禁忌の扉

第1話 −極秘収容施設−

 闇夜の中、軍の大型ヘリが飛行していた。それもレーダーに映るのを警戒して、海面を這うような超低空の隠密飛行だった。
 機体は黒く塗りつぶされ、国籍どころか機体を認識する番号すら描かれていない。ランプ類も全て消され、パイロットは暗視装置を使用して操縦する徹底さだ。
 警察の特捜部に所属する捜査員である私は、そんな機体に搭乗していた。
 海面すれすれを飛行していた機体だが、急に上昇すると旋回を開始する。

(あれが、そうなのね……)

 眼下には荒れた海から錐のように突き出た巨大な岩塊が並んでいるのが見える。その中央でひときわ巨大なものが今回の目的地だった。
 このあたりは海難事故が多発する魔の海域で、地元の漁師たちから『海坊主』と恐れられていた場所だ。だが、表からはわからないが、厚い岩盤をくり貫いた内部には極秘の軍事施設があった。
 その施設の目的は、政府が撲滅を目指す麻薬組織に関係する犯罪者たちを収容することだ。
 我が国を根城にしている麻薬組織との関係は根深い。政治・経済にはじまり、軍警察や司法にまで腐敗は広がり、彼らの強い影響下にあったのだ。
 麻薬組織によって国内で製造された麻薬は国外に持ち出され、大国を中心にばら蒔かれる。近年、それに対する諸外国からの圧力は強まる一方だった。
 そんな中、その麻薬組織との関係を断ち切り、撲滅を宣言する現在の大統領が就任したのが三年前だった。
 その目的のために彼は麻薬組織の影響を受けない大統領直属の特務機関を創立すると、国内の腐敗を次々を刈り取っていた。
 この施設もそうした活動の一環として極秘裏に建設されたものだ。だが、特務機関と同様に公には知らされず、書類上は存在しない施設であった。

(そのため、内部に関する詳しい資料もなかったわけだけど……)

 ここでは収監された犯罪者たちから麻薬組織に関する情報を引き出す重要な役割を担う一方で、更正するための施設も備わっているらしい。
 ヘリを迎い入れるために、岩肌の一部が開きはじめる。

(岩影のせいで、まるで化物が口のようね)

 徐々に迫る奇顔岩を前に、言い様のない不安を感じてしまう。そんな私を乗せたヘリは、ゆっくりと深い闇穴へと入っていくのだった。



「今度は軍の収容施設への潜入ですか?」

 長期に渡る麻薬組織への潜入任務を終えた私は、報告のために久々に上司のいる特殊捜査部のオフィスを訪れた。部長室へと通された私に彼女は新たな指令を伝えると、同室していた軍服姿の男を紹介した。
 収容施設で副所長を務めている人物らしく、軍人というより科学者という方が似合いそうなインテリ風の男だった。
 腕章から噂の特務機関の関係者だと推測すると自然と警戒を強めていた。
 麻薬組織の撲滅という名目で、超法規的な権力を与えられた連中だ。大統領の敵として認識した対象を闇に葬るためなら、どんな強引な手段でもとると聞いている。
 目の前の男も人当たりの良さそうな笑顔を浮かべているものの、私を見つめる瞳に冷たいものを感じた。
 その彼が説明するには、長らく不明だったボスの手掛かりを知る人物が収容者の中にいるらしいとのことだ。その為、捜査として組織の一員として長らく潜伏していた私に白羽の矢が立ったわけだ。主だった構成メンバーに私は面識がある。その人脈と知識を調査に使いたいということだ。

「貴女の功績によって何人もの幹部やスパイを捕らえることができました。組織にとっては痛手で、ここでさらにボスを押さえれば組織を完全に壊滅できます」

 そのためにボスの正体を掴む重要性を説かれるが、そんなことは十分にわかっていた。可能ならば組織内での信用をさらに高めてボスに近づきたかった私だが、情報をリークし続けたことでこちらの正体がバレる危険性も高まっていた。
 ちょうど、軍による殲滅作戦が開始された頃、腕利きの潜入捜査員たちが次々と消息を絶つ事態が発生していた。身の危険を感じた私は、苦渋の判断で撤退を決断したのだった。可能ならば引き続き、ボスの正体を探りたいとは思っていた。

「貴女の情報に基づき、幹部たちが次々と拿捕されて収容されています。それに紛れて貴女も再び組織の一員に扮して潜入していただきたいのです」

 潜入捜査員であるのが、まだ組織メンバーに知られていないのを利用するつもりらしい。確かに収容者の中に知った顔があれば、情報収集の難易度も格段に下がるだろう。
 だが、潜入するのなら情報の漏洩だけは避けなければならない。特に先の任務では同時期に潜入していた捜査員たちの正体がバレていた可能性があり、特捜内部にスパイが潜り込んでいる可能性を否定できない。
 収容所側に関しても買収された看守がいないとも限らず、協議の結果、部長と副所長が直接サポートする形で、最低限の人数で事を進めることとなった。

(可能ならば信頼できるパートナーが看守側にいて欲しいところだけど……)

 長年、コンビを組んでいた捜査員は、先の大量失踪時にいっしょに消息を絶っていた。

『私の推測通りなら、このまま潜入を続けるのは危険だわ。合流したら奴らの目を逃れてしばらく身を隠しましょう』

 なにか情報を掴んだ先輩はそう連絡をくれていた。だが、合流地点に彼女は現れず代わりに謎の襲撃者が待っていた。幸いなんとか逃げ切った私だが、先輩の消息はいまだに掴めていない。
 公私ともに付き合いがあり、姉のように慕っていた彼女だから、絶対に諦めるつもりはなかった。

「私も施設には定期的に訪れてバックアップするわね」

 そんな私の心情を汲み取ったのだろう。部長は優しい笑みを浮かべてそう告げる。
 彼女もまた先輩とは私以上の付き合いであった。かつてその美貌で数々の悪党どもを手玉に取った凄腕の元捜査官にして、先輩の師にあたる人なのだ。私以上に長い付き合いになる。
 それに加えて特捜部を指揮する彼女は、先輩以外にも多くの部下を失っている。その心中に秘めた哀しみは計り知れない。
 それ故に今の彼女が私を心配してくれているのが痛いほどわかる。その配慮に礼を述べるとともに、私は今回の任務に対して改めて気を引き締めたのだった。



「そろそろ到着ですよ」

 ヘリの貨物室に同席していた副所長が、アイマスクを手にして近づいてくる。
 本来なら収容者には施設の場所を知られないように目隠しをする規定なのだ。今回は周囲に他の者がいないこともあり、特別扱いしてもらっていた。これからは他の人間の目がはいるので、特別扱いもここまでということだ。

「ここからは他の収容者と同様に扱わせてもらいますね」

 例の表面だけの笑みを浮かべながら告げると、副所長は私の視界を封じた。今の私は護送用の服装としてオレンジ色のツナギを着せられ、両手両足を鎖で繋ぐ枷を填められていた。歩くのに最低限の長さしかない鎖が、身動ぎするとジャラリと不快な金属音をたてる。それが私に、収容される犯罪者という立場なのだと嫌でも自覚させる。
 ゆっくりと降下していたヘリが着陸すると、後部ハッチが開いていく音がする。するとドカドカと軍用ブーツの足音が荒々しく響き、急に両脇から腕を掴まれる。

「こっちだ、歩けッ」

 視界見えぬまま、まるで荷物にように荒々しく引き摺られていく。
 そのまま周囲の光景を見せぬまま施設内に連れていかれると、メディカルチェックがはじまった。
 武装した屈強な兵士たちが見守る中、拘束を解かれたかと思うと、有無を言わさず全裸にさせられる。そのまま全身に消毒液を吹き付けられ、医師による検査がはじまる。
 様々な機器で全身をスキャンされた後、血液などを採取された。その後に男性医療スタッフによって何か隠し持っていないか穴という穴をチェックされるという屈辱的な体験もさせられた。
 その間に少しでも反抗的な態度をとろうものなら、容赦なく高電圧のスタン警棒が押し付けられる。
 そうして隈無く全身を調べあげると、しばらくして新たな服が支給された。

「これが服……」

 手にしたのは服というには奇妙なモノだった。ゴムに似た収縮性のある素材でできたオレンジ色の半透明なボディスーツなのだ。
 しょうがなく首もとから脚を通して着込んでいく。すると首下から爪先までボディスーツに包まれる。
 先の検査のデータが使用されているのだろう。手足の指一本まで隙間なく包まれ、ピッチリと肌に吸い付く素材は細かなボディラインもクッキリと浮き出させる。まるで肌をオレンジの塗料で塗られたようで、半透明なので乳首の形や乳輪まで認識できてしまう。
 凶器となるものを隠し持たないように考慮された服装ということだが、周囲にいる男性兵士たちからの遠慮ない視線に曝され、流石に羞恥を感じてしまう。
 その上、首にはナンバーの刻まれた金属製のリングを装着されて勝手に脱げないようにされてしまった。
 そうして、最後に装着されるのは股間を覆う金属製の貞操帯だ。
 両手を頭の後ろに組まされると、股間を晒すように脚を大きく開いたポーズを強要される。排泄用に備えられているらしい股間のファスナーが、男性医療スタッフによって開かれていく。
 人前で再び秘部を曝されて触られる屈辱に、怒りと恥ずかしさで目眩がするほどだが、拳を握りしめてその感情を圧し殺すしかない。
 秘唇を押し広げるようにして、貞操帯が装着されると最後にカキンと金属音を響かせてロックされた。

(ここでは収容者には基本的な人権すら赦されていないのね)

 独房への移動中には、さらに拘束ベルトによって身体の自由も奪われる。幾重もの拘束ベルトがギリギリと身体に食い込み、卑猥に身体を変形させつつ後手に拘束する。

(ストレッチャーに立ったまま固定されて運ばれるなんて、まるで荷物になった気分だわ)

 いくつもの鉄格子を越えて施設の奥へと運ばれていく。そうして通路を抜けると、目の前に巨大な縦穴が現れた。
 十階建てのビルが入りそうな吹き抜けの空間だ。中央にはエレベーターを備えた監視塔がたち。周囲に並ぶ隔離スペースという名称の独房を監視している。
 螺旋状の通路に沿うように強化アクリル製の壁が並ぶ。その向こうが収容者の個室となっていた。

(監視塔から視界を遮るものはなし、トイレすらも丸見で、プライバシーは完全に無視ね)

 兵士たちにストレッチャーで運ばれるながら、収容者たちを観察する。施設には男ばかりが収容されているようで、私と同様のボディースーツを着ていた。違いといえば男性用の貞操帯を装着していることだろう。

(この貞操帯は暴行から守る意味もあるのかしらね)

 興奮して血走った目でこちらを見つめる男性収容者たちが多く、流石に女として危機感を覚えてしまう。だが、彼らもまた男性用の貞操帯を装着されているのだからそれは杞憂になりそうだった。



 拘束を解かれて個室に押し込まれてから一日が経過していた。
 取り調べは昼夜を問わず、不定期に行われているようだ。突然きた兵士によって深夜だろうと連れ出されていくのを見た。
 だが、それ以外の者には意外だが自由に行動する時間が与えられている。正午から夕食までの五時間は部屋のロックが解除されて、縦穴内なら他の部屋にいくのも自由なのだ。

(でも、早速、招かざる客がくるとはね)

 連行されてくる間、欲情した目を向けていた男たちがやってきた。顔に見覚えがないことから、組織では末端の構成員だった連中だろう。

(幹部の腹心にまでなっていた私の顔すら知らないのだから、ボスの情報など知るはずもないわね)

 暴力とセックスで脳の中まで染まりきったヤツらは、貞操帯でも欲求を抑制できないようだ。
 嗜虐心を満たそうと襲いかかってきたのだろうが、監視役の兵士が止める気配はない。どうやら、自由時間での多少のイザコザは黙認しているようで、自分の身は自分で守るしかないようだった。

「やれやれ、しょうがないわね」

 組織では女である私は幹部の情婦と見られることが多かった。だが、実際にはボディーガードとして、何度も危機を救ってきた。
 銃器やナイフをはじめ、格闘術にも精通している。チンピラ相手なら素手でも瞬殺できる。
 次々と泡を吹いて昏倒していく男たちに、ことのなり行きを傍観していた連中も唖然としていた。

(そういう反応している奴らは調査対象から排除してもよいわよね)

 ボスの正体を知る者がいるのなら、当然ながら組織にも精通して私のことも把握しているだろう。その推測のもとに私は調査を進めることにした。



 収容者は300人近くいた。それだけいれば、流石に見知った顔もあった。
 同じ幹部の配下であった者や協力者、当然、敵対していた幹部とその部下もいた。だが、彼らからボスに関する有益な情報は得ることはできなかった。
 その代わり、このエリア以外にも収容者がいるらしい事がわかる。
 どうやら有益な働きをした収容者には、一時的に厚待遇を受けれるらしい。詳しい内容に関しては誰もが言葉を濁したが、好色な笑みを浮かべる様子から、なんとなく予想できた。

(これだから、馬鹿な男どもは嫌いだわ)

 身に付けている半裸状態のボディスーツのせいもあるのだろうが、男たちの視線が気になってしょうがない。初日の乱闘騒ぎで私の強さを知って、流石に手を出してくる者はいないが、全員が興奮した目で身体を見つめてくるのだ。
 四六時中、視姦されているようなもので、気が休まらなかった。

(男どもの相手はごめんだけど、もっと情報を得るには他のエリアも調べる必要があるわね)

 私を取り調べする名目で、数日後には部長が来訪する手筈になっていた。それまでには、もう少し有益な成果をあげておきたかった。



(なにかが変だ……)

 体調の変化に気付いたのは、それから数日が経過してからだ。
 就寝の時間となり、ベッドに入り込んだものの、妙に落ち着かない気分になっていたのだ。

(身体が熱を帯びて、呼吸も乱れている……)

 体調不調を疑ったが、どうやら違うようだ。知らぬ間に火照った身体の感覚が異様に敏感になっている。乳首など痛いほど勃起しているのだ。

(これじゃ、まるで欲情しているみたいじゃないッ……くぅッ)

 身体を動かすだけで、被った毛布が擦れた感覚にゾクゾクと感じてしまうほどまで状態は悪化していた。

「はぁ、はぁ、いったい……うぅん、な、なんで……」

 悶々として無意識のうちに自らの乳房を触れていた。

「――あン」

 乳首に指が触れただけで、背筋を駆け昇る快感が走る。思わずあげそうになる喘ぎ声を堪えるも、指の動きは止められない。
 さらなる刺激を求めて乳首を指で摘まみ上げて、乳房を揉みあげてしまう。それは徐々に激しさを増していった。

「あッ、あぁン、凄い……」

 監視塔の目から隠れるように毛布にくるまり、背を向けると自慰に没頭していく。だが、股間に伸ばされた指は貞操帯に阻まれて秘部に触れることができないのだ。

「あぁ、そんな……くぅぅん、あともう少しで逝けるのにぃ」

 クイクイと腰を前後に振ろうとも、欲している刺激を得ることはできない。逝くに逝けないもどかしさに胸を焦がされた。
 先日に昏倒させて侮蔑の視線を向けた男たち。彼らと同様に、快楽のことしか頭に浮かばない状態に陥っていた。
 焦る気持ちの中、どうやったらより刺激を得られるか、そればかりを考えてしまう。
 だから扉が開けられて室内に人が入ってきても、その気配に気がつけなかったのだ。

「――な、なに?」

 突然、被っていた毛布を剥ぎ取られて、侵入者の存在にようやく気がついた。目の前にはニヤニヤと侮蔑の笑みを浮かべた兵士たちが立っていた。
 自慰をしている恥ずかしい姿を見られては、流石の私も羞恥のあまり情けない声をあげてしまっていた。

「いやぁぁ、見ないでぇぇ――うぐぅぅ」

 開いた口にゴム製の枷が押し込まれて噛まされる。すぐに両腕も捻りあげられて背後に組まされてしまう。別の兵士が用意していた拘束ベルトが巻き付き、ギリギリと締め上げられていった。
 そうした行為に慣れているのだろう、素早い連携作業で抵抗する暇もなかった。瞬く間に手足の自由を奪われてしまった。

「うぐぅぅッ」

 身を捩り、必死に逃れようとするが拘束が緩む気配はない。身動きできない私の身体を兵士たちは軽々と担ぎ上げる。そのまま頭部に黒い布袋を被せて視界を奪うと、何処かへと運び出していった。


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