強者の定義 狙われた教壇のヴィーナス

【22】 暴虐の対価と終焉

 瑠華はバックから犯されていた。両腕を背後でアームバイダーと呼ばれる拘束具に押し込まれ、袋状に形成された拘束具によって指先から二の腕までを覆われている。その指先部分の金具に繋がれた天井の鎖によって両腕が高々と引き上げられているのだった。
 前傾姿勢を強要されたまま、冷たい床に膝をつかされている。その太ももには、両端に枷が付いた三十センチほどの鉄棒を装着されているために、脚を大きく開かされていた。

「どうだよぉ、犯されても感じちまうんだろう? どんなに嫌がってみせても肉体は喜んでやがぞ、オ×ンコがギュウギュウと締めつけて、俺様の精液を子宮を注いで欲しいって言ってるぜ」

 臀丘へとでっぷりと突き出た腹が尻肉へと打ちつけられて、パンパンと乾いた肉音を調教室に響かせていた。
 荒々しく容赦のない挿入だ。拘束された瑠華の身体が激しく揺れて双乳が弾んでいる。その量感ある乳房を芋虫のような太く短い指が荒々しく揉みたてて、指痕を紅く刻んでいた。

「おら、おらッ、連日の調教で、お前の肉体は俺様のチ×ポ中毒になるように改造されちまってるんだよ。もぉ、こいつなしで満足できない、淫乱牝奴隷になってるってわかれよ」

 将尊の言葉通り、強力な媚薬浸けにされて牝奴隷としての調教を受け続けた瑠華の肉体は狂ってしまっていた。傍若無人な少年が与える肉悦に反応してしまい、簡単に官能を狂わされてしまうのだ。

(あぁ、このままだと、また快楽に流されてしまうわ……でも、抗ったところで、もう彼には会えない……それなら、このまま溺れてしまっても……)

 逞しく太い怒張を挿入されると、まるでスイッチが入ったように淫乱になり、理性が押し流されそうになる。いくら相手を憎んで拒絶しようとしても、肉襞が肉棒に絡みつくように締めつけてしまい、脳が震えるほどの肉悦が全身に駆け回るのだ。

「あぁん、いやぁぁ」

 ひと突きごとに激しい刺激が背筋を駆け抜けて脳天を直撃する。もはや思考には靄がかかってしまって、喘ぎを堪えようという意思すら霧散していた。
 淫らな牝泣きを放ちつづけ、刺激をより得ようと蜂腰が淫られ揺れてしまう。その反応に将尊が満足すると、腰のピッチをあげていった。

「ぐふふッ、おらッ、イケよッ、もう普通のセックスなんかじゃ満足できねぇ身体になってるのを理解しろよ。俺様のチ×ポに犯されて、嬉しそうに腰を振っている今のお前が本当の姿なんだよッ」

 尻肉へスパンキングを受けながら子宮を突き上げられると、それだけで軽くイキ続ける。グジュリ、グジュリと剛棒によって掻きだされた愛液が、すでに床に水溜まりをつくっていた。
 さらに将尊の太い指が無防備に露出している菊門へと押し込まれると、その乱れようはさらに激しいものとなった。

「あぁ、だめぇぇ」
「お前の穴という穴は俺様のものだからなぁ、誰にも渡しやしねぇ、瑠華は俺だけのモノだッ、死ぬまで飼い殺してやるからなぁ」
「ひぃ、ひぃぃ、狂っちゃうぅ」

 自らの所有物としての焼き印をほどこして、将尊は彼女に外の世界への未練を断ち切ってやったと上機嫌であった。
 確かに彼女はマゾの牝奴隷となるべく淫らな肉体改造を施され、愛しい者への未練も断ち切られてしまった。いままでの女たちは、その辛い現実から逃れるように被虐の肉悦に溺れて、完全に堕とされてきた。
 だが、皮肉なことに胸元に烙印された焼きごてが、彼女の心を崩壊の寸前のところで踏み留まらせていた。
 ズキズキと激しく痛むたびに、愛しい人との関係を断たれた絶望を思い出させる。天涯孤独で生きてきた瑠華にとって彼は心の支えであり、光であった。それを奪われ、彼女の心は暗い闇に覆われていた。その奥底では将尊に対する憎しみが炎となって着実に育っていた。



 その光景を密かに見つめる者たちがいた。天井に設置されている監視カメラが、特別調教室の映像を地下シェルターの管制室に送っていたのだ。
 照明を抑えられた室内に、ずらりと並ぶモニターを眺めているのは常磐であった。
 その視線が他のモニターに向けられる。そこには常磐の指示で食堂に集められた将尊の部下たちが映っていた。
 ぞろぞろと集まった彼らが謹慎を言いつけられても大人しくしていたのはひとときの間だけだった。誰かが隠し持っていたドラッグを吸いだすと、すぐに自制が効かなくなる。
 キッチンから勝手に酒や食料を持ち出しては、全員が不平不満を吐き出しながら好き勝手をはじめるのだ。
 その光景に常磐は冷たい光を放つ眼鏡の下で侮蔑の視線を向けると、興味を失くしたように視線を正面のメインモニターへと戻した。

「これが、今回の顛末です。いかがでしょうか?」

 大画面には豪勢なベッドの上に横たわる老人の姿があった。
 吸気用のチューブを鼻に挿し、激しく頬を痩けさせている。衰弱して治療うけているようだが、その眼光は猛禽類のように鋭く、こちらを射抜くような眼光を放っていた。
 その人物こそが、裸一貫から世界有数の企業体である猩々緋グループを作り上げた総帥、猩々緋 源十郎(げんじゅうろう)であった。
 近年は表舞台に出ることがなくなった彼に対し、世間の一部では死亡説が囁かれていた。だが、ギラギラとした精気を放つ老人はモニター越しであっても異様な威圧感を放っていた。

『ふん、父親の方も好き勝手しておるようだな、ちょっと手綱を緩めればこれか……』
「はい、総帥が病に倒れ余命短いという偽の情報を入手してからは、周囲にも本社の会長だけでなく次期総帥の座は自分のものだと吹聴しております。意向にそわない者は次々と排除し続けて、確実に地盤を固めようとしております」

 常磐が手元のキーボードを操作するとし、該当する人事異動や事故のリストが画面に次々と表示されていく。
 それを一瞥しただけで、ベッドの老体は鼻で笑ってみせた。

『ふん、そんな細かいことはどうでもよいわ、これによってグループが受ける損益をみせろッ』

 静かだが腹にビリビリと響く声だ。この老人の機嫌を損ねたために潰された企業は数知れない。社交場でその前に立つのは命がけの行為であったが、その絶大な権力の蜜を吸おうと寄ってくる者はあとを絶たない。
 そんな人物を前にして、常磐はいつも通りに表情を変えずに冷静に対応しているように見える。
 しかし、モニター越しに視線が合うたびに、密かに冷や汗で背を濡らしていた。

『ふむ、有能で成長株だった幹部候補が何人も潰されているな。いくつかの部門で影響が出始めておるわ』

 膨大な資料から的確に情報を読み取っていく。そこに一流の企業家としての険しい表情を見せる。その口元が不意に緩んだ。

『フッ、そういえば面白い事を言ってっおったな、生まれついての強者か……生まれで決まるなら、ワシも苦労はせんかったわい』

 片田舎の貧しい小作人の十男坊として生まれ、口減らしに軍隊に入った自身を皮肉って笑う。

『グループをより強大にする為に、時には悪行も必要だろう。どんな悪行を重ねようが、ライバルを蹴落とそうが最終的にグループの益をもたらすならば構わん。だが、害しかないのであれば、切り捨てるのに躊躇する必要はないわなぁ』

 自らの能力だけで巨大グループを作り上げた故に、この老人は極端な能力至上主義者であった。その頭にある判断基準は、常にグループの益となるかというシンプルなものである。
 それさえ満たすのであれば、身分も人格も問わぬ登用をしてきたのだが、グループが大きくなるに従い、その眼光も行き渡らなってきていた。
 結果として将尊親子のような輩が巣食い、闇で蠢いている現状を招いていた。

「大掃除の準備は整っております」

 深々と頭を下げた常磐は、それだけ告げると静かに次の言葉を待つ。

『よかろう、好きにしろッ。それをどうにか出来ぬようであれば、それまでよ。儂にとっての強者とは、何事にも揺るがぬ者だからなッ』

 待ち望んでいた言葉を受け、常磐はコンソールの影で密かに拳を強く握る。だが、それを表面に出すほどの愚か者ではなかった。

「それでは私はこれで失礼いたします。結果は後ほど改めてご報告いたします」

 そのまま通信を切ろうとする常磐だが、それを慌てたように総帥が呼び止めた。

「オホンッ……あー、ところで……アヤツはどうしておる?」

 それまでの威風堂々とした姿から一転して、老人はどこか落ち着かない様子を見せはじめる。纏っていた覇気が消え去り、不安げに視線を泳がせる姿は別人のようであった。
 そんな反応をみせる老人が、なにを期待しているか常磐は十分に理解していた。

「はい、すぐにでも源十郎様にお会いしたいと申しておりました」

 その言葉を期待値していたのだろう。老人はパッと明るい表情となり、子供のようにはしゃいだ。

「おぉ、そうか、そうかッ、もう一週間以上もご無沙汰だからのぅ、ふふ、この歳にもなって、年甲斐もなく落ちつかぬとはな」
「では、今宵にでもお側に参りますよう手筈を整えますので、しばしお待ちください」
「う、うむ、任せたぞ」

 再び深々と頭を下げた常磐は、今度こそ通信を切る。あげた顔には侮蔑の表情が浮かんでいた。

「元はと言えば、将尊をはじめとした腐敗の元凶は、あんたの女癖の悪さが招いたことだろうに、懲りぬご老体だ」

 猩々緋 源十郎の欠点をあげるとしたら、その女癖の悪さだろう。行く先々で多くの愛人を囲い、何人もの子供を成してきたのだ。
 その多くの息子たちが今ではグループの役職に就いていた。将尊の父親もそのひとりのなのだ。
 能力至上主義を唱いながらも好いた女に弱く、多くの肉親を優遇してきた。権力闘争で蹴落としあう彼らのまわりで、巻き込まれて被害にあった者は数えきれぬほどだ。

「あんな男の血が自分にも混じっているかと思うとヘドが出るが、その甘さのお陰で僕らがここまで来れたのも事実か」

 常磐もまた源十郎の落とし種のひとつであった。
 海外視察に訪れた若き源十郎の通訳として現地で同行したのが彼の母親だったのだ。

「だが、これで馬鹿な甥の相手から、ようやく解放されるな」

 特別調教室で瑠華を犯し続ける将尊を見つめ、常磐が笑みを浮かべる。それは見るものがいればゾッと顔を青ざめるような残忍なものであった。



 制御室を出る常磐を待っている者がいた。それは、白衣のコック服を着こんだ料理担当の男であった。
 息子ほども歳の離れた常磐に対し、男は緊張した様子で一礼をする。

「留守中、いろいろと助かりましたよ」
「いえ、私はただ貴方に指示に従ったまでです」

 かつて三星レストランの料理長まで努めたという人物は、労いの言葉に安堵の表情を浮かべる。
 彼が常磐が留守の間、将尊やその部下たちの動向を伝えていた。さらに瑠華が逃走しやすように料理に睡眠薬をまぜ、鉄格子の扉を遠隔操作で開けたのもこの男の仕業であった。

「ところで、例の約束の件は……」
「わかってます。来月、フランスにオープンする猩々緋グループのホテルがあります。その総料理長に就任するよう、手続きは終えてあります」
「おぉ、ありがとうございますッ」

 多くの顧客を虜にする料理を産み出してきた男にとって、彼の味を理解しない者たちが巣食うこの地下施設で料理を作らされる日々は苦痛でしかなかった。
 彼もまた将尊親子の被害者であり、不満を募らせているのを見抜いた常磐が、手駒として引き入れたのだった。
 常磐の言葉に全身で喜びをあらわした男は、一礼すると手荷物を抱えて小走りにエレベーターへと向かっていった。
 それを見届けると、彼はそれとは反対方向へと歩きだす。フロアの奥へと向かう通路には人の気配はない。
 他の者は食堂に集められ、料理長が酒や食料に仕込んでおいた睡眠薬によって今ごろは大イビキをかいているころであった。
 静まりかえった通路に常磐の靴音だけが響く。それが止まったのは、この施設で彼に割り振られた個室の前であった。
 シャワールームや簡易のキッチンまである室内には、最低限のモノしか置かれておらず、生活感がまるで感じられない。
 そんな部屋の奥に設置されたシングルベッドに腰掛ける人影があった。

「お帰りなさい」

 手にしていたタブレットの画面から目を離して微笑んだのは琴里であった。
 それに常磐は今までの無表情さが嘘のように晴々とした笑顔を返すと、その足元にひざまづいて脚に頬を擦りよせる。

「……ようやく、あの男から承諾を得たよ」
「そう、良かったね」

 心地よさそうに太ももへと顔を埋める常磐に、琴里は愛しそうに優しく撫でていく。
 頭に触れる指先の感触に、常磐は心地良さそうにみるみる表情を緩めていった。いつもは変化が乏しい表情が嘘のように年相応のものへと変化しているのだ。
 甘えん坊な姿にクスリと笑みをこぼした琴里は、その耳元に口を寄せて優しく囁いた。

「……他に、私に伝えることがあるんじゃないの?」

 その言葉に沈黙を返す常磐であったが、続く沈黙に根負けしたように面をあげる。その表情は拗ねた子供ようだ。

「あぁ、アイツが琴里に会いたいってさッ」
「うふ、もう10日も会ってないものね。どんな様子だった?」
「いつも険しい表情したジジイが、まるでガキみたいにモジモジさせて気色悪かったよ。まったく、あの施設の大人たちを思い出して吐き気がしてくる……それなのに、また琴里をアイツに差しださなくちゃいけない……」

 視線を反らして、吐き捨てるようの言い放つ。怒りに肩を震わせる姿に、琴里は優しく抱き寄せて頬を擦りあわせた。



 かつて南米を視察中だった猩々緋 源十郎は、ひとりの女性と深い仲になった。その関係は源十郎が滞在中であった数日のことで、二人の関係に愛があったかは今となってはわからない。
 ただ、彼の帰国後に妊娠が発覚すると、彼女はそれを源十郎に伝えることなく双子を出産していた。
 その後も故郷である山村で、ひっそりと子育てをしていた彼女だが、運転していた車が崖下に転落するという不慮の死をとげてしまう。
 同乗ていた子供らは、奇跡的に死を免れたものの身寄りのなくなった彼らは政府要人が経営する私設の養護施設で育てられることとなる。だが、そこは子供はタダで使える使い捨ての労働力として扱うような最悪の場所であった。
 早朝から深夜まで働かされる劣悪な環境でありながら、その対価に与えられるのは1日1回の残飯のような食事と僅かな睡眠時間だけだ。それでも雨をしのげる寝床と食事を得られるだけ、まだストリートチルドレンよりマシだと施設の大人たちに教えこまれた。
 数年してある程度成長すると、ふたりはロリコンの変態客を相手する売春行為までさせられるようになる。
 同じく施設に収用された子供の中には、逃走を試みたり、助けを求める者もいた。だが、オーナーである政府要人の力ですぐに見つけ出され、訴えも揉み消されていた。

――弱者として生まれた自分がいけない……

 そう思うしかなかった。そんな生活に転機が訪れたのは、ふたりが十代になったばかりの頃、施設の大人たちの会話を立ち聞きしたことだった。

「ガキを飼い殺しているだけで大金が振り込まれるんだぜ、まさに猩々緋グループ様さまだよなぁ


 酒瓶を片手に赤ら顔の所長が、新人の職員相手に愉快そうに自慢しているのを聞いたのだ。
 会話から、自分達が猩々緋グループ会長の子供であり、母親の死や自分達を施設に入れる手引きをしたのが会長の親族であることを知った。
 その証拠として密かに所長が盗撮していた記録映像と大金が振り込まれている口座記録を自慢げに見せびらかす。それを盗み見ながら、ふたりは自分たちの考えを改めていた。
 その夜、備蓄倉庫から上がった不審火によって施設は全焼した。焼け跡からは逃げ遅れた職員全員の遺体が見つかるものの、収容されていた子供たちは奇跡的に全員が無事であった。
 だが、消火活動で混乱する現場からいつの間にか、双子の姿は消えていた。
 その後、琴里が現地に駐在していた日本人夫婦の養子となるとともに、少年は常磐と名を変えると自らの出生の証拠ともなる記録映像を手に猩々緋 源十郎へと密かに接触をはかったのだった。



 常磐が特別調教室を訪れると、将尊はまだ瑠華を責め続けていた。
 黒いビキニパンツ姿の将尊が、逆さ吊りにした瑠華の頭部を水槽に沈めているところだった。

「――ぐが……ごぼッ、ガハッ」

 身体を折り曲げればどうにか水面から顔を出せる位置に瑠華は吊り下げられているのだが、身を屈めて水面に顔を出そうとすると将尊がサンドバッグのように腹部を殴ってくる。
 たまらず持ち上げていた頭部が再び水没してしまう。空気を求めようと水中から顔をあげるたびに、腹部を殴られて引き戻された。
 ろくに空気を吸えずに水中で苦しげに美貌を歪ませ、後ろ手に拘束された裸体が激しく身悶える。その姿を血走った目で見下ろし、将尊が愉快そうに笑っていた。
 だが、常磐の入室に気がつくと途端に不機嫌そうにニキビ顔を歪めはじめた。

「なんだ常磐、お前を呼んでないぞぉ。今、いいところなんだ、邪魔だからとっとと出ていけッ」

 高圧的に告げる将尊であったが、その命令に常磐が従う様子がないのに苛立ちはじめる。だが、その背後に琴里の姿をみとめると、表情を強張らせていく。

「な、なんでその女を連れてきたッ、どっかへ連れていけッ」

 指を突きつけ、怒鳴り散らす将尊だが、目の前に立つ存在に戸惑いをおぼえていた。
 少女らしからぬ妖艶な笑みを浮かべて、舌先で唇を舐める仕草はまるで娼婦のように艶かしい。まるで少女の中身が入れ替わったようなのだ。
 おもわず挙動に見惚れてゴクリと生唾を飲み込んでいた。気がつけば少女は目の前に立っており、熱い眼差しを注ぎながら、その細い指先をブリーフパンツの隆起へと這わしていた。

「はぅッ、うぉッ……な、なんだ……なんなんだ、これは……」

 指先で触れられだけでも背筋をゾクゾクっと震えてしまうのだ。
 その上、少女は身体を密着させて熱い抱擁を加えると脂ぎったニキビ面をまるで愛しいもののようにキスをし、舌先で舐めまじめるではないか。
 実の母親にすらそんな風に触れられたことはなかった。将尊の胸のうちに言い様のない感情が涌き出てくるのを感じた。
 潤んだ瞳で見つめられ、キスを求められると、恐る恐るといった風に唇を重ねた。
 舌を差し入れれば少女の舌がまるで生物のように絡みつき、唾液を旨そうに飲み込んでいく。
 その一方でブリーフの中へと侵入した細い指先が痛いほど勃起した肉棒に絡みつき、包み込むように刺激を加えていく。

「おぅッ、おぉ、なんだよこりゃッ、すげぇ気持ち良すぎだろうぅ」

 将尊がこれまで経験してきたセックスが稚戯のように思えるほどの悦楽だった。的確に男の身体のツボを抑え、さらに当人すら自覚してない肉悦の源泉までも刺激してくるのだ。
 これまで経験したことのない強烈な刺激に、身体がガクガクと震え、脳が電流で焼かれるかのようだ。そんな未知の領域まで達した肉悦に、たとえ将尊でも長く耐えられるはずもなかった。

「うぉ、だめだぁぁ、いっちまぅぅ」

 雄叫びをあげてひときわ大きく肥満体が震えた。そして、ついには白眼を剥きながら少女の手の中で精を放っていた。



 将尊は目を覚ますと、床に横たわっている自分に気がついた。

「うッ……うぅ、俺はいったい……」

 倦怠感に包まれ、再び瞼を閉じたい衝動にかられる。だが、徐々に記憶が戻ってくると琴里の性技に翻弄されたのを思い出す。

「あぁ、あの女に……くそぉ、なんなんだよ、ありゃぁ」

 拐ってきた数々の女たちを悶え啼かせ、調教してきた将尊である。当然、セックスには絶対の自信をもっていた。それなのに一時も耐えることもできずに達してしまったのだ。
 プライドの高い将尊なら、本来なら怒り狂うところだろう。だが、そのことを思い出すだけでムクムクと股間が勃起しだし、口許が緩んでしまう。
 あの快楽を再び味わいたいという強い想いが優っているのだ。

「くそぉ、常磐のヤツめ、俺様に取られるのを恐れて隠してやがったなッ……ぐふふ、まぁいいさ、あとで土下座させて、あの女を差し出させてやる」

 これまでも欲しいものは手段を選ばずに手に入れてきた少年だ。相手が何者であろう関係ない。邪魔するものは排除するだけである。
 琴里を手に入れた後を想像してニタニタと不気味な笑みを浮かべる将尊だが、そのときになってようやく室内にいるのが自分だけなのに気がついた。

「瑠華ッ、俺様の瑠華がいねぇッ」

 室内を見渡しても他に人影はなく、目の前で彼女の吊るしていた鎖が虚しく垂れ下がっていだけだ。
 すぐにこめかみに血管を浮かべると、怒りに肩を震わせはじめた。

「くそぉぉ、また逃げやがったのかッ、おい、瑠華が逃げたぞ、すぐに捕まえて連れてこいッ」

 インターフォンで管制室へと指示を飛ばすのだが、常に常駐しているはずの部下からなんの反応がなかった。

「くそぉぉッ、役立たずどもがッ」

 怒りのあまり髪をかきむしった将尊は、特別調教室から飛び出していった。



 その頃、瑠華は常磐に抱きかかえられてシェルターの出口に向かっているところで、それに付き添う琴里はニコニコと上機嫌な様子であった。
 すると唐突に常磐の歩みを止まると、少女とは対象的に不機嫌な顔を琴里へと向ける。

「あぁ、やっぱり、これは置いていかないか?」
「ダーメだって、なんども言っているでしょ」

 琴里に返答にあきらかに不満そうで、抱えている瑠華を見下ろす。裸体をシーツに包まれた彼女は、ぐったりと頭をたれて気を失っていた。
 少しやつれてはいるものの、それで美貌が霞むものではなかった。常磐はそれに見惚れるどころか、露骨に嫌そうに表情を歪めてみせた。

「もぅ、ヤキモチ妬きなんだからぁ。ほら、わかったら歩く、歩くッ」

 琴里に促されて嘆息すると常磐は諦めたように歩きだす。
 すでに同じやり取りを何度も繰り返していた。常磐自身は瑠華を助ける気は毛頭もない。可能ならば排除したいぐらいの存在なのだ。だが、冷徹に見える少年も、溺愛する妹が甘えるような眼差しを向けてくると抗えないのであった。
 すでにエレベーターを降りていた。あとは、最後の階段を登り、厚さ2メートルもある合金製の扉を潜れば地下駐車場に出れる距離まできていた。

「常磐ぁぁッ」

 突然、背後から名を呼ばれて常磐の足が止まる。ゆっくりと振り向いた先には、鬼のような形相をした将尊がいた。
 ここまで走ってきたのだろう。黒のブリーフパンツ姿で荒く息を乱している。その手には鈍い光を放つ猟銃が握られていた。

「てめぇ、俺様の瑠華をどうするつもりだッ」
「やれやれ、随分と早いお目覚めですね。外見に似合わず無駄に体力がある御方だ」
「うるせぇッ、聞かれたことにだけ答えろッ」

 血走った目で睨みつけて銃口を向けてくる将尊に、常磐は慌てることもなく冷笑を浮かべていた。
 その一方でゆっくりと立ち位置を変えて、琴里の盾となるよう移動していた。

「いえねぇ、めでたく貴方のお守りからようやく開放的されましたので、これは退職金代わりに頂いていこうと思いまして」
「なッ、なにを言ってやがる。瑠華は俺様のものなんだよッ、それをてめぇ、殺されたいのかッ」

 脅しにも動じず、怒りで震える銃身を冷ややかに見下す。だが、なにかに気がついたように常磐は表情を改める。

「いえいえ、そんな気はありませんよ。ほら、ここに置きますから銃を向けるのは勘弁してください」

 足元にシーツに包まれた瑠華を下ろすと、降参とばかりに両手をあげて後退る。
 だが、怒りのおさまらぬ将尊は銃口を下ろそうとはしなかった。

「待てよ。ジジィの手前、今はお前を生かしておいてやる。だがなぁ、その後ろにいる女も置いていってもらうぞ」

 常磐の背後から顔を覗かせる琴里を見つめてニタリと笑う。

「ぐふふ、瑠華ともども死ぬまで俺様が可愛がってやるから安心しろ」

 シーツに包まれた瑠華に手を伸ばしながら、琴里による快楽を思い出しているのだろう。ブリーフパンツの膨らみを大きくしながら、ジュルリと舌舐めずりをしていた。

「おい、図に乗るのもいい加減しろよ、この豚野郎がッ」

 常磐は激昂していた。常に激しい感情を露にしなかった彼が怒りの形相を浮かていた。その迫力に虚をつかれて将尊が間抜けな顔をさらす。
 
「……なッ、てめぇッ」
「ブヒブヒと煩く喚くなよ、あとなぁ、いままで黙っていたがお前の息は臭いんだよ」
「常磐ぁ、てめぇはやっぱり殺すッ」

 侮蔑の言葉に銃口が常磐に向けられる。その引き金に指がかけられようという瞬間、その手首が不意に掴まれた。
 シーツから伸びた細い腕が、そのまま将尊の腕を捻りあげて、あっという間に銃を取り上げていた。

「こんな物騒なものは取り上げさせてもらうわよ」
「る、瑠華ぁ」

 将尊を突き放して、瑠華がゆっくりと立ち上がる。シーツはハラリと足元に滑り落ちるのも気にせずに、全裸のまま将尊と対峙した。その視線が背後にいる常磐へと移った。

「どういうつもりか知らないけど、今度は邪魔しないわよね?」
「えぇ、貴女のお好きなように」

 鋭い眼光に射ぬかれて、常磐は面倒くさそうに肩を竦めてみせる。

「なにを言ってやがる、お前は俺様のモノなんだよぉ、逃がさねぇし、死ぬまでここで飼われるんだよぉ。それとも、まだ諦められねぇのなら、今度は婚約者の男も拉致って、お前の本当の姿を見させてやるよぉ」

 目を血走らせて掴みかかってくる将尊。その腕を流れるような動作で掴み、体重を崩した足を払う。すると将尊の身体が宙を舞っていた。
 そのまま空中でクルリと一回転すると背中から床に叩きつけられる。
 強化コンクリートの硬い床だ。とっさに受け身も取れずに落下しては、かなりのダメージだ。それに勢いあまって後頭部も打ちつけていた。

「――ぐへぇ」

 白目を剥いて気を失った将尊を、瑠華は殺意を込めた目で見下ろす。このまま少年の命を奪うことも彼女なら可能であった。
 今の彼女には迷いはない。あるのは愛しい人に会えない身体にされた憎しみだけだった。
 凍てつく眼差しのまま、握りしめられた拳がゆっくりと振り上げられていく。 

「やったッ、流石は瑠華さん」

 だが、歓声をあげて抱きついてきた琴里によって、それは中断させられてしまった。
 怒りが彼女を奮いたたせていたのだろう、それで緊張の糸が途切れてグラリと倒れ込みそうになる。それを常磐が再び抱きあげていた。

「は、放しなさいよ、貴方の手なんて……」
「じゃぁ、彼女におんぶでもしてもらいますか? そんな事もできないくせに、相変わらず馬鹿な女ですね」
「なッ、あなたねぇ……」
「まぁまぁ、瑠華さん、もう出口だから、ちょっとだけ我慢してね」

 喧嘩が勃発しようとするのを琴里が押しとどめ、その背中を押すようして歩かせ始める。
 最後の階段をのぼり、大扉を抜けると強力なライトの光が三人を照らした。地下駐車には大量の車両とともに大勢の人間が待ち構えていたのだ。
 常磐が連れてきた黒服に加え、作業員らしき服装の男たちが忙しそうに作業しているのが見える。
 その脇には大型の投光器やコンクローリ車などが並んでおり、さながらぶ工事現場のような光景であった。

「常盤様、お待ちしておりました。準備はできております」
「じゃあ、あとは手筈通りに頼む」

 ヘルメットを被った現場監督らしき人物に指示をだすと、作業員たちの動きが慌ただしくなる。彼らによってコンクリート車から延びたパイプが扉の中へと引き入れられていった。
 その作業を横目に進むと、常磐は瑠華を抱えたまま扉を開けられたリムジンに乗り込んだ。
 三人を乗せた車は静かに動き出すと、地下駐車場を出て、そのまま将尊の別荘を後にするのだった。





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