強者の定義 狙われた教壇のヴィーナス

【23】 強者の定義

 瑠華が目を覚ますと、そこは自分の寝室だった。
 将尊に拐われて、彼の別荘にある地下施設に囚われた約一ヶ月。媚薬漬けにされた彼女は、調教という名の凌辱行為を受け続ける日々を過ごした。
 それがまるで悪い夢であったかのように、いままでの日常が戻ってきていた。
 常磐によって別荘から連れ出されると、瑠華はそのまま猩々緋グループが誇る総合病院に問答無用で入院させられた。
 最新設備と国内有数の医療スタッフが揃うVIP専用の病棟。そこに半ば軟禁状態で押し込まれると、あらゆる治療を受けさせられたのだ。
 その中には、海外の企業から取り寄せた人工皮膚の移植手術もあり、それによって将尊に焼きつけられた奴隷の刻印も綺麗に取り除かれていた。
 なかば軟禁状態での治療に対して抗議をしようとした瑠華であったが、彼女の前に海外にいるはずの婚約者が現れると声を荒らげられなくなる。
 瑠華が入院したと琴里より知らされ慌てて帰国しようとしていた彼に、本社への栄転の辞令がおりたという。
 病院の近くにホテルをとり、欠かさず訪れてくる彼の存在によって、瑠華の体調はみるみると回復していった。
 退院すると学園への復帰もスムーズに進み、今は婚約者である彼とふたりで新居を探しながら、結婚の準備を進めているのだった。

(あれは本当に悪夢だったのかしら……)
 
 そう思わせるほど完璧な後処理が、常磐によって行われていた。
 以前との違いといえば、その常磐と将尊の存在が彼女の前から消えたことだろう。急な転校ということで、彼らは学園から姿を消していたのだ。
 元々、周囲から浮いていた存在で人の関わりもほとんどない少年たちだ。すぐに周囲からも存在を忘れられていった。

(これで、すべてが元通り……そのはずなのに……)

 心の奥底に刻まれた調教の記憶だけは消せずにいた。
 瞼を閉じると暗闇の中に将尊の姿が現れ、凌辱の日々を嫌でも思い出させる。同時に肉体は激しく疼き、被虐の悦楽を渇望してしまうのだ。
 しかも、その渇きは愛しい恋人に抱かれようとも自分で慰めようとしても、決して満たされることがないのだ。それは日増しに激しくなり、まるでウィルスのように瑠華の心身を蝕み苦しめていった。
 その異変に気づいた者が、ひとりだけいた。

「あれ、もう目覚めたの? うふふ、おはよう」

 目覚めた瑠華に気づき、ベッドに寝ていた琴里が起きてきた。クスクスと微笑んで近づいてくる少女は、黒いボンデージ衣装を身につけている。
 その股間では黒光りする極太のディルドゥが生えており、それはあの調教で使われた将尊のモノを型どった品物であった。

「昨夜もあんなにアンアン啼いて逝きまくったのに、また、そうやって物欲しそうに濡らしてるのね」

 妖艶に微笑む少女が指摘するとおりに、ディルドゥを見た途端に瑠華を被虐へと誘うスイッチが入っていた。理知的な顔立ちを惚けさせて股間から愛液を溢れだしてしまう。
 そうして、激しく反応をしめす瑠華が身につけているのは黒革の拘束具のみである。アームバインダーによって後ろ手に拘束された牝奴隷の姿で、寝室に設置された大型犬用の檻の中に押し込まれていたのだ。

「さぁ、いらっしゃい。たっぷり可愛がってあげるからね」

 首輪の鎖をひかれて引きずり出されると、極太のディルドゥを口に咥えさせられる。

(あぁ、琴里ちゃんとこんな関係になるなんて……)

 激しい疼きに苛まれている瑠華の異変に気づいたのは、以前のように泊まりにきた琴里だった。
 瑠華の身に起きた悪夢の日々を知る数少ない存在でもある少女だ。問われるままに悩みを打ち明けてしまっていた。
 
「そんなことだろうと思ってた。実は用意してきたのだけど……」

 そういって持ってきたバッグの中には、様々な淫具や拘束具は詰め込まれていた。その中には、あのレズ行為で使用された将尊の怒張を再現したディルドゥもあったのだ。
 妹のように可愛がっていた琴里との行為に抵抗はあった。だが、瑠華を癒そうと真摯に訴えられては拒絶などできなかった。
 その上、一度ならずともレズ行為をしていた仲もあり、強く迫られると抵抗できなかったのだ。
 そもそもディルドゥを見ただけで肉体は反応して被虐の悦楽を求めてしまっていた。いくら治療で薬物を抜こうとも、心身に刻み込まれた調教の記憶を消せはしなかったのだ。

「うふふ、蕩けた表情で咥えて、いやらしいわねぇ」

 心地よさそうに熱い吐息をはくと、琴里は頭をつかんで激しく前後に揺する。容赦なく喉奥を突いてくるイラマチオを繰り返され、瑠華もえづきながらも必死に応えていく。
 被虐の悦楽を覚え込まされた心身は、荒々しい行為に喜び震えてしまう。それは、愛しい恋人との逢瀬では得られないものであった。
 それにサドとして琴里のテクニックは的確だった。瑠華の快楽のツボを探りだし、なかには当人すら知り得なかった官能の源泉すらも見極めて掌握していった。それらをチラつかせながら巧妙に導いて、瑠華をマゾの悦楽へと誘っていくのだ。
 そうして、知らず知らずのうちに自らの進んで調教を受け入れてしまっていた。肉体だけでなく、心から支配していく調教方法なのだ。

「んぐぅ……ふッ、うふン」

 口に咥えているだけで、瑠華は激しく欲情していた。
 充血した秘唇から溢れだした愛液が太ももを濡らし、細腰が物欲しそうに揺れてしまっている。
 
「ホント、彼には見せられない姿だよね。でも、安心してね。こうして瑠華が抱えるマゾとしての欲求は、アタシがずっと満たしてあげるからね」
「あぁん、琴里様ぁ……はやくぅ、はやくちょうだい」
「ふふ、もぅ、しょうがないわね」
 
 堪えきれぬとばかりに瑠華は床にひざまづくと、肩で身体を支えて高々とお尻を突きだす。そうして、桃尻を揺らして卑猥にねだりだす。
 そこに女教師としての尊厳ある姿は微塵も残ってはいない。ただ肉悦を求める牝奴隷がいた。
 将尊への憎しみがなくなった今の瑠華には、肉悦へと溺れるのに踏み留まる理由がないのだ。マゾのスイッチを入れられると、牝奴隷をして刻み込まれた淫乱な彼女がでてくるのだ。
 ズブズブと極太のディルドゥで貫かれて、全身を震わせて歓喜の牝声を放つのだった。

「まったく、妬けてしまうね」

 その光景を仕込んでいた隠しカメラで見ていた常磐は苦笑いを浮かべていた。

「お気に入りのあの女を手に入れたいと言われて困ったが、お陰でこちらも上手くいったな」

 幼少の頃から娼婦をさせられて育った琴里は、肉欲の中でしか愛情を確かめられなくなっていた。そのために、実の妹のように接してくれる瑠華の結婚が迫ると不安にかられた。彼女が自分から離れてしまうのを恐れてしまったのだ。それを相談された常磐は一計を案じた。
 次なる獲物を欲していた将尊に瑠華の存在を知らせ、彼女が教師をつとめる学園に転校するよう誘導したのだ。
 当然、婚約者との結婚も把握しており、それを知った将尊が暴走するのは目に見えていた。
 ちょうど、将尊の一族による暴虐の数々を露にする準備が終盤に差し掛かっていた。あとは、会長を動かす切っ掛けとして、瑠華を利用したのだ。
 常磐の目論見通りに事態は動き、会長の承認の元で猩々緋グループに巣くった膿を出すための粛清が密かに行われた。
 同時に、将尊による奴隷調教の後遺症によって瑠華にはマゾへの渇望を刷り込むことに成功した。それを癒すためには琴里の手を借りるしかなく 、琴里は望み通りに彼女を手に入れられたという訳だった。

「……ホント、僕らは歪んでしまっているね」

 少年もまた双子の妹しか愛せなくなっていた。それは実の妹を性の対象として見て、女として抱くことを意味していた。
 それ故に、琴里がご執心の瑠華に対して強く反発をしてしまうのだ。自らの歪んだ性癖に自虐の笑みを浮かべてしまう少年であった。
 そんな常磐がいるのは、本社に用意された専用の執務室であった。背後の窓から見える高層ビル群を背景に、ふたりの交わりを見ていた。その視線がもうひとつのモニターへと移される。
 そこには将尊の地下施設の様子が映し出されていた。
 施設は全て常磐の手によって完全に封鎖されていた。地上への出入り口には軍用で使われる強化コンクリートが流し込まれ、各種インフラもこのカメラの回線を残して他は切断されている。
 元々は地下シェルターとして設計された施設だ。それでも、蓄えられた燃料などでしばらくは機能を維持できるだろう。だが、それにも限界はあった。

「さて、残り時間はあとわずか……残された機材と人員を的確に配置できれば、まだ脱出できるかもしれないが、子豚くんには無理そうだな」

 眠りから目覚めた将尊とその部下たちは、地上への出口が塞がれている現状に気づくと半狂乱に陥った。
 それが落ち着くと頭ごなしに命令する将尊に渋々と従い、残された工具で脱出を試みる。だが、何メートルもの厚さまで流し込まれた強化コンクリートに、次々と工具は壊れていった。
 核攻撃にも耐えられる鉄壁の要塞が、いまや脱出を阻む牢獄と化しているのに彼らも気づいた。
 あらゆる試みが失敗に終わり、徒労感に苛まれる部下たち。それを、将尊は労い勇気づけるどころが責任を擦りつけて怒なり散らしていった。そうした状態が続けば、不満が爆発するのは当然だろう。
 将尊の命令を聞かぬ者が次々とではじめ、危うい少年の支配体制は簡単に崩壊した。それは命令系統の消失にとどまらず、下克上のはじまりでもあった。
 自暴自棄になった者たちが、それまでの不満もこめて将尊に対して暴行をはじめたのだ。

「て、てめぇら、こんな事をして、ただですむと思うなよ」

 いくら脅そうが、極限状態の中では猩々緋グループの威光も効果をださない。
 今の将尊は、裸に剥かれると首輪をつけられて家畜のように扱われていた。もはや彼らの鬱憤をはらすための存在としてしか扱われてはいないのだ。
 身体には激しい暴行の痕が刻まれ、汚物にまみれた不衛生な物置部屋に転がされている。もちろん、貴重となっていく食料もろくに与えられずにいた。
 時折、憂さ晴らしに現れた部下たちに集団で殴られて、徐々に衰弱していく甥の姿を見るのが常磐の日課になっていた。

「どうだい、人間ってなかなか死ねないもんだろう? 僕たちが味わった屈辱はまだこんなものではないからね」

 このような境遇に陥っているのは将尊だけではなかった。彼の両親や不正を働いていた一族もまた似たような状況に追い込まれていた。
 だが、常磐は彼らにはチャンスを与えていた。部下を従える人望があり、的確に状況判断を下せれば脱出できるだけの資材を残していたのだ。
 だが、彼らは闇雲に資材を浪費してチャンスを逃しただけでなく、部下にも見限られていた。あとに残るのは飢えと酸欠に苦しむ恐怖が待っているだけなのだ。
 すでに将尊の別荘は取り壊されて、地下駐車場も埋められている。このまま周囲の森に埋もれて存在も忘れられていくだろう。こうして猩々緋グループの汚点は、地下深くにそのまま葬り去られることになるのだ。

(さて、あとは老害の方だが、それも琴里のお陰ですぐに済みそうだな)

 琴里との激しい逢瀬は老体には酷なようで、衰弱の一途であった。それでも麻薬中毒のように少女を求めてしまうのだから、双子の妹のもつ魔性の魅力には恐れ入ってしまう。
 すでに実務を離れた総帥に代わり、常磐が指揮を取っていた。この時点で猩々緋グループのほぼ全てが彼によって掌握されていた。

(あとは老体に死なれる前に、大事にしていた猩々緋グループをメチャメチャにしてやるだけだな)

 母親を死に追いやり、自分達を苦しめた親族を根絶やしにした常磐であったが、事態の元凶である源十郎も許してはいなかった。彼が大事にしている猩々緋グループを解体することが復讐の総仕上げであった。
 その為の手段もすでに考えていた。源十郎が政界とのパイプ作りに使用していた変態どもの秘密クラブがあるのだ。それが明るみにでれば、猩々緋グループどころか政府中央を揺るがす大スキャンダルに発展するほどの爆弾になる代物だった。

(そちらは琴里が興味あると言っていたから任せてみるか、僕は僕でやることが山積みだからな)

 グループ内の様々な企業のトップにいた一族を大量に処分したために、新たな有能な人材の登用が急務になっていた。その中には瑠華の婚約者も含まれており、今では常磐の傘下で働いている。
 有能だが将尊の一族によって不遇な待遇を受けていた者たちが多くいた。そんな彼らを重要なポストに戻すことで、組織としての浄化も進んでいる。
 今後、グループの解体が進んだ後、そんな彼らがそれぞれの部門を率いていく予定で、その準備も着々と進んでいるのだった。

『会長、皆様がお揃いになりましたので、会議室にお越し下さい』
「わかった、すぐに行く」

 秘書からの連絡で立ち上がった常磐だが、その足がふと止まった。その視線が再びモニターへと向かう。

「そういえば、強者という言葉が好きだったよな……どんなに強い者だろうと、より強い者の前では簡単に弱者になるって身に染みてわかっただろう? なら、どんなに惨めに這いつくばろうが、最後に残った者こそが、そう呼ばれるに相応しいと僕は思うぜ」

 モニターには、部下たちに殴られ続けて無様に泣き叫ぶ将尊の姿があった。それを冷ややかに見下ろした常磐は、今度こそ執務室を後にするのだった。

(完)




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