虚影なる正義 −折られた翼− (2/3)

 女性が身に付けていた衣類はすべてボロ布と化して足元に散らばっていた。
 必死に抵抗を試みている間に履いていたヒールも脱げて、すでに身に付けているのは首に巻かれた赤革の首輪のみとなっていた。
 スポットライトの光に照らされる女性の身体は美しかった。
 白く決め細かな肌が照明の光を浴びてキラキラと輝いてみえる見事なプロポーション。それが描くラインは芸術的とすら言えるモノだった。
 こんな惨状でなければ、いつまでも鑑賞していたいと思ってしまう、そんな裸体だった。

(でも……なんだろう……なにかが引っ掛かる……)

 目の前の光景に記憶の縁を刺激するものがあった。それがなんなのか考える暇もなく惨劇は続いていく。
 全裸にされた女性を、黒人たちは麻縄で縛ろうとしていた。
 後ろに捻り上げられた手首に麻縄が巻きついていく。そのザラリとする感触に女性が短い悲鳴あげて益々激しく暴れ始めた。
 だが、屈強な黒人たちに四方を囲まれては逃げ出すことは不可能だった。必死に抗う獲物の姿に乾いた笑みを浮かべながら、その身体へと次々と麻縄を巻きつけて自由を奪っていった。
 豊満な乳房の上下にも何重にも麻縄が巻きつけられた。縄の間に挟まれる乳房が根元を押し潰されて無惨に変形していく。
 縄尻はそのまま両脇へと通されてギュッと締め上げられる。そして、最後には首の左右を通して胸元へと縛りつけられていった。
 上半身をガッチリと緊縛され、両腕を完全に封じられてしまう。縄目の間から絞り出された乳房がパンパンに張って砲弾のように突き出していた。その無惨な姿に私は自然と涙が浮かんでしまっていた。
 俯く女性の髪を黒い手が荒々しく掴んで顔を上げさせる。悔しげにする女性の頬をビタビタと手で叩きながら、耳元でなにかを囁いた。
 すると女性が突然、肩を震わせ始めた。なにかを叫ぼうとしたようだが、口枷のせいで言葉にならない。空しく呻き声となって響き渡る。
 その反応に黒人たちは残忍な笑みを浮べ合うと、ひとりが手にしていた鎖を引いた。逃げようとした女性が引き戻されてしまう。その背後から革製のパドルを手にした黒人たちがビシャリと真っ白な尻肉を叩いて、徐々にステージ奥へと追いたてていく。
 新たなライトが照らされると、その先に用意されていた木馬が姿を現した。
 実際の馬のサイズに近いそれは、短めの四脚の上に組まれた胴体部分の本来なら鞍が置かれる場所が鋭く尖っていた。正面からみると胴体部分が三角形をしているのがわかる。
 それは正式には三角木馬と呼ばれる跨いだ者を責め立てる拷問器具であった。

『んー、んんーッ』

 黒人たちは嫌がる女性を軽々と担ぎ上げた。ジタバタと抗う女性の両脚を強引に左右に開くと三角木馬の上へと運んでいく。
 そのまま、ゆっくりと三角木馬の背へと降ろしていくと、黒人たちが一斉に手を離した。

『――ッ!? うぐーッ』

 女性が激しい呻き声を上げた。後ろ手に緊縛された裸体を硬直させ、アイマスクの下で苦悶の表情を浮かべる。その間にも自分の体重によって尖った頭頂部分へと股間をどんどんと食い込ませてしまう。
 木馬の胴体側面は滑らで、足をかけるところはない。宙に浮く足先では食い込みを止めることができない。それでも必死に木馬の脇を太股で締め付けると、少しでも楽になろうと試みた。
 プルプルと太ももを震わせて耐える姿に嗜虐の笑みを浮かべる黒人たち。その手には鉄球付きの鉄枷が持たれていた。

(まさか……)

 必死に踏ん張る女性の両足首へとガチャリと鉄枷がはめられる。そして、彼らは持っていた鉄球を手放したのだった。
 その結果、くの字に曲げられていた女性の脚は一気にピンと下に伸ばされた。更に鉄球の重みで、より激しく股間を食い込まされてしまう。
 スピーカーから耳を覆いたくなるような悲鳴が響き渡った。
 三角木馬に跨がった裸体が激しく痙攣していた。アイマスクの下で苦悶に表情が歪め、吹き出した汗が全身を濡らしていく。
 だが、黒人たちの責めはまだ始まったばかりだった。
 各々が鞭を手にすると、ゆっくりと振り上げて緊縛された裸体へと打ち付けはじめたのだ。風切り音と共にバシッという乾いた大きな音が響く、それに苦悶の呻きが続いていく。

(な、なんて酷いことを……)

 目を背けたくなるような凄惨な光景だった。

――それなのに映像を見るのを止めることができずにいた……

 頭の隅で必死になにかが私に訴えていた。だが、それの正体がわからなかった。
 焦燥感に似たものに心が激しく揺されてしまい、冷静に考えられなくなっていたのもあった。
 心臓が早鐘のように脈打ち、胸を押さえる手のひらにはビッショリと汗をかいている。
 息苦しさを感じて、しきりに襟元を緩めてしまう。

(私は……なにかを恐れているのか?)

 指先が震えていた。それをギュッと握りしめると、胸の奥からこみ上げてくるモノに必死に耐え続けた。
 一緒に観ている敬子はどうなのかと横目で見てみれば、隣に座る彼女は真剣な表情で真っ直ぐモニターを見つめていた。
 こちらの反応に気付いた気配はなく、いつも通りに冷静そうな彼女の横顔に、なぜか私はホッとしていた。