Express Package Service   ―とある男の悪だくみ―

――セルフボンデージ

 そう呼ばれる嗜好があるらしい。
 僕には到底理解できないが、自分で自分を縛って楽しむものだという。

(どうせ縛るなら、美女の身体の方が楽しそうだけどな)

 そう思いながら解説書やネットで漁った情報を見ても、やっぱりSMの類いとしか理解できない。
 僕もたまに遊びで、手錠や目隠しを使ったプレイを楽しんでみたりするけど、それは一方的に優位な立場で女をもてあそべるからだ。
 抵抗できない女を一方的にいたぶるのならまだしも、自ら望んで不利な状態になること自体がナンセンスだ。

(……だが、これは使えそうだな)

 聡明な僕の頭脳は、目の前の画面に浮かぶ英語の説明書に目を通していきながら、あるアイデアを組み上げていく。
 画面に映し出されているのは、父の書斎にあるノートPCを漁っていた時に見つけた情報だ。
 外交官をしている父のノートPCは情報の宝庫で、通常は出回らない企業の情報とかで随分と株で稼がせてもらっている。
 今見ているこれも、どういう意味をもって父の元にあるかは知らない。一緒に添付されてる、ある事件の捜査資料にも興味はない。僕にとって有益かどうか、それだけが重要だった。
 そして、僕はこの運送会社が提供しているサービスの有効活用を思い付いていた。

――海外最大手の運送会社が一部顧客にのみ提供しているセルフ・セクシャル・サポート・サービス、通称4S。

 それが、僕が今見ている情報だ。
 セルフボンデージの「セルフ」が指し示すように、ひとりで楽しむ嗜好だ。自分で拘束して、その状態から自力で脱する。自ずとその拘束具合には限界がある。
 だが、困ったことに、この嗜好者たちには自分が危機的状況になるほど興奮する傾向がある。それが原因で拘束から抜け出せない事故も稀にあり、それを恐れて欲望に身を任せられないもどかしさを抱えているらしい。
 そんなニーズに応えたのが、このサービスで、契約者の設定した日時や場所に担当者が赴いて、対象者の拘束・搬送・管理まで行う。
 自宅での運用を望む場合には、梱包と開封だけの利用も可能で、オプションを追加することで、設定された内容の誘拐・監禁などのシチュエーションや調教プレイを執り行うサービスもある。
 プレイを盛り下げるのを避けるために、途中での停止は身体的損傷の発生など一部の場合のみ。悪用をさける為に、対象者による同意書へのサインが必須だ。

「ぷッ、この会社の連中は馬鹿ばっかだろッ、こんな便利なサービス、悪用するっきゃないだろッ」

 そこまで読めば充分だった。契約の細かい説明や注意事項を読み飛ばして情報登録を進めていく。

「もちろん使ってやるのは関貫 亜紗子(かんぬき あさこ)だッ、あの僕のプライドを傷つけた馬鹿女ぁッ。だが、その前に上司の鹿目 桃華(かしま ももか)だな。前からウザかったあの女が亜紗子に余計な入れ知恵をしたに決まっている。その代償に、いろいろ実験に付き合ってもらうからなッ」

 対象者として鹿目 桃華の情報を入力して登録が完了した。これで情報を元にサービス会社による調査が始まり、審査結果を待つだけだ。

「あとは同意書への記入を、桃華自身にさせれば良いだけだな」

 その方法もすでに考えてある。多忙なときの桃華は、差し出された書類をろくに見ずにサインをいれると先日、抱いてやった桃華の部下の女から聞き出していた。
 あとはタイミングを見計らって、その女に他の書類と一緒にサインをもらわせれば良いだけだ。

「しょうがない、もう少し抱いてやって手懐けておくか」

 スマートフォンで食事に誘うと、愛車のポルシェに乗って女の家へと向かった。
 そうやって、僕は徐々に計画の手筈を整えていった。





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