強者の定義 狙われた教壇のヴィーナス

【19】 訪れた機会、開かれる扉

 瑠華の身は地下へと戻されていた。
 ただし、移されたのは今までの特別調教室ではなく将尊の寝室であった。
 特別調教室には監視カメラがあり、有事に備えるという名目で別室に控える男たちが常に見ていた。
 琴里を交えての3Pに今までにないほど激しく乱れる瑠華の反応に味をしめた将尊は、カメラのない自室へと連れ込んで、その楽しみを独占しようという腹積もりだったのだ。
 事実、瑠華を寝室に運ぶよう指示を出すと部下たちは露骨に残念がり、それが将尊を大いに喜ばせた。

(グフフッ、瑠華がこんなに乱れるなんてなぁ。これなら、もっと早くに常磐の提案を聞いてやっても良かったかもなぁ)

 琴里を交えてのプレイは、実は常磐から何度も提案されていたものだった。
 だが、ようやく手に入れた瑠華を、ひとりで堪能したかった将尊は、それを今まで無視してきた。

「ジジィのお気に入りだか知らないが、所詮は海外の孤児施設で育ったとかいう、どこの馬の骨ともわからん男だ。そんなヤツの言葉に、どうして生まれついての強者である俺様が従わねばならないんだ?」

 日本有数の企業体である猩々緋グループの会長を祖父にもち、なに不自由なく育った将尊の心は、弛んだ身体同様に自尊心だけが肥大して醜く歪んでいた。
 病床にあるという会長が亡くなれば、社長である父親が会長に就任するだろう。そうなれば黙ってたって自分が空いた社長の座につくのが当然とすら思っていた。

(そうなれば、小煩い親族や従兄姉どもを猩々緋グループから追い出して、もっと派手に楽しんでやる……だが、まぁいい、今は瑠華を骨の髄まで楽しむのが最優先だからな)

 地下に戻ってからも瑠華はタガが外れたままで、琴里と共に将尊の怒張にふるいつき、肉茎へと舌を這わしては自ら大股を広げて挿入を求めてきた。
 自慢の怒張で射抜いてやると、まるで別人のように淫らに乱れて肉欲に溺れていく。その様が将尊には痛快で、常に口許が綻んでしょうがなかった。
 今までも気に入った女を部下たちに拐わせては犯してきた将尊であったが、瑠華に対しての思い入れは一際強く、ようやく自分に従順になったのが嬉しくてたまらないのだ。

「グヒヒッ、俺様の物だぁ、瑠華は俺様の物だからなッ」

 お気に入りの玩具をようやく手に入れた子供のように一時も手元から離したくない将尊は、寝室の天蓋つきのベッドにふたりを鎖で繋ぎ止めて寝る間も惜しんで瑠華を犯し続けていた。
 食事も寝室に運び込ませて、犯しながら食べる徹底さであり、そうしてすでに一昼夜を過ごしていた。
 その間、琴里は犯される瑠華がより肉悦に浸れるように愛撫をほどこして愛を囁いていく一方で、将尊の射精が少しでも早まるよう彼に対しても奉仕していた。
 今も後手に拘束された瑠華をバッグで犯す将尊の背後にまわると、進んで彼の弛んだ尻へと鼻先を埋めて、可愛らしい舌先でアナルを刺激していた。そうして、短い鎖で繋がれた両手で玉袋を心地よいタッチで刺激していくのである。

「おぉぅ、こいつぁッ」

 それがなんとも気持ちよくて、ゾクゾクと背筋に震えがくるほどの刺激と共に、いつもより激しく精を放ってしまう。
 今まで感じたこともない3P奉仕の快感にすっかりハマってしまい、将尊がふたりを引き離せずにいる理由にもなっていた。

「ぐふぅ……どこでそんなプロ顔負けのテクニックを覚えやがったッ、あぁン、常磐のヤツか? あの野郎ぉ、いつも冷めた目をしてる癖に……グフフ、いつも連れ歩いてると思ったら、こういう貧相な身体のガキが好みかよッ」

 ひとり合点がいったように嫌な笑みを浮かべる将尊を、ベッドに座り込むボディスーツの少女はジッと焦点の合わない目で見上げていた。
 長時間におよぶ凌辱行為に、絶倫を誇る将尊の怒張も流石に勢いを失っていた。その男根を前にすると、少女は両手を添えて愛しそうに口に含んでいく。
 小さな口に咥えられて、可愛らしい舌先とか弱そうな細い指で刺激されていくと、みるみると男根が回復していった。

「おぉうッ、そこまでだッ、バカ野郎ッ、それ以上されたら出ちまうだろうがッ」

 慌てて引き抜かれた肉棒と少女の口元を透明な糸があとを引いては切れていく。

「こりゃスゲェなぁ、ヒヒッ、いくらでも勃っちまうッ。ついでだから、常磐お気に入りのコイツも俺様の物にしてやるか……うん、そりゃいいなッ」

 名案を思い付いた言わんばかり興奮する将尊は、空腹を覚えてベッド側のインターフォンへと手を伸ばす。

「おぃ、精をつく料理をジャンジャン持ってこいッ……あぁ、いつものステーキも忘れずになッ、腹が減ってるんだからなッ、30分だけまってやるから、すぐに持ってこいッ」

 調理担当をしている部下へと一方的に告げて受話器を置く。振りかえってみれば、ベッドの上ではその隙に女たちが絡みはじめていた。
 うつ伏せに寝る琴里の上で、騎乗位の形で瑠華がディルドウを咥え込んでいた。

「くふぅン、琴里ちゃん……イイわッ」

 手枷で後手に拘束されたまま、腰をクイックイッと前後に揺すっては媚声をあげる。
 そこに教壇で立って教えていた知的な女教師の面影はなく、口許から涎を垂らしながら肉悦に表情を惚けさせた堕ちた女の姿があった。
 その姿に改めて欲情すると、将尊は背後から襲いかかっていった。琴里に跨がったまま状態で、上体を前に倒させると、突き出された量感あるヒップを鷲掴みする。

「――あぁン」
「目を離すとすーぐチチクリあいやがって、ご主人様である俺様を差し置いてなにしてやがるッ」
「あぁ、ごめんなさい。ねぇ、瑠華の……うふン、お尻の穴を犯して下さい」
「グフフッ、瑠華がそんなに頼むのならしょうがないなぁ、その代わり俺様をちゃんと楽しませろよ」

 尻肉の谷間でキュッとつぼむアナルへと亀頭を押し当てると、ズブズブと埋没させた。すでに数えきれぬほど犯されたアナルは、苦もなく将尊の肉棒を受け入れていく。

「あぁッ、は、はいッ……くふッ、入ってくるぅ」
「おぉぅ、二本挿しもすっかり気に入ったみたいだなぁ、俺様のチ×ポが喰い千切られそうだ」
「はぁ、くふぅン、はぃッ、も、もっと突いてぇン」

 濡れた眼差しで瑠華に仰ぎ見られて、将尊は興奮を高めていく。覆い被さるように柔らかな女体を抱き締めると、その唇を奪う。
 その下では、琴里が乳房を優しく揉みながら、硬く尖った乳首を指に挟んで刺激を与えていた。

「あふン……イイッ……あぁン、またイッちゃうぅ」

 ふたりに挟まれた瑠華が、ガクガクと腰を揺すりながら絶頂を迎えた。その激しい締め付けに耐えきれずに、将尊も一緒に射精してしまう。

「ぐぉぉ、出すぞッ、イッちまえッ」
「はい、イ、イクぅぅ、イキますぅぅ」

 次々と注ぎ込まれる白濁の精に、琴里の上に跨がる瑠華が背を反らして絶頂を告げる。
 その張りのある尻肉に指を食い込ませた将尊は、ブルブルと腰を震わせながら最後の一滴まで精を注ぎ込んでいった。

「はぁ、はぁ、ど、どうだッ、俺様の精子をタップリ注ぎ込んでもらえて嬉しいだろう? このケツ穴もオマ×コも俺様のもんだからなッ」

 男根が引き抜かれた後もポッカリと口を開けたままの尻穴から、ドロリと溢れ出てくる己の精液に将尊は満足げだ。
 一昼夜、ぶっ通しで続けられた凌辱行為に、瑠華は気を失っているのか琴里の上でガックリと首を垂れて反応がない。
 絶倫である将尊にも流石に疲労はみられた。精強剤の瓶を何本も開けては、グビグビと飲み干してゲップを放っていく。

「失礼します」

 そこへ先ほど命令しておいた料理が届けられた。
 ベッド脇のテーブルに綺麗なテーブルクロスがセットされると、ワゴンで運び込まれた料理が次々と並べられていく。
 最後に、メインディッシュの肉料理をコック帽をかぶった恰幅のよい男が目の前で焼き上げていくと、室内には美味しそうな香りが立ち込めていった。
 その調理の手際は見事なもので、ちょっとしたパフォーマンスのような手捌きに他の部下たちも思わず見惚れてしまう。そのまま流れるような作業で料理を切り分けて、お皿の上に芸術品のごとく美しく盛り付けていく。そうしてテーブルの上に並べられた数々の料理、そのどれもが一流レストランに出せるレベルの品であった。
 それもそのはず、この料理担当の部下は、長年海外で修行して猩々緋グループのホテルで料理長を任されたこともある男であった。
 その彼の料理を口にして気に入った将尊の為に、彼の父親が社長特権を利用して息子専属のコックにしたのだから、作られる料理の質が高いのは当然であった。
 だが、当のオーダーを出した将尊は、料理には見向きもせずに瑠華から目を離さそうともしない。

「ささッ、将尊様、温かいうちにお召し上がりください」

 何度か声をかけられて、ようやく将尊が応じた。

「チッ、しょうがないなぁ。あぁ、お前らは邪魔だから、もう下がっていいぞ」

 面倒くさそうに部下たちを部屋から追い出すと、将尊は全裸のまま肉厚のステーキにフォークを突き立てて、そのままかぶりついていく。

「グフフッ、待ってろよッ、次はオマ×コを犯して子宮を俺様の精子でイッパイにしやる。今度こそ絶対に孕ませてやるからなッ」

 クチャクチャとステーキを頬張りながら、その目は、まるで憑りつかれたように瑠華を見続けていた。



「う……うぅん……」

 瑠華が意識を取り戻すと、そこはベッドの上であった。
 身体は鉛のようの重く、瞼を開けるのも辛い。肌に感じる心地よいシーツの感触に、再び眠りにつきそうになってしまう。
 だが、そこが自室のベッドでない事に彼女は気がついた。

(そうだ、私は……)

 混濁した意識の中、次第に自分の置かれていた状況を思い出していく。
 慌てて瞼が開かれた瑠華の目の前には、将尊の顔があった。

「――ッ!?」

 視界いっぱいに広がるニキビ面に、思わず悲鳴をあげそうになる。
 だが、必死の口をつぐんで、それを押し殺す。よく見れば将尊は寝ていたのだ。凌辱の最中に眠りこけたのか、全裸のまま大の字で横たわり、瞼を半分開いて白目を剥いたまま大イビキをかいていた。
 薄暗闇の中、落ち着いて周囲を見渡せば、広々としたベッドの上には琴里の姿もあった。突っ伏すようにして横たわり、寝息を立てて眠っている姿に瑠華はホッとした。
 同時に少女が身に着けている漆黒のボディスーツが、靄のかかっていた瑠華の記憶の中から、ふたりで交わしたキスと、その後の数々の淫らな行為の記憶を掘り起こしていく。
 同性であり、教え子でもある琴里と口付けを交わしてしまった。それも男たちに強要された訳でもなく、時には自らも求めてしまったのだ。それは聖職者である瑠華にとって、将尊に犯される事と同じぐらい胸が引き裂かれるような記憶であった。
 その事に心を沈ませてしまう瑠華であったが、周囲に他の人の気配がないことにも気がついていた。
 
(……なんだろう……なにか、いつもと違う……)

 身も心も擦り切れてボロボロの瑠華。それでも琴里の事を想えば自らを奮い立たせられた。挫けそうになる自分を叱責しながら、状況を確認していく。
 ゆっくりと身体を起こして周囲を観察してみれば、いつもの殺風景な調教室ではなく、そこは個人の寝室のようであった。

(高価な調度品が並んでいるから、恐らく将尊の私室かしら……)

 長い鎖で首輪がベッドの柱に繋げられ、背後に回された両腕も手枷で自由を奪われていた。それでも、いつもの執拗なほどの拘束具合に比べれば、随分と軽いものだ。

(……これは、チャンスかもしれない)

 詳しい事はわからない。だた、それだけはわかった。
 目の前にずっと離されていた琴音がいて、首謀者の将尊までもいる。それに、瑠華がひとり起きたというのに、この部屋に人が入ってくる気配もないのだ。
 試しに首輪の鎖の長さに気を付けながら、ベッドから床へと脚を下ろしてみる。そのまま立ち上がろうとした瑠華は、ガクリと膝を崩して倒れそうになってしまった。
 慌ててバランスを取って踏みとどまるものの、想像以上に衰えている自分の肉体に驚いてしまう。
 監禁されている間、瑠華の反抗を恐れた男たちによって常に厳重に拘束されていた。長時間、同じ姿勢を強要される事も多く、お陰で筋肉は衰え、関節も悲鳴をあげていた。毎日の鍛練を欠かさずにいた肉体の変わりように、おもわず涙が出そうになってしまう瑠華であった。
 それに加えて食事も睡眠もろくにあたえてもらず疲労の蓄積も激しい。次にチャンスが来たとしても、それを活かせるか自信がなかった。

(やるなら、今しかないわ。男たちに汚されて、もぅ、彼と顔を合わせられないけど、それでも琴里ちゃんだけは助ないと……)

 そう決意するものの、愛しい人のことを想うと胸が締め付けられてしまう。堪えきれずに、こぼれ落ちた涙が頬を濡らしていった。
 そうして、泣いて弱さを吐き出したことで、皮肉にも瑠華の気持ちはようやく落ち着きを取り戻すことができた。
 身を屈めると、手枷の鎖を跨いで前に通す。南京錠で施錠されている為に手枷も鎖も外せなかったが、それでも手が使えるようになるのは大きい。
 物音を立てないように周囲を調べていくと、ベッド脇のテーブルには冷めきった料理が置かれていた。空腹に思わず手をつけたくなる瑠華であったが、今はその欲求を抑えた。
 その代わり、料理の器の影に鍵束を見つけることができた。試しに手枷の南京錠に使ってみるとカチャリと呆気なく外れるではないか。慌てて自分の首輪にも試いてみると、そちらも外すことが出来た。
 久々に感じる自由に嬉しさが込み上げながら、身体の状態を確かめるように動かして強張った筋肉をほぐしていった。

(ふぅ、少しはマシになったわね……)

 万全とはいえない。それでも、先程よりも足取りがシッカリしたものになっていた。
 近くに綺麗に折り畳まれたバスローブも見つけて、それを身に纏うと、琴里の拘束も解錠して肩を揺すった。

「琴里ちゃん、起きて」
「うぅん……る……瑠華さん……」
「シッ、大きな声を出さないでね」

 喜びに声をあげそうになる少女の口元を手で押さえながら、瑠華は未だに大イビキをかいて寝ている将尊を指差す。
 薬の効果が切れたのか、それだけで事態を察した琴音はコクリと頷いた。

「あぁ、瑠華さん……ごめんなさい、わたし……」
「えぇ、大丈夫よ」

 肩を震わせる琴音を優しく抱き締めると、頭を優しく撫でながら少女が落ち着くのを待った。

「どう、落ち着いた?」
「はい、ごめんなさい……」
「細かい話はあとでね」
「はい」

 ふたりは協力して未だに眠り続ける将尊をうつ伏せにすると、その両腕に手枷をはめていく。首が太いので首輪は諦めて直接鎖を巻きつけると南京錠で施錠をした。
 その間にも将尊が起きる気配はなく、作業はスムーズに進んでいった。

「ホント、よく寝てるわね、コイツ」
「でも、そろそろ起きてくれないと困るわ」
「じゃぁ、瑠華さん、私が起こしますね」

 琴里は料理と一緒に置かれていたピッチャーを手に取ると、中の水を将尊の顔へとぶちまけた。

「ほら、起きなさいよッ」
「ぶへッ、な、なんだーッ、お、おい、どうなってる」
「ギャーギャー騒がない。これみて分からないほど、バカじゃないでしょ?」

 ステーキ切り分け用の包丁を手に取ると、琴里はその腹でピタピタと将尊の頬を叩いて脅しをかける。
 その姿が妙に様になっていて、普段は大人しい優等生な少女が見せた意外な一面に、脇にいた瑠華は驚きをみせていた。

「キ、キッ、キサマッ、この俺様に、こんな事をして……ぐへッ」
「はいはい、その言葉、そっくり返すわよ」
「や、やめろッ、ぐへぇッ、げへぇッ」

 グリグリと琴里に股間を踏みつけられて、騒ぎ出そうとした将尊がたまらず悶絶する。その姿を冷たい目で見下ろしてながら、琴里は尚も踏み続けていった。
 そんな琴里の姿に驚かされ続けていた瑠華であったが、ハッと我に返るとそれを慌てて止めさせた。

「もぅ、瑠華さんはコイツのこと、憎くないんですか?」
「……憎い……憎いわよ。でもね、これから、ここを脱出するに、彼が自分で歩けないと困ると思うの」
「あぁ、やっぱり瑠華さんて凄いわ、こんな時でも、そんな冷静でいられるなんてッ」

 無邪気に喜ぶ琴里に、瑠華は曖昧な笑みで応えた。実際のところ、瑠華の心は少女がいうほど冷静でもなく、憎しみや悲しみの感情が激しく渦巻いていた。
 だが、今は最優先にすべき事を琴里を逃がす事と決めた彼女は、自分の感情を脇において行動しているのだ。
 だから彼女は、脱出するべく次の行動へとすぐに移っていった。


 施設内のいたる所にカメラが設置され、それらは施設中央にある管制室でモニターされていた。
 そこでは、施設内の電源供給から空調、水の流れまで一括して管理しており、シェルターの出入り口の開閉もコントロールしている施設内の心臓部ともいえる場所であった。
 調教室の様子も監視カメラで見るとこができる為、数日前まで特別調教室で責められている瑠華の姿を見ようと、連日部下の男たちで賑わっていた。
 だが、将尊がカメラのない自室へと瑠華を連れ込んでしまい、それも叶わなくなってしまった。
 今は監視当番のふたりのみが滞在して、気怠そうにモニターを眺めていた。

「……んん? お、おい、これを見ろよッ」

 最初にモニターに映る異変に気が付いた男が相棒に声をかける。そこには、瑠華たちに連行される将尊の姿があった。
 全裸姿で後手に拘束された将尊が、首に巻かれた鎖を引かれながら琴里に刃物を突きつけられているのが見えた。
 カメラの存在に気が付いた瑠華が、なにかを喋りかけてきていた。慌ててマイクのスイッチを入れると、スピーカーから彼女の凛とした美声が聞こえはじめた。

「見えてる? こちらは見ての通り、将尊を捕らえているわ。要求はひとつ、外への扉を開いて私たちを解放しなさいッ」

 すぐさま連絡を受けた男たちが現場に駆けつけてきた。だが、彼らは瑠華の姿を目にすると、一様に驚いた様子を見せた。
 先日まで男たちに好き勝手に凌辱されていた弱々しい姿が嘘のように毅然と構え、以前のような覇気まで戻っていたのだ。
 それは瑠華の精一杯虚勢だったが、効果はあった。彼女の強さを知る男たちは、ひと睨みされただけで腰が引けてしまっていた。

「さぁ、そこの鉄格子を開いて私達を地上へのエレベーターに乗せなさいッ、それとも強引に行こうかしら?」

 啖呵をきった瑠華が一歩前に踏み出すと、男たちが怯えたように後退る。その背後には鉄格子の扉があり、更に向こうにはエレベーターが見えた。
 だが、男たちは戸惑ったように顔を見合わせるだけで、鉄格子が開く気配もない。
 常磐がいない為に、将尊が捕らえられた今の状態で彼らに指示を出せる者がいないのだ。
 後で責任を問われるのを恐れて、誰ひとり決断を下せずにいる男たち。その為に、状況が変わらずに時間だけが過ぎていく。そんな中、最初に苛立ちをみせたのは将尊だった。

「このぉッ、てめぇら、なにグズグズしてやがんだよッ、役立たずどもが、早く俺様を助けやがれッ」

 将尊が全裸で拘束されたまま大声で騒ぎだした。怒りに目が血走り、唾を撒き散らして怒鳴り散らしていく。そのヒステリックな姿に、瑠華はおろか部下の男たちも、思わず唖然としてしまう。
 それはナイフを押し付けていた琴里も同様で、突然、暴れだした将尊に手元が狂って切っ先で彼の頬を切ってしまっていた。

「ちょ、ちょっと暴れ――あッ」
「い、痛ぇぇッ……あッ? あぁッ!? 血ッ、血がでてるッ、ヒィィィッ」

 頬から滴り落ちた自らの血に、将尊は今度はパニックを起こしはじめた。顔面を蒼白にしたかと思うと、床に倒れて狂乱状態になってしまう。
 そんな将尊の姿にその場にいる全員が戸惑う中、琴里はひとりため息をつくと彼を抱き起こしていく。

「悪かったわよ。傷は、痕も残らないぐらい浅いわよ。でもね……もっと反抗するなら、耳ぐらい切り落としても良いかもね」

 ボソリと耳元で囁かれた圧し殺した声に、将尊がギョッとして声の主を見る。こそには、冷えきった目で見つめる少女の顔があった。
 それは一瞬で、他の者にも死角で見えない。だが、その眼差しの奥に潜むものに、将尊は心臓を鷲掴みにされたような激しい恐怖を覚えた。

「さぁ、お願いだから、彼らに退いてエレベーターに私達を乗せるように命令してね」

 先ほどの態度が嘘のように、可愛らしい声で訴えてくる少女。だが、その手に持ったナイフは将尊に突きつけられたままだった。

「グヒィッ、テ、テメエら、そこを早くどけッ、鉄格子も早くあけるんだよぅ」

 悲鳴混じりに将尊が命じた。その命令にどう対処して良いのか困り果てた男たちの背後で、ガラガラと鉄格子が音を立てて横にスライドしはじめる。

「さぁ、貴方たちも脇に退きなさいッ」
 
 その機会を逃さずに毅然とした態度で踏み出してくる瑠華。それに気圧されて、男たちが怯えたように道を開けていく。
 左右に分かれた男たちの先、瑠華たちの目の前には、ゆっくりと扉を開けていく地上へのエレベーターがあった。





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