昏い欲望 −ある女生物教師の願望− (2/4)

 そうして追いかけてはみたものの、残念ながら校舎から出たころで見失っていた。
 周囲には体育館とプールがあるだけで、その後ろは高い壁と木々に囲まれているから敷地の外に出たとは考えにくい。他の建物へと移動するにしても、途中は見晴らしがよいから私が気付かないはずもなかった。
 ならばと手始めに体育館を調べてみたのだけど、全ての扉に鍵がしまっていて中には入れそうにない。隣接するプールも同様で、金網から中を覗いても人の姿は見えなかった。
 そうして今度は体育館の裏手にまわった私だけど、そこで古びたコンクリート製の倉庫があるを発見する。

「へぇ、こんなところに倉庫なんてあったんだ」

 校舎からはちょうど体育館の影に隠れていて見えない位置にあったし、それに加えてひび割れた表面に絡んだ蔦が、まるでカモフラージュのような役割を果たして、遠目にはまわりの木々に同化してみえた。

「嫌だなぁ……」

 入り口の鉄扉は赤錆が浮いてて、小さいけど遊園地にあるホラー館のようで不気味だった。その雰囲気に腰が引けてしまう私だったけど、周囲には他に隠れられそうな場所は無さそうだった。

「はぁ……しょうがないか……」

 恐る恐ると近づいてみるとスライド式の鉄扉には鍵がかかっていないようで、意を決してノブ掴むと、そのまま一気に押し開けた。

――ガラガラガラ……

 見た目に反して扉は呆気ないほどスムーズに開いた。だけど電球は切れているらしくスイッチをいじっても反応はしない。
 しょうがなくスマートフォンのライトで中を照らしてみるけど、跳び箱や積み上げられた箱やらで奥までみえそうになかった。

「やっぱり、入らないとダメかな……」

 埃でお気に入りの服が汚れてしまうのに躊躇してしまう。なかなか一歩を踏み出せずにいた私だけど、奥から苦しげな呻き声が聞こえるのに気がついた。

(誰か人が苦しんでいる?)

 そう思った時には身体が動いていた。積み上げられた箱の隙間を無理矢理抜けて奥へと入っていく。埃で服や髪が汚れるけど、もう気にならなかった。
 実際には物が積み上がっていたのは入り口の前だけで、その奥は予想外に整頓されていて広かった。ぽっかりと空間があいた中央の床には運動用のマットがひかれていて、その上にうずくまる人影を発見する。

「だ、大丈夫…………て、えぇッ」

 薄暗闇の中、人影に急いで駆け寄った私だけど、助け起こそうとしてその姿に気がつくと思わず固まってしまう。

――そこには四つん這いの姿に拘束された黒づくめの女性がいた……

 黒いゴム製のボディスーツに全身を包まれた女性は、手足を折り畳まれた状態でそれぞれをすっぽりと革製の袋で覆われていた。
 ちょうど肘と膝の位置にゴムパットがあって、それで立つような姿勢をしているので、まるで四つ足歩行動物のようにも見える。
 その印象をより強めているのが首に巻かれた大型犬用の赤い首輪で、そこから伸びたリードが壁際の鉄柱に括りつけられていて、おまけに張りのあるお尻の谷間からは、馬のようなフサフサの尻尾まで生えていた。
 ゴムで覆われた身体には、格子状に絡みついたベルトが激しく食い込んでいるのだけど、それがウェストは限界まで細く、大きめのバストは根元から絞り出すようにギリギリと締め上げていた。
 そうして肉体を激しく変形させた黒づくめの女性だけど股間だけがメタリックな器具で覆われていて、それが貞操帯であるのをおぼろげながら私はネットの知識で知っていた。
 唯一、首から上はボディスーツから露出していたのだけど、そこにはアイマスクと口枷が一体になったヘッドギアを被せられていて、口の位置にあるリング状のパーツにはゴム栓が押し込まれていた。
 それらがいわゆるボンデージ衣装というモノだとは理解できた。だけど、ヘッドギアの隙間から垣間見える髪型と顔立ちには見覚えがあった。それが探していた同僚の颯乃 翼であると、すぐに気付いてしまう。

「……ウソッ、なんで? どうして?」

 あまりの事態に混乱して、間の抜けた言葉しか出てこない。だけど、いくら声をかけても目の前の彼女からの反応はなく、口枷の下で苦しげに呻くだけだった。
 時々、切なげに腰を振るような仕草をみせるので、ようやく貞操帯に覆われた彼女の下半身から微かにモーター音がするのに気が付いた。
 その音はウォンウォンっと次第に激しさを増していくと、彼女の呻き声も激しくなっていく。
 それに対して、どうしたらいいかわからずに、私はただオロオロするしかできなかった。

「――おぅッ、おぉぉン」

 突然、彼女が俯いていた顔をあげたかと思うと、大きく背を反らしてガクガクと全身を痙攣させた。そして股間からプッシャッっと激しく透明な液体を吹いてみせた。
 その光景に頭が追い付かず、私はただ呆然と見ていた。

「……え……ウソッ……まさか……いま……イッたの?」

 大勢の男子生徒を相手にして常に毅然としている普段の彼女。その姿と今の光景が結び付かない。正確には私は信じたくなかったのかもしれない。
 憧れの存在で、崇拝していたといっても過言ではなかった。その幻想が無惨にも打ち砕かれた気分だった。

――ガタッ

 放心して座り込んでいた私だけど、物音がすると反射的に目を向けていた。
 積み上げられた物の隙間から外へと逃げようとする人影が見える。その途端、沸き上がる怒りにかられた私の身体は自然と動いていた。
 入り口の方へと駆けだすと目の前のボールが入った鉄かごに足をかける。勢いでそのまま身体を浮かせて、その後ろにある入り口の前を塞いでいた跳び箱を飛び越えた。
 彼女に近づきたくて始めたトレーニングだったけど、その成果で身体は驚くほど軽やかに動いた。
 一気に入り口までショートカットをした目の前には、まさに外へと出ようとしている人影があった。迷わず上から飛びかかると、私は地面へと押し倒していた。

「捕まえたッ」

 馬乗りになって取り押さえた相手は、目出し帽で素顔を隠していた。見るからに不審者に湧き上がる怒りをこめて握っていた箒を振りかぶる。

(……あれ?)

 だけど、そこで下肢から感じる相手の感触に違和感を感じた。相手が思ってた以上に華奢で、目出し帽から見える部分もよく見れば幼さを感じる。

「もしかして……子供?」

 覆面をした不審者がどうやら若い少年、ちょうど学園の生徒たちと同じ年頃だとわかると、そのことが教師としての私を呼び戻して頭を冷やしていった。

(生徒の誰か? これってイタズラなの?)

 冷静に考えればそんな事はないのだけど、それが出来ない時点で私はまだ動揺してたのだと思う。
 今の状況に戸惑いながら、とりあえず振り上げた箒は下ろすと、ひとまず相手にこれ以上逃げようとする様子がないことから、立ち上がって相手から事情を聞くことにした。

――その判断は失敗だった……

 倒れたままの少年を引き起こそうと手を伸ばした矢先、突然、足元が大きな影に覆われる。

「――え?」

 それが頭上からの影だと気付いた時には遅かった。後頭部に衝撃を受けるとズッシリと重い物が覆い被さってきて、それに耐えきれずに膝をついてしまう。

「痛ぁ……これって……」

 覆いかぶさってきたのは運動会の障害物競争などで使われる網だった。頑丈な縄で編まれている為に結構な重さで、運動会の準備では数人がかりで運んでいたモノだった。
 もちろん小柄な私が払いのけられるはずもなく、地面との隙間から這い出るしかない。
 だけど、その時には捕まえていた少年はすでに先に抜け出していて、網の向こうで立っていた。
 周囲を見渡せばどこに隠れていたのかゾロゾロと同じく覆面をした少年たちが姿を現してくる。
 その数は十二人で、そのうちの何人かが倉庫の上から網を落としたのだと、ようやく理解したのだけど、同時にバチバチと火花を散らすスタンガンを前にして自分の置かれた状況が良くないこともわかった。

(追っているつもりが、誘き寄せられていた?)

 その事実にショックが隠せない。網の中で茫然としている私を彼らは不思議そうに見てきた。どうやら普段と違う容姿なので、いつもみている生物の教師であると気が付かないみたいだった。
 なにやらもめている様子だったけど、私を見て好色そうな嫌な笑みを全員で浮かべると容赦なくスタンガンを押し付けてきた。

「あぁ、や、やめ……」

 重い網で動きを封じられていた私に、それを避けることはできない。痺れて動けなくなった私は網の下から引きずりだされて、すぐに衣服を脱がされてしまう。
 終始無言で脱がしていく彼らだったけど、身に付けていた黒いガーダーストッキング姿をみるとなぜか鼻息が荒くなった。

(この下着は、前の彼が大好きで身につけるようになったんだった……)

 彼らの反応から、つい以前の恋人を思い出してしまう。だけど感傷に浸っている暇なんてなかった。
 下着姿にされた私の両腕は背後にまわされて手首に金属の手錠が、続いて両足首には短い鎖で繋がった足枷がはめていく。

「くぅ……い、いい加減に――うぅ、むぐぅぅ」

 怒ろうとした口に、いきなり丸められた雑巾が押しまれた。嫌がる私の頭を数人で押さえつけて、そのままグイグイと無理矢理押し込んでくる。それに激しくえづいて涙してしまう私の頭に、彼らは埃臭い麻袋をスッポリとかぶせると、どこかへと引き連れていく。
 視界が塞がれた状態で、左右から両腕を捕まれて歩かされた。20センチほどの鎖で繋がれた足枷のせいで歩けるけど走るの無理そう、もちろん彼らを蹴って逃げることなんてもっとできない。
 それにまだスタンガンの影響で痺れが残っていて力も入らない状態なので、気を抜くとガクリッと膝が崩れそうだった。

(どこへ連れていこうというの?)

 狭い扉らしきところ抜けてを、短い階段を登り降りさせられる。そして、固い床に上を少し歩いたかと思うと急に向きを変えさせられた。
 捕まれていた両手が放されて、ひとり立たされる。頭にかぶせられた麻袋で見えないけど、肌に夜風を感じるから屋外のようだし、目の前でなにやらゴソゴソと動いているのは気配でわかる。
 だけど、突然、麻袋が取り除かれた目の前に、金網のフェンスをバックに全裸の少年たちが並んで立っている光景には驚きを隠せなかった。
 全員が覆面で素顔を隠している一方で、その下が素っ裸だというのがシュールであったけど、全員が股間を激しく勃起させていては笑っているどころではなかった。

(なによソレ……)

 幼さの残る体つきの癖に、その股間で勃っているものはアンバランスなほど大きく逞しかった。
 臍までそそり勃った肉棒は、今までみたどれよりも綺麗なピンク色をしていた。大きく傘開いた先端から溢れでるカウパー氏腺液が、血管を浮き立たせた表面をヌラヌラと濡れ光らせていて、時折、待ちきれないとばかりにビクンビクンっと反り返ってみせる。
 それに、これから犯されるのだという事実に、ゴクリと喉をならしてしまう。心臓の鼓動が速まり、息が乱れてしまい、動揺する心が湧きあがる感情に呑まれてしまいそうだった。

(だ、だめよッ、呑まれてはダメ、最後まで抗わないとダメよッ)

 必死に訴える理性の声にハッと正気に戻った。聖職者である教師として、理性ある大人の女性として、せめて最後までそうあろうと身構える。
 だけど、その時になって私は背後から聞こえる水音と鼻腔に感じる強い塩素の臭いにようやく気がついた。
 慌てて振り向いた目の前には、水が満たされたプールがあった。