったものの口いっぱいに頬張っていれば様にならない。
 モキュモキュと口を動かして、俺が差し出した飲み物で流し込んでいく。

「ぷはーッ、失礼しました……オホンッ、あなた方は何者ですか?」

 目抜き帽子を被った連中は、銃を手に俺らを囲んだまま困惑したように顔を見合わせている。
 
(あぁ、皆さんそうなんですよ。人違いなんじゃないかと思うのは俺も正しい反応だと思うよ。だけどなぁ、銃を持ったまま、それをするのは、いただけない行為だな)

 ノノの姿が俺の脇から消えたと思った瞬間には、すでに正面にいた男ふたりは倒れていた。
 跳躍しての廻し蹴りをモロに首筋に受けて昏倒させられたのだ。

(まずは、ふたり……残りは十人か)

 相手が混乱しているうちに、俺はそそくさと物陰に退避する。これまでの経験でノノの邪魔にならないのが、一番だと理解しているからだ。
 持ち前のスピードと身軽さを駆使して、ノノは両側の建物も利用した立体的な機動で相手を翻弄していく。
 この動きには普通の対人戦闘しか経験のない兵士では照準に捉えることも困難だろう。
 ひとり、またひとりと戦闘不能に陥っていくのを見守っていく。

「クソッ、まるで別人じゃないかよッ」

 消音器をつけた銃でいくら撃とうとも掠りもしない状況に最後になったひとりが吼える。
 新たに引き金をひこうとするところに、銃口に飛鍼が突き刺さる。

「――がはぁッ!!」

 途端に内部で炸裂した銃身が弾け飛ぶ。
 負傷して手を抱えてうずくまる男の前に、ヒラリとノノが降り立った。

「――ヒィッ」

 ニコリと余裕の笑みを浮かべる少女に、屈強な兵士は完全に戦意を失って無様にも尻もちをついていた。

「武器を捨てて、仲間を回収してくれないか? ただし、見逃すのは一度きりだ、次は容赦してくれないぞ」

 俺の忠告に男は武器を投げ捨てて、降参の意思をしめす。
 以前なら敵対者を容赦なく刺殺していたノノだが、人死を避けたい俺の意向をくんで致命傷を避けてくれていた。

(これも圧倒的なノノの技量あってのことだけどな)

 普段は抜けているノノだが、戦闘でスイッチがはいると別人のような凄まじい強さを発揮する。
 その圧倒的な差を見せつけられて相手が戦意を消失して撤退してくれれば良い。
 それでも、諦めないなら再度の襲撃には容赦はしないことになっていた。

「……ありがとうな」

 襲撃者が逃げ去っていくのを見送ると、そばに立つ小さな頭をワシャワシャと撫でていた。
 エヘヘッっと照れて頬を赤らめる姿に、ホッとさせられると共に愛おしさが込み上げてくる。

「さぁて、じゃぁ帰るか、頑張ったノノには旨いものを作ってやらないとなッ」
「あッ、それじゃ、それじゃ、食べたいのがアリますッ!!」

 ハイッハイッと挙手して飛び跳ねる姿に笑みを溢しながら、俺らは我が家であるボロアパートへの帰路につくのだった。
 こんな慌ただしくも平和な日常が、この先も続くとその時は思っていた……


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