化面夫婦 (3/3)

「ほらよ、これは俺からのクリスマスプレゼントだ」

 男が手にしたのはイボだらけの極太バイブレータだった。それを尿で濡れる秘部へと無理矢理に押し込んでいく。
 その質量は下腹部がぽっこりと膨むほどで、子宮を押し上げるほど圧迫感に気を失っていた彼女が眉根を寄せて苦しそうに呻いた。
 根元まで埋没させられたバイブレータで閉じきらぬ秘唇。それを塞ぐように、男は左右のリングを強引に寄せると南京錠で繋ぎ止めていった。

――カキンッ……カキンッ……カキンッ……

 次々とロックがされる金属音が響き、バイブレータが押し込まれた秘部が三つの南京錠で封印されてしまう。

――もう、二度とそこを使わせてやるものか……

 目の前の行為には、そんなゾッとするドス黒い意思を感じてしまう。思わず込み上げる吐き気に僕は堪えられなかった。
 僕が胃液を吐き出している間も男の作業は進んでいく。
 男は最後の拘束具として黒革製の全頭マスクとハネース付きの口枷を手に取った。
 気絶したままの彼女にマスクを被せると栗色の髪を中に押し込んで、後頭部の編み上げの紐を徐々に締め上げていく。すると表面に顔の凹凸がわかるほどにキツく張り付いていく。口元と呼吸用の鼻の穴以外は黒い革に覆われてしまうと、ルージュが塗られた官能的な唇だけが彼女であった証だった。

――だが、それすらも男は口枷で奪おうとするのだった……

 顎を左右から掴んで口を開けさせると筒型の口枷を噛ませていく。それを頭部に固定するハーネスが頬を通り後頭部で締め上げる。さらに鼻の左右から頭頂を通る別のハーネスも後頭部でまとめられていく。そうして、それもまた南京錠で施錠されてしまった。
 ガチガチに拘束されてしまった頭部は、もはや愛した彼女だと識別するのも難しい状態になっていた。
 口元の筒に押し込まれたゴム栓を抜き取ると、ヌメり光るピンク色の口腔が見える。男の指が無造作にその中へと入ると、彼女の舌を引き出してきた。

(この上、なにをするつもりだ?)

 疑問に思うまもなく先程の針が彼女の舌先に近づき、それを貫いた。

(――なッ)

 そこにも先ほどと同様にリングのピアスが通されると下半身の肉芽のピアスとを小さな鎖で繋げてしまう。
 そして最後に針は彼女の鼻先へと向けられた。
 ゆっくりと鼻の穴へと入っていく尖端に、僕は悲鳴をあげそうになった。

(もう、止めてくれッ)

 その願いも虚しく、次の瞬間には針は彼女の鼻も貫かれていた。
 彼女の気絶していたのがせめてもの救いだろうか。そう思ったが、ソファに寄りかかるように座らされた彼女の姿を見て、その考えもすぐに霧散してしまっていた。

――僕が愛して描き続けた彼女の白い裸体が、黒革の拘束具によって無惨の変えられてしまった……

――両腕は背後にまわされ、長い脚は折り曲げられたまま拘束されて、コルセットのような首輪によって首の自由まで奪われてしまった……

――綺麗なラインでお気に入りだった乳房は鉄枷によって無惨に押し潰され、頂の乳首には銀のリングピアスが異彩を放っている……

――凛とした美貌は全頭マスクで黒く塗り潰されて、鼻にはまるで牛のような鼻輪を付けられてしまっていた……

――口元のリング穴から引きだされた舌先からは、まるで牝犬のようにダラダラと滴る唾液が鎖を伝って肉芽のピアス
へと滴っていく……

 その彼女の姿を見下ろしていた男は、まるで芸術品を完成させたかのように満足げにしていた。

「さて、牝犬の躾をはじめるとするか」

 そう呟いた男の言葉が聞こえた。
 だが、すでに僕の感情は止まってしまっていた。茫然とただ画面を見続けているだけで、心が動かなくなっていた。
 男は拘束された彼女を軽々と担ぎあげると、いくつかの道具を持って歩きだす。
 その向かった先は風呂場だった。冷たいタイルの床に彼女をゴロリと転がすと、洗面器にグリセリン溶液を注ぎ込んでガラス製の浣腸器で吸い上げていく。
 まだ気を失っている彼女のお尻の穴へとノズル先を突き挿すと、ゆっくりとピストンを押していった。
 ガラス筒に満たされた乳白色の液体がどんどんと彼女の腸内へと注ぎ込まれていく。ますます膨れていく彼女の下腹が画面越しでも確認できた。
 その圧迫感に気絶していた彼女も苦しげに呻きだすとようやく目を覚ました。
 だが、視界を全頭マスクで奪われ、口枷で喋ることも出来なくなっている自分の状況を理解できずに混乱しているようだった。
 特にピアスが貫通した部分がジンジンと痛み、注入された浣腸液が効果をおよぼすと聡明なはずの思考をさらに乱していった。

「あぁ、ひゃぁ、ひゃくへて……――ひゃん」

 彼女が僕の名を呼んだ気がした。だが、口枷を噛まされ、ピアスの鎖で引かれた舌先では、もはや彼女の言葉を正確に聞き取ることもできない。
 心壊れた僕には、ただ彼女の無惨な姿を涙を流しながら見続けるしかできなかった。

「くぁぁぁッ……」

 男によって彼女はタイル床の上で膝立ちをさせられると、上半身を前に倒されてお尻を高々と突き出したポーズをとらされた。
 その腹部が大きくうねると共にゴロゴロと激しい腸鳴りをはじめた。
 その発作の感覚がしだいに狭まり、彼女の身体がガタガタと震えだす。肌に汗を浮かばせて苦しげにうめき声をあげると限界はすぐにやってきた。

「ひゃぁぁ、たへぇぇぇッ」

 彼女の叫びと共に放屁が始まる。
 すると男はタイルの床へとなにかを置いた。

――それは僕が描いていた彼女の絵だった。

 窓際のソファに座り、微笑んでいる彼女の笑顔を描いたものだ。
 それの上に絶叫と共に彼女の肛門から噴出した乳白の液体が降り注ぐ。

「あ、あぁ……」

 濁流がおさまると固形物がメリメリと姿を現してくる。それはボトリと絵へと落ちて彼女の笑顔を覆い隠していく。

――僕の描いた彼女の姿が排泄物に塗りつぶされて消えてしまった……

 その脇では男の怒張をお尻の穴へと挿入されて犯される彼女の姿があった。
 それを僕は放心したまま見続けていた。



 気がつけば暗闇の中でノイズで覆われたモニターの前に僕はいた。
 外はすっかり日が暮れていて深夜近くのようだった。窓から見える満月が不気味に赤く染まっていた。
 僕はヨロヨロと立ち上がると、そのまま部屋を後にする。
 エレベーターを降りると無人のメインフロアを通って外へと向かう。
 すると正面扉から出た僕の前には、シルバーボディのロールスロイスが停止していた。
 老運転手が恭しく頭を下げると後部扉を開ける。
 そこに吸い込まれるようにして僕が後部座席へと乗り込むと、車は静かに走り出していた。
 車窓から夜の街の光景が流れていく。それを僕は力なく見つめていた。

「……また……夏樹を壊されてしまった……」

 莫大な財産と権力を手にした僕が最初にしたのは、失踪した幼馴染のことを密かに調べあげることだった。
 彼女はどこかで元気にしている。僕じゃない誰かとだけど幸せにしている。そんな僕の淡い期待は調査結果によって無惨にも裏切られた。
 報告書には、彼女もまた今回と同様の手段によって拐われていたことを突き止めていた。
 そして、海外に性欲処理の奴隷として売り飛ばされたことまで記載されていた。
 添付された記録映像には、薄暗いコンクリート剥き出しの部屋で家畜のように扱われる彼女の姿があった。
 いや、家畜の方がまだマシだった。国籍不明な男たちの性欲をただ処理する肉玩具や肉便所というのが正しい光景だった。
 全頭マスクを被せられた彼女はピアスと刺青だらけの身体を拘束されて鞭を打たれていた。
 時には妊婦のように腹が膨れるまで大量の浣腸を注入されては、苦しむ姿をにもされていた。
 人前で排泄させたれ、穴という穴を同時に犯されて、それに身悶えしながら激しく潮を吹いて絶頂していたのだ。
 時には相手は人間だけでなく、豚や馬などの獣の相手もさせたれて見世物にされていることもあった。
 どの映像にも全頭マスクが被せられて素顔が晒されることはなかった。だが、それが恋人だった女性だと僕にはわかってしまていた。
 溢れる涙で映像が歪ませながら、久々に会えた彼女の姿を見続けた。
 今思えば、僕はその時に彼女と心中していたのかもしれない。
 次第に心を壊されていく彼女と共に僕の心もその時にすでに壊れていった。

――そう、僕はすでに完全に狂っていた……

 僕を乗せた車が大きな鉄門をくぐり、広大な敷地を有する自宅へと入っていった。
 このまま帰宅すれば大勢の使用人たちと共に妻が、いつものように笑顔で出迎え、僕は微笑みながらそれに応えるだろう。
 すでに偽りの僕が僕自身となってしまっている今となっては、良い夫、円満な夫婦を演じ続けていくしかなかった。

――ただ、僕は恐れていた……

――僕の記憶から幼馴染みの姿が完全に消え去ってしまうことを……

 だが僕自身の記憶もすでにおぼろげで、彼女の顔をよく思い出せなくなっていた。
 彼女の写真を手にいれたくても、あらゆる顔写真が抹消されていた。仮にどこかに残っていても僕が入手しようとする行為自体が危険だった。
 それでも、心の欠片が幼馴染の残影を求めてしまう。

――高揚感に包まれた告白の瞬間……

――心穏やかに過ごすふたりの時間……

――心臓が高鳴り、心が震えた逢瀬の一夜……

 それらを記憶から掘り起こしてはパズルのピースのように繋ぎ合わせようと足掻き続けてしまう。そうすることで僕が僕でいられる気がしたからだった。
 その為には、それらを思い出せる経験をする必要があった。

「……早く彼女の面影を見つけないと……あぁ、そういえば……彼女の脚は綺麗なラインを描いてたな……」

 次なるピースを思い出した僕は、いつものように微笑みを浮かべていた。
 その記憶を明確にする新たな刺激を欲して、僕の心の欠片はざわめくのだった。



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