嗜虐遊戯 ―女性警察官を弄ぶ上級令嬢―

【4】猩々緋 有栖

 千秋が失踪してから半年が経過した。
 四人の女性警察官が次々と失踪するという異常な事態におちいったのだが、保身に走る警察署長によって事件は強引に揉む消された。
 不審がる者も次々と異動させて、事態の沈静化をはかっていった。
 だが、そのことが彼の足を掬うことになった。
 兼ねてから内偵中だった警察庁のチームが証拠を固めると動き出したのだ。
 署長とそれに与する者は更迭となり、押収した資料から次々と悪事が暴露された。
 その中には大企業との黒い繋がりを示唆するものもあり、便宜をはかっていたこともわかる。
 その調査の過程で、再開発地区にある工場跡地に囚われていた千秋らが発見されたのだった。


「それでは、ごきげんよう」

 都内にある日本屈指のお嬢様学校に、猩々緋 有栖の姿があった。
 有名デザイナーが手掛けた制服を優雅に着こなし、ブロンドの髪をなびかせて颯爽と歩く。
 その姿を生徒たちはウットリと見惚れ、感嘆のため息をついている。
 その歩む先には迎えのロールスロイスが停止しているのだが、それを遮るようにふたつの人影が立ち塞がった。
 その人物らに、有栖はニッコリと微笑んでみせる。

「あら、こんにちは。思ってたよりも元気そうですね」

 彼女が笑顔を向けたのは私服姿の千秋と春江であった。
 笑顔を浮かべる有栖とは対照的に、ふたりは射殺さんばかりの眼光を向けてくる。
 特に春江は周囲の目がなければ殴りかかっていただろう。

「それで、今日はどういったご用件でしょうか?」
「なに、しらばっくれてるんだッ、あれだけの事をしておいてッ」
「あら、証拠はありまして? 仮にあっても変わりませんけど」
「な、なにをッ」

 はやくも喧嘩腰の春江に、周囲で様子を伺っていた生徒たちがヒソヒソと囁きあう。
 それを一瞥して、千秋は相棒を嗜めた。

「確かに貴女のいう通り、あらゆる資料や記録データから猩々緋 有栖の名どころか、猩々緋グループとの関係を紐付けるものは出てこなかったわ。監禁されていた工場跡地すら市に売却済みとなってたのには驚かされたわね」
「そう、それなら、なにようで……」
「でもね。私たちは絶対に諦めないわよ、今日は、それを伝えにきただけよ」

 キッと睨んで宣言布告してきたふたりに、有栖は驚いたように目を見開く。
 だが、すぐにクスクスと笑いはじめた。

「うふふッ、あぁ、ごめんなさいッ、正面から宣言されるのなんて、いつ以来かと……そう思ったら、つい嬉しくなってしまって」

 その言葉に偽りはなかった。
 対立する者を排除していった結果、有栖の周囲には従順な者だけになっていたのである。
 密かに抱えつづけている暗い嗜虐欲をぶつける機会を失い、彼女は退屈していた。
 その矛先を求めて、権力に屈しなかった千秋らをターゲットに選んだのが今回の一件だったのだ。
 それが心折れるどころか宣戦布告してきただから、彼女からすると長年求めていた遊び相手が現れたようで心の底から嬉しいことなのだ。

「あぁ、なにやら新設された部署に異動とのことで、おめでとうございます。ご活躍を楽しみにしてますね」

 それだけ言い残すと、ふたりを残して迎えの車に乗り込んでしまう。
 千秋らが見守るなか、英国製の高級車は滑るようにして走り出していった。

「放っておいて、よろしいのですか?」

 車内に控えていた冷香が用意していた紅茶を主人に差し出しながら尋ねてくる。
 有栖が求めれば、すぐさまふたりの排除に動くつもりなのだ。そのために必要な準備をすでに整えてあった。
 だが、彼女の主人は首を左右に振る。

「せっかく、遊び相手が向こうからいらしたのですもの、少しでも長く楽しみたいわ……でも、今は可愛い妹と過ごす夏休みの方が最優先ね」

 シスコンと思われるほど、有栖は三歳下の妹を溺愛していた。
 海外留学中だったその妹とスイスで待ち合わせて夏期休暇を過ごす予定なのだ。

「でも、楽しみだわぁ」

 多くの人に慕われ、頭脳明晰な名家の令嬢の姿をもつ表の仮面の下に、有栖はドロドロとした暗いサドの欲望をもっていた。
 その内から溢れでる欲求を満たせることを噛み締めると無邪気な笑顔を浮かべる。
 そんな彼女を乗せた車は、プライベートジェットが待機する空港を目指して走るのだった。


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