無法の街 (3/3)

 結論から言えば、彼女は失神しかけながらも三十分を耐えきることができた。
 そこで犯していた黒人の男に取り分が発生するのだろう。ニヤリと笑うとラストスパートとばかりに、再び彼女の尻を抱えあげて激しいピストン運動を繰り出しはじめた。
 荒馬に乗せられたように彼女の身体が激しく揺れ、その度に吊り上げるロープが彼女の首を絞め上げ続けた。苦痛と快楽によって半狂乱となる彼女を男は性欲処理の道具とばかりに荒々しく扱い、最後には 気持ち良さそうに子宮へと白濁の液を注ぎこんでいった。
 白眼を剥いて気を失った彼女のロープを腰に挿していたナイフで一閃して切断すると、軽々と肩に担ぎ上げる。ポッカリと開いたままの秘部から注ぎ込まれた精液が溢れでているのを気にせずに、そのまま賭けを取り仕切っていた初老の男から大金を受けとって上機嫌に去っていった。



 それからは三ヶ月にわたりサディストである黒人の男に拘束されたまま犯され続ける映像が続いた。

――後ろ手に拘束されたまま黒人の男に跨がり腰振りを強要されながら、背後から助けようとした白人女性にディルドゥでアナルも犯されて悶絶し、次第によがり狂わされていく彼女……

――X字に吊られて全身を鞭打たれた後、巨根でアナルを犯されて泣き叫びながらも、最後には潮を吹くまでに激しく絶頂するように肉体を変えられていく彼女……

――乳首やクリ×リスをはじめ、全身に次々とピアスをつけられ、最後には涙ながらに許しを請いながらも背中に堕天使の刺青を彫られていく彼女……

――広場のギロチン台に拘束されて、同じく拘束された白人女性と競わされて男たちの精を口で搾り取り続け、敗者である相手女性の断末魔と共に転げ落ちる頭部に涙をする彼女……

――大量のクスリを打たれて酒場で大勢の兵士たちに三日三晩犯されつづけ、最後には泡をふいて倒れた床の上で穴という穴から精液を溢れだし続ける彼女……

――ヒトイヌ姿に拘束されて、発情した軍用犬たちの小屋で何日もわたって犬たちに犯され続け、最後には自ら犬のペニスを求めて激しく絶頂するようになっていく彼女……

 映し出されるどれもが無惨な光景であった。その全ての映像を見続け終えると俺は静かに部屋を出た。
 人目に触れにくい経路を選びながら建物内を進む。そして、豪華な木製扉の前に立つと独特のリズムでノックをして入っていく。
 広々として豪華な調度品のある執務室で俺を出迎えたのは二人の人物だった。
 窓の方を向いたまま背を向けて立っているのが副署長だ。ロマンスグレーの紳士然としていて、甘いマスクで女性署員からの人気も高い。
 一方、その脇に控えるシルバーフレームの眼鏡を掛けた神経質そうな男は俺の上司あたる課長だ。ネチネチと細かいところを指摘してくるので、こちらは男女問わず署内での評判も悪い。
 そんな対照的なふたりに敬礼をしてみせると、懐から取り出した二本のメモリーを執務机の上へと置いた。そのひとつは先程まで見ていた映像が納められたものだった。

「今月の押収データと先方から受け取った例の映像です」

 俺が言い終えるのも待たずに課長が脇から掴んで手元の端末で確認していく。それを横目に俺は報告を続けた。

「港のコンテナから押収した品は、すでに署内の保管室へと運び込みました。今月から従来通りの量に戻したらしく保管記録にはいつも通りとして、残りは明日に運び出す予定です」
「うむ、こちらでも確認しました。運び出しの手筈も私の方でもう整えてあります」

 それらの報告を副署長は背を向けたまま黙って聞いている。
 報告内容も通例通りだから、特に言うこともないだろうが、こういう自分は直接指示を出さないようにしている小狡いところが俺は嫌いだった。
 今話している内容は、所轄にある港で押収された麻薬についてだった。押収した麻薬の一部を保管記録に残し、残りは組織の息がかかった警備会社が署内のATMの現金を扱うついでに運び出す算段になっている。
 それらは県外に運び出されて売人へと卸されるのだが、こちらには流通させない取り決めとなっていた。犯罪件数の多さで悪名高いが麻薬の押収に関しては全国一で、本庁がかがげている麻薬撲滅の目標値を唯一達成できているのもここだった。
 取引している相手組織としても警察の警護つきで陸揚げできて一時保管までしてくれるので大助かりだろう。
 お互いウィン・ウィンの取引として組織ぐるみで行われている行為で、彼女が調べていたことは事実だった。

「それにしても今回は失態だったな、鳴らない鈴に高い金を払っているつもりはないぞ」

 課長の嫌みに背後で組んでいる指に無意識に力が入る。
 だが、その課長の言葉を珍しく副署長が止めた。

「まぁ、いいじゃないか。その後の処置もいつも通り手際よくて助かったよ。アレに 関しては先方も気に入っているようで君にお礼がしたいそうだ」

 副署長に促されて課長が用意していた分厚い封筒を目の前に置いていく。

「これが特別業務の手当てだ、そしてこれがあの女を処理した報酬と先方からのボーナスだ」
「署内の厄介事……これからも頼むよ」

 高く積まれた封筒を上着に押し込むと俺は敬礼してすぐに退出しようとする。その背後に副署長が再び声をかけてきた。

「あぁ、これは余計なお世話かもしれないが休暇申請をだしたらどうだ? 随分と疲れた顔をしているぞ」
「……えぇ、考えおきます」

 退室間際に掛けられた言葉に、それだけ答えると俺は扉を閉じて早足に立ち去った。



 俺は刑事として通常の業務をする傍ら表立ってできない裏の業務を引き受けていた。裏社会との交渉や取引が主な仕事で、それが世間に露見した際のトカゲの尻尾の役割もあった。
 そして、その仕事の中にはそれを探る平穏分子の監視と排除も含まれてい た。
 だから、今回も新参者である彼女の教育係として監視を任され、その処分――睡眠薬入りのアルコールを飲ませて、自宅マンションを引き払う手引きをしたのも俺だった。
 だが、監視の方は課長の言うよう完全に失態だった。

(もし、課長たちより先に彼女の行為に気付けたら……)

 そんな甘いことを事を考えてしまった瞬間もあったが、全ては手遅れだと判断した俺はいつも通りに彼女を処分していた。
 法も正義もないあの不法の街は、正義感が強い彼女にとって地獄よりも辛い場所だろう。そこへ俺は自らの手で彼女を送り込んだのだ。
 機密保持の為に組織関係者以外は生きて街を出ることはないという。だから、彼女が再びこの国の土を踏むことは二度とないはずだった。

(俺はいつも通りに任務を忠実にこなした……なのに、どうしてだ?)

 先程の映像を観てから、胸の奥がズキズキと激しく痛むのだ。
 以前の俺ならこんなことはなかった。親しかった同期だろうと平然と処分して余計な感情は切り捨ててきたのだ。
 それなのに、いつもは平然と受け流していた課長の嫌みに苛立ちを感じ、今も激しく心が揺れていた。

(そんな俺の状態を見透かされたか……)

 去り際の副署長の言葉は、俺の異変に気付いての言葉なのだろう。俺は自覚している以上に、おかしくなっているのかもしれない。

(遠からず俺も処分されるな……)

 裏事情を知りすぎた俺に平穏という未来はない。唯一、その負のループから抜け出せるチャンスを俺は自ら捨ててしまっていた。
 その事を考えながら俺は無意識に締めていたネクタイを触っていた。それは、いつもヨレヨレの品を使っている俺に彼女が強引にプレゼントしてきたものだった。正直、趣味ではない派手な柄なのだが、それを処分もせずにまだ使っていることに気付く。

(あぁ、そうか俺は彼女との日々を気に入っていたのだな……そして、彼女のことを……)

 感情を殺すあまり無意識のうちに目を背けていた事実に、今さらながら気付いてしまう。
 自分の愚かさに目を覆いたくなるのだが、それで何かが変わる訳ではなかった。

(それでも、俺が本心ではどうしたいのかはわかった)

 人目の少ない裏口へまわった俺は、門番をする顔馴染みの制服警官に挨拶しながら敷地の外へと出ていく。

「まったく……生きるのに不器用なのにもほどがあるな……」

 自虐的な笑みを浮かべた俺は、今までいた建物に背を向けると暗闇の中へと姿を消した。
 そして、二度とその街に戻ることはなかった。




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