憧れの女 −忘れえぬ想い−

【1】 想い人との再会

 俺には叔母がいる。今は結婚して豊穣(ほうじょう)の姓を名乗っている竜子(りゅうこ)さんという人だ。
 叔母と言っても俺の父親とは随分と年が離れていて、俺とは六歳しか離れていない。
 彼女が結婚して海外に行くまではうちで同居もしていたから、幼い頃から一緒にいた姉のような存在だった。
 共働きだった両親の代わりに世話をしてくれたのも、悪さをすれば怒ってくれたのも彼女だった。

「悩んだり迷った時は、まずは一番やりたいことをやればいいのさッ、答えなんてもんは後からやってくるもんさッ」

 そう言って自ら行動で示してくれたのも竜子さんで、今ではそれが俺の基本的な考え方になっていた。
 そんな竜子さんが学校から帰宅すると不意に帰ってきていた。

「やぁッ、久しぶりッ」

 数年ぶりに見た彼女はリビングのソファでくつろぎ、帰宅した俺を笑顔で出迎えた。その時に知ったのだが、海外から帰国して今は東京に住んでいるらしい。
 キュッと上がった目尻に大きな瞳が、笑うと糸のように細められる。どこか猫ぽい彼女の笑顔に、つい俺も口元が綻んでしまう。

「な、なんだよ。相変わらず連絡もなしに不意に帰って来てよぉ。夫婦喧嘩でもして家を追い出されたのかよ」
「あ、あぁ……えーとー……」

 冗談まじりに言った俺の言葉が当たらずとも遠からずのようだ。彼女が急にばつが悪そうな表情を浮かべてみせる。
 どうやら本当に旦那さんと喧嘩したらしく、着の身着のままで家出してきたらしい。
 気が強く、無鉄砲なところがある彼女だ。それでいて腕っぷしも強く、俺も通っていた空手道場でも一番の強さだった。
 そんな彼女の旦那さんは正反対の人で、華奢で気弱そうな人物だった。さぞかし彼女に振り回されているのだろうと思うのだが、実は竜子さんの方がベタ惚れして押し掛け女房をしたのだ。
 そんなだから今回の原因も詳しく聞いてみると、旦那さんが半年ほど単身での海外出張するのが原因だった。

「それって旦那さんは全然悪くないじゃんッ」
「えー、だってさぁ……寂しいじゃん」
「くぁ、結局はノロケなのかよ」

 相変わらず夫婦円満なようで、頬を朱に染めながら嬉しそうに旦那さんのことを話す。それを俺は笑顔で聞きながらも内心では面白くなかった。
 結局、その夜のうちに旦那さんとは電話で和解できたようだ。出張が終えるまで、このままうちに居座ることで落ち着いたらしい。

「そういうことで、よろしくッ」
「まぁ、竜子さんがいるのは嬉しいけどよぉ、仕事とか大丈夫なのかよ」

 どうやら海外での生活を活かして翻訳の仕事をしているようだ。今の時代はネットさえ繋がれば場所は関係ないらしい。仕事で使うノートパソコンは肌身離さず持ってきているので、問題はないとのことだった。

(それにしても、また綺麗になったよなぁ)

 都会の女といった今の姿からは想像できないが、若い頃は特攻服に身を包みレディースにいた彼女なのだ。その数々の武勇伝は俺らの代でも語り草になっているほどだ。
 曲がったことが大嫌いな性格で腕っぷしが強く、それでいて美人。その真っ直ぐすぎる性格から敵が多かったが、味方がそれ以上に多い人だった。いまだに彼女のファンだという街の人も多くいる。
 その頃には長かった髪を今ではショートヘアにしていたが、竹を割ったような性格の彼女にはそれもよく似合っていた。
 スレンダーだった体つきも、ほどよく肉付きがよくなって、何気ない仕草にも人妻らしい大人の色気を感じてドキッとさせられてしまう。
 それなのに当人は昔のつもりで風呂あがりに下着姿で出歩くものだから、こちらを激しく慌てさせた。
 流石にそれには俺の父親も注意したらしく、すぐに自粛するようになった。だが、ホットパンツ姿で無防備に綺麗な素足を見せつけてくるものだから、それはそれで目に毒な日々を送ることには変わらなかった。

「そうかぁ、もうそういう年頃だもんね」

 俺の反応に、いまだに子供扱いして意地の悪い笑みを浮かべてくる。思わずムッとするのだが、アーモンド型の目でジッと見つめられると、怒るより先に照れてしまうのだ。

「あー、初々しくって可愛いなぁ、もうギュッとしちゃう」

 そうすると決まって背後から抱きついてくるのが子供の頃からの癖だ。ただその頃と違って、今の俺は背中に感じる柔らかな膨らみに、耳まで真っ赤にさせられてしまうのだった。

(くそぉ、やっぱり初恋の相手だと、何年たっても駄目なのかよ)

 いろいろな意味で俺にとって竜子さんは憧れの人だった。
 だからこそ、彼女が結婚すると知ったときは随分と落ち込んだものだ。その後、嫁ぐためにと海外に行ったときはもっと酷かった。
 喧嘩にあけ暮れる荒れた日々を過ごして、進学先は不良の多い工業高校に入る始末だ。流石に最近は落ち着いてきて、学校にも真面目に通うようになっていたが、彼女に対する想いは少しも変わらなかった。

(俺はもう子供じゃないんだぜ……)

 荒れていた間は仲間たちと随分と悪いことにも手を染めた。酒や女、ドラッグなどは一通りは経験したし、警察沙汰になるトラブルを何度も起こしていた。
 だが、教師に薦められたバイクレースにハマりだしてからは、その費用を捻出するためにバイトを掛け持ちする日々を過ごしていた。
 当然、少しでも割りのいいバイトを優先して入れているのだが、なかには人には言えない仕事もあった。
 そのひとつが、昔の仲間から紹介してもらうバイトだ。

「そういや、親父から伝言なんだが、例のバイトに欠員がでたからやらねぇか?」

 こんな具合に不定期だがバイトの誘いがくる。
 そいつの父親は県内で何店舗も風俗店を経営している人だった。成金で変態趣味のある狸親父なのだが、息子の友達である俺たちには良くしてくれていた。
 時折、こうして小遣い代わりに高額の仕事の紹介してくれるのだが、そのどれもが訳ありなモノばかりだった。
 今回のはラブホテル関係の仕事だ。もちろん清掃の仕事などではなく、系列店の各部屋に仕込んである隠しカメラの映像が正しく録画されているのをチェックする簡単な仕事だ。

(流石の俺でも詳細は聞かなくても、これが盗撮で犯罪行為なのは理解はできるさ)

 それでもモニターの前にいるだけで、通常のバイト半月分が稼げるのだから金を必要としている俺は助かっていた。
 映像の中には未成年相手の援助交際、泥酔した女性を連れ込んでのレイプ、美人局や昏睡強盗などあきらかな犯罪行為もあったが、ここでは他言無用が絶対のルールだ。
 映像の流出どころかカメラの存在が露見するだけで、命が危うくなると脅されていた。その口止め料も含めてバイト代が高額なのだと納得すると、映像はAVの企画モノと同じフィクションだと思うことにしている。
 そもそも俺はセックスは大好きだし、AVなんかも人並み以上に好きだ。他人の性行為を覗き見る背徳感も手伝って、今ではここで映像を見るのを楽しみにしているほどだった。
 なかでもSM用のプレイルームで見た光景は俺に強烈な印象を残した。
 親父さんの趣味もあってSM用の設備は特に充実しているらしく、その手の趣味がある客に大人気らしい。マニアックな客によって女性が麻縄や拘束具で自由を奪われ、ギチギチと女体が締め上げて歪に変形させていく。
 そうして、苦痛と快楽に翻弄されながら次第に淫らに腰を振りはじめ、悶え啼かされていく様は圧巻だった。

(まさか、この俺がSMに興奮するようになるとはな……)

 常連客の中でも特にお気に入りなのが、背中に般若の刺青を彫ったヤクザ者だ。毎回驚くほど凄い美人を連れてきてはハード調教をしていた。
 どの女もあきらかに男を嫌っている様子なのだが、それを強引に拘束して犯していく。そうして執拗に責め続けて屈服させた女を、じっくりとマゾ奴隷へと調教して堕としていくのだ。
 その中でも特に男が好きなのが浣腸プレイだ。大量のグリセリン溶液を注ぎ込んではアナルストッパーで蓋をする。そうして腹痛に悶える中、馬並みの巨根への口唇奉仕を強要するのだ。
 それで反抗的な女も大抵は大人しくなる。排泄できずに苦しみながら、口を性処理の道具として扱われる屈辱に身を震わせる。だが、次第に男の手腕によって反抗の意思を確実に削られていく。
 そうして、最後には排泄の赦しを泣きながら乞い、自ら牝奴隷に調教して欲しいとカメラの前で宣言させられるのだった。
 プライドが高く知的な美女が、ヤクザ者によって悶え狂わされて屈服されていく。それがAVのような演技ではなく現実に行われているという事実に、俺は激しく興奮させられてしまうのだった。

「よぉ、ご苦労さん。そういやお気に入りの例のお客さんが何度か来てたぞ。ただし……」
「わかってますって、映像の持ち出しは厳禁、他言無用でしょ?」
「あぁ、ここで見るぶんには自由だからな。奥の端末で好きなだけ抜いていけ」

 顔見知りになった従業員の言葉に苦笑いを浮かべながらも、今回もしっかりと男の映像で抜かせてもらった俺だった。





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