禁忌の扉

第2話 −更正執行官−

 頭部を覆っていた布袋が取られると、そこは奇妙な部屋だった。
 十メートル四方の空間全体が薄緑色で統一され、床はビニール素材で覆われている。天井は高く、二階層分はあるだろう。上層には大ガラスが埋め込まれて、そこから部屋を見下ろすようになっていた。

(まるで、国立中央病院の手術室のようだな)

 爆破テロに巻き込まれて亡くなった家族の光景が脳裏に浮かぶ。家族旅行に向かうためにいた空港ロビーで巻き込まれた私は、その時に両親と姉を失った。
 その時と同じ機器が並ぶ部屋の中央には人が横たわれる台が設置されている。だが、その形状は『大』の字をしており、手足を広げた人の形に窪んだ各所には固定用のゴムベルトを備えていた。

(どういうことだ、尋問ではないのか?)

 予想とは異なる部屋の様相に、内心で戸惑いを覚えていた。
 そんな私を他所に兵士たちは私は手足の拘束を解くと、その台へとのせあげて固定していくのだった。

「ぐぅ、うぅッ」

 抗おうとしても屈強な兵士たちが相手では分が悪い。次々と備え付けのベルトで固定されていく。

(うぐぅッ……絞めすぎよッ、くそッ、口枷は噛まされたままじゃ、文句も言えやしない)

 半透明のボディスーツの上から幾重も巻きついたゴムベルトによって、肉体はギュウギュウに締めつけられ、乳房を上下から締め上げるように上体が固定された。おかげで呼吸するのもキツい状態になってしまう。

(は、肌が信じられないぐらい敏感になっている……ベルトが身体に食い込むだけでも感じてしまうなんて……)

 絶頂を得られずにもどかしく感じていた状態が続いている。それでも徐々にだが、思考がまわるようなっていた。

(催淫効果のあるガスを使用されたのか……だから部屋を移動したことで効果が薄まったのね)

 そうやって状況を分析したものの、今の状況では出来ることはそうなかった。

(事前の情報通りなら尋問を受けるはずだけど、このまま調査を進めるなら正体をあかせないわね)

 潜入捜査の秘匿性のために施設で私の素性を知るのは副所長だけだった。他の兵士にとっては、私は麻薬組織の一員でしかなく、尋問にも手心を加えられることはない。

(相手は手段を選ばない特務機関の尋問官……どんな手を使ってくるか)

 潜入捜査官として、尋問に対する訓練はひととおり受けていた。苦痛による拷問や自白剤にもある程度は耐える自信はあった。
 そうして緊張を高めるものの、尋問が始まる気配はいっこうになかった。連行してきた兵士も、入り口の前で左右に並ぶと直立不動の姿勢を取っているのが横目で見える。緊張した表情で微動だにしない彼らだが、いっこうに扉が開く気配はなかった。
 そうして、そのまま何事もなく時間だけが経過していった。



 結局のところ扉は開いたのは、部屋に連れ込まれてから一時間以上も経過してからだった。
 姿を現したのは士官服を着た女だ。ワゴンを押す副官らしき少女を従えて、軍用ブーツを響かせて室内に入ってくる。その途端、扉の前でずっと待機していた兵士たちの緊張が高まるのが感じられた。
 だが、タイミングが悪いことに、女が現れた時に兵士のひとりが欠伸をもらしていた。歩きざまに女の手が一閃すると、乗馬鞭がその兵の鼻へと打ち付けられる。

「ぐぅ……あ、ありがとうございますッ」

 痛烈な一撃に厳つい顔の兵士がダラダラと鼻血を流す。だが、直立不動の姿勢を崩さず、ただ感謝の言葉を述べて、再び彫像と化すのだった。
 女もその兵士を一瞥することもなく、そのまま私の脇へと立った。
 大尉の階級章を身につけた三十前の官能的なボディの持ち主だ。軍服の上からもわかる豊かな膨らみのバストに、タイトスカートを張り裂けんばかりのヒップには女でも圧倒される。
 カールしたブロンド髪に、艶やかで肉厚のリップ、口元にある黒子のどれもが男たちを唆らせる要素だろう。街中であれば男が振り向かずにはいられない、全身からフェロモンを漂わせるような女だった。
 だが、深々と被った軍帽の影から見える眼差しがそれらを霧散させている。見る者を石像に変えるメデューサの如く凍てつく眼差しに、私でも息苦しさを感じるほどだった。
 女は自らを更正執行官と名乗った。収容者に更正プログラムを施すという役職といったところなのだろうが、その虫けらでも見るような冷たい眼差しに疑問しか抱けない。
 大尉の細くしなやかな指が私の身体に触れると、その表面に這わせていく。

「ふふ、お楽しみのところ邪魔したようね」

 いまだに欲情し続ける身体は、乳首を硬く尖らせ股間から愛液を滴らせていた。
 半透明のボディスーツでは、その状態が嫌でも視認できてしまう。同性に侮蔑の視線を向けられるのは異性相手より辛いものだった。
 普通の女なら羞恥で目を逸らすところだが、長らく麻薬組織に潜入していた習慣で睨み返してしまう。

「ふッ、気が強そうな女で今回も楽しめそうで嬉しいわ。そういう奴が餌欲しさに尻尾をふる姿は楽しいからね」

 睨み返す私に対して大尉はニタリと笑う。その笑みが活きのよい獲物を前にした、嗜虐者特有のものであるのを私はよく知っていた。
 私が組織でついていた幹部が、生粋のサディストで、同じ笑みを浮かべるのを見てきたのだ。
 こういう手合いは目的より手段に楽しみを見出だすタイプが多い。特に女だと粘着質な部分も加わるから厄介だった。

(だが、殺されないだけ、まだ組織に潜入してたときよりマシかもしれないな)

 裏社会の組織は裏切り者を赦さない。正体がバレたために拷問の末に凄惨な最後をむかえた者たちを何人も見てきた。その恐怖に比べれば、まだ心に余裕が持てた。

「ふーん、尋問や拷問に耐える自信がありって感じね」

 私の表情からそれがわかるのだろう。笑みを深めると大尉は連れてきた部下へと合図を送る。
 いつの間にか、広げらえた足のその兵士はいた。まだ二十歳前だろうか、曹長の階級章をつけ、まだ幼さが残る西洋人形のように整った顔立ちの女兵士だ。
 その脇には押してきたワゴンが見える。様々な薬物の瓶や見慣れない器具が並んでおり、そこから手術用の薄いゴム手袋を取るとゆっくりと装着していく。

(なにをする気だ?)

 両手にゴム手袋した曹長は、貞操帯に触れてくるの戸惑いを覚える。

(……くぅ、やめろ)
 慣れた手つきで貞操帯を解錠すると分解したパーツを下半身から引き剥がしていく。すると途端にムワァとする甘酸っぱい牝の香りが室内に充満した。
 股間にあるスーツのファスナーの隙間から、プックリと充血した秘唇が外気を受けるのがわかる。その隙間から大量の愛液が溢れだし、台を濡らしていく。

「うふ、凛々しい顔してても、欲情すればただの牝よねぇ。クリ×リスもこんなに膨らませちゃって……ふふ、さぞかし疼いて辛いでしょう?」
「――ぐぅッ」

 露出した股間を覗き込んで大尉が嘲笑すると、小指の先ほどにまで勃起していたクリ×リスを指で弾いた。その刺激が脳を貫くような快感が走り、耐えきれずに呻き声をあげてしまう。
 下半身がビクビクッと震え、鼻先から甘い音色が漏れていた。

「うぅん、いい反応ね」

 曹長が淡々と指先で秘裂を押し広げて内部まで丹念に確認する一方で、大尉は説明をはじめた。

「この施設では収容者に食事、水分、空気にいたるまであらゆる手段で媚薬成分を含んだものを摂取させているの。微量だから最初は気付かないし、効果がでるまでは時間がかかるけど、体内には着実に蓄積されていくわ。そうして身体の隅々まで染み渡ると、もうこうやって発情しっぱなしになるってわけね。女が収容されると強面の男たちが十代のガキみたいに盛ってる姿は笑えるわよね」
「うぅン……うぅ……くぅぅ……」

 媚薬で狂わされた肉体は、どんなに嫌がろうとも反応してしまう。同性に秘部をまさぐられて、溢れだす愛液がどんどん増えていくのがわかってしまう。

「貴女も腕っぷしに自信があって、苦痛にも耐性があるようね。ここではそういう連中を手懐けるのに、欲情させてるってワケ……ふふ、これなんだかわかる?」

 大尉が手にしていたのはピンク色の物体が詰まった瓶だった。曹長が手袋を装着した指先で中身を掬ってみせると、薄ピンク色したクリームが見える。

(まさか、それは……)

 それがなんなのか私は知っていた。麻薬組織が従順な女売人を作るために開発した催淫薬だ。
 常習性の高い麻薬成分を含み、敬遠なシスターすらも淫らな娼婦へと堕とす魔の薬との触れ込みだった。
 実際にその効果は強力で、粘液に塗られた女は男の上で十二時間にわたり腰を振り続けることになる。
 以前に、組織が見せしめのために軍関係者部を拉致して拷問にかけたことがある。
 その時に捕らえた女軍人にこれが使われたが、あまりにも強力すぎる効果のために連続で使用されて精神に異常をきたしてしまった。若く美しく軍の広告塔としてマスコミにも取り上げられる女兵士であったが、最後は色狂いにされて場末の売春宿で変態相手の奴隷娼婦として死ぬまで飼われ続けたはずだった。
 使われた女が次々と廃人となると、流石に組織も拷問用として使用を制限して厳格に管理するようになった。だが、ある時に一部が市場に横流しされているのが発覚し、幹部会で慌てて止めたほどの危険な品であった。

(まさか、それを私に……や、やめろッ)

 口枷によって言葉を封じられているために、必死に首を左右に振って止めるように訴える。

「流石に幹部の腹心だっただけあるわね、これが何かがわかるようね。貴女のように淡白なふりをしてるタイプほどタガがはずれた時の反動が大きくって面白いわよぉ。この前の女も随分と粘ってくれたけど、今では男たちの性欲処理係を喜んでやってるわ」
「むぅッ、むぐぅーッ」

 私の訴えは無情にも聞き流され、たっぷりと指先についたクリームが膣壁へと塗られていく。ひんやりとした感触が、すぐに燃えるような熱へと変わり、それはゆっくりと全身へと広がっていく。

「うッ……うぅ……」

 熱病にかかったように火照った皮膚から汗の珠が次々と吹き出す。同時に肌を伝う汗の感覚だけでもゾクゾクとするほど、感覚が敏感になっていく。
 だが、曹長の指はそれで止まらなかった。新たなクリームを掬っては次々と塗り足していくのだった。

「むぅーッ、むぐぅーッ」
「あはは、貴女たちの組織が作り出したものだからね、遠慮せずにたっぷり喰らいなさいね。曹長も姉をこれで廃人にされているから、容赦しないわよ」

 私が苦しめば苦しむほどに大尉の笑みは深くなる。膣壁はおろか秘唇や襞の裏側にいたるまで塗りつけると、さらに包皮から剥き出した肉芽にも塗り込んでいった。

「うぐぅーッ」
「うふふッ、もぅ身体の震えが止まらなくなってきたわね……でも、まだよ。これから前だけじゃ足らなくなるから、こっちも使わないとね」

 狂喜で眼を輝かせる大尉の指示によって、曹長がクリームを菊門にも塗っていく。
仕上げとして曹長は肉芽にもクリーニングを塗りつけて、その根元をゴムリングで締め上げた。

「――んんッ」
「さてと、この前の女は三日も耐えてみせたけど、貴様はどれくらい耐えてくれるかしらね」

 曹長によって貞操帯が再び装着された。たが、内側には新たに突起物が追加されていた。
 芋虫のように節だった細い長い突起が、クリームで濡れ光る菊門に押しあてられる。突起自体にもクリームが塗られている為に、大した抵抗もなくヌルリと侵入を果たす。
 続いて秘唇に分け入ってくるのは、大小の球体が組合わさった複雑な形状をしたものだ。まるで銀色のサボテンのようなそれは、磁力で連なっているのだろうか、複数の球体が複雑に変形を繰り返していた。
 それが徐々に膣内へと沈んでいくと、内部構造に合わせて動きを変えていく。まるで蛇のようにとぐろを巻いたかと思えば、水面を泳ぐ蛇のように身をうねらせてみせる。
 そして、最後に肉芽に押しあてられるのは、三つの爪だ。ゴムリングによって包皮から剥きだされた肉芽を三方から掴むと、振動を与えながら、時には捻りあげ、時には優しく撫であげるように刺激を与えていく。

(――ひぃッ、なにこれッ)

 強力な催淫クリームの効果によって狂わされつつある肉体は、器具が挿入されただけでも軽く逝ってしまう。だが、昂りはおさまるどころか激しさを増していく一方だ。もっと刺激を求めて自然と腰が動いてしまうのを止められない。

「ふぐぅ、うぐぅぅッ」
「どう、気に入った? ウチの暇人たちが開発した特注品よ。使われているモーターもセンサーも市販にはないような高級品だから期待してもいいわよ」

急所である三点を責められて身体はすぐに燃え上がっていた。特に膣洞で蠢く器具は、まるで私の刺激のツボを探るように、複雑に形状を変えて刺激を与えてくる。
すでに大尉の言葉を聞いてる余裕もなかった。押し寄せてくる官能の波に呑まれていき、肉悦の沼へとズブズブと沈められていく。

(あぁン、凄い、凄いわぁ)

 任務のためとはいえ、様々な男たちと寝てきた。その中には女を堕とすに長けた男や、変態趣味でマゾの魔悦を覚え込す男もいた。だが、そんな彼らからでも得られなかった刺激の奔流を受けていた。
理性ではどうにもならない官能の奔流。その波は高まり続けて、問答無用で絶頂へと押し上げていく。それに抗うこともできず、ウットリと瞼を閉じてその波に身を任せてしまっていた。

(あぁ……くるッ、来ちゃいぅ)
 頂上は目前だった。だが、手が届く寸前で、フッと霧のように霧散してしまう。
 付き出した指の間からスルリ抜け落ちていくのを必死に掴もうとする。だが、無情にそれは抜け落ちていった。

(あッ、あぁぁ……な、なんでッ)

 ももどかしさに瞼を開いた私の視界に、嘲笑を浮かべる大尉の顔があった。

「効率的に躾るには、まずは美味しそうな餌を有効に使わないとね」

 絶頂への波がおさまってくると再び貞操帯に追加された器具の刺激が再開される。だが、それは前回と同様に決して絶頂を与えてはくれないのだった。

「さて、今はここまでね。しばらく時間をあげるから、次になにを言うか考えておいて……あぁ、集中できるように目隠ししてあげるわね」

 残忍な笑みを浮かべながらアイマスクで視界を塞いでいった。その後、大尉は部下たちを引き連れて退室していったようだ。
 周囲に気配を感じない中、拘束台に大の字に固定された私は、ひとり闇の中に残された。

(あぁ、こうやって焦らし続けるつもりか……うぅ、こんな手でくるなんて……)

苦痛なら耐える自信があった。苦痛に対する防衛反応を利用して心と肉体を切り離せばよいだけだった。
 だが、性刺激に対してはそれが使えない。肉体が求めて自ら受け入れてしまうからだった。
 それでも必死に思考を巡らせて対策を考えようとする。だが、再び貞操帯の突起が動作するとそれを考える余裕もなくなってしまうのだった。



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