無法の街 (2/3)

 それから三ヶ月が経過した今日、裏取引をしている組織幹部からこの映像の入ったメモリーを手渡された。

(映像の彼女は、最後に会った服や下着のままだから、あれからまだ日数が経過してないものなのだろう)

 別カメラの映像に切り替わると、画面には廊下にでた彼女の姿が再び映し出された。
 部屋の外は室内ほど荒れてはおらず、安ホテルといった雰囲気だ。
 そう長くない廊下の左右には先程のと同じ扉が並び、それぞれのナンバーがふられている。どうやら今いるフロアは三階のようで廊下を進むとエレベーターと階段があるのが案内板から推測できた。
 色褪せた赤いカーペットの上を素足で慎重に進んでいく。

(だが、歩み進むうちに彼女の表情がどんどん険しくなっていくのがわかる)

 並ぶドアの向こうから淫靡な気配が伝わってきたのだ。女性の喘ぎ声や男の咆哮が聞こえたと思えば、男の怒声と女性の悲鳴が廊下に響き渡る。
 どの部屋からも男の暴力的な気配が漂ってきて、たまたま空いていたドアの隙間から見えた室内では、両手を天井から吊り下げられた白人女性がマッチョな黒人の男から鞭を打たれて全身を血に染めている光景が見えた。
 天井から垂れ下がる二本の鎖についた枷で両腕を引き上げられ、床から離れた両脚も床から伸びる鉄枷によって左右に広げるように拘束されている。
 空中でX字に吊られた女性の口元にはゴム製の棒が噛まされていた。それは喋れなくするというより自殺防止の意味合いが強いのは、女性の全身に刻まれた裂傷や打撲の跡から容易に推測できた。
 その女性の前では、ニタニタと嫌な笑みを浮かべた半裸の黒人が、白く熱された焼ゴテを持って迫ろうとしていた。

(そんな光景を見て、黙ってられるような性格ではないな……)

 当然、次の瞬間には自らも拘束された身であるにもかかわらず彼女は室内に飛び込んでいた。
 突然の乱入者、それも拘束された女性の姿に驚いた男だが、すぐに好色な笑みを浮かべる。
 焼きゴテを炭の入った金属ケースに戻すと両手を広げて迫ってくるのだが、鋼の鎧のように鍛えられた肉体には数多くの傷が刻まれていて荒事専門の人間なのがわかる。
 ふたまわりは違う体格差で掴まれたら終わりだろう。それでも男を睨み付ける彼女の様子に変わりはなく、大きな手で掴みかかろうとする男の目の前でクルリと身体を反転させる。次の瞬間、回転の勢いも加わった強烈な後ろまわし蹴りが男の股間へと炸裂していた。

「――ッ!!」

 声にならない絶叫があがった。たまらず股間を押さえて前屈みになる男の側頭部へと、さらにまわし蹴りがもう一発入る。
それには屈強な男も流石に白目を剥いて、その場で崩れ落ちていった。

「ふぅ……」

 倒れた男を冷たい目線で見下ろした彼女だが、その後の行動など考えていなかったのだろう。
 両腕を袋状の拘束具で包まれている彼女では、吊られている白人女性を助けることは出来なかった。
 そうしているうちに騒ぎを聞き付けた人が迫ってくる気配が廊下からしてきたのだ。

「……くッ」

 助けてと必死に目で訴える白人女性から無念そうに目をそらすと、彼女はそのまま廊下へと躍り出た。
 ちょうど廊下の影から姿を現した男たちへ鉢合わせになる。迷う暇なく彼女の足技が舞い、次々と倒していった。
 床で昏倒する男たちをみてみれば全員がアジア系の顔立ちではあるが肌は浅黒く、彼女とは人種が違うのは明らかだった。
 振り向けば騒ぎでドアから顔を出してきていた男たちも国際色が豊で、その中には日本人らしき姿が見受けられない。
 目覚めてから密かに感じていた違和感を確かめるべく、彼女は駆け出して階段を降りていく。
 途中、野戦服を着こんだ男たちが立ち塞がったが、それらも次々となぎ倒していった。
 そうしてロビーへと降り立つと、驚く従業員男を尻目に正面扉から外へと飛び出した。

「――ッ!?」

 そこで彼女の両目が驚愕で見開かれていくのを通りに設置された監視カメラが捉えていた。
 目の前に広がる派手なネオンが煌めく夜の街並み。それは彼女の知るどの光景にも該当しなかった。
 舗装もされずに土が剥き出しの大通り。その左右に並ぶのはコンクリート剥き出しの無骨な建物たち。一応は客商売用に派手なネオン照明で彩られはいるが、どれも質素で頑丈そうな造りで高くても四階程度の高さのものしかない。
 看板のほとんどが酒や女の絵が描かれた風俗らしい内容だが、そこに使われているのは英語や見慣れない言語ばかりだ。呆然と立ち尽くす拘束姿の彼女を周囲でニヤニヤと見ている男たちも明らかに日本人ではなかった。
 それどころか建物の屋上には高射砲がいくつも設置されていて、街のあちらこちらには重機関銃のついた装甲ジープや装甲車が停まっている。その周囲には自動小銃を背負った野戦服姿の兵士までいたのだ。
 建物の隙間から街を囲むように密林があるのが見える。生い茂った樹木の向こうにはグルリと囲む高い山々があった。まるで天然の要塞といった雰囲気のこんな街が日本にあるはずもない。
 その事実に打ちのめされている彼女の前を、土煙をあげてホロをはった軍用トラックが横切った。
 それはすぐ近くのビルの前に停まると、待ち構えていた労働者たちが荷台に積まれた荷物を担いで運んでいく。

ーーそれは木の枷で両手を首の左右で拘束された女性たちだった……

 猿轡を噛まされて荷物のように担がれては次々と建物の中へと運ばれていく。その多くが西洋人の女性で綺麗な服装から観光客なのかも知れない。
 その向こうには大通りの先に広場があるのが見えた。その中央には木で組まれたステージが造られていて、そこには鳥居のような木製のアーチがあった。そこにはロープで吊るされた人影らしきものがいくつもあった。その左右には2つのギロチン台らしきものまで見えたのだった。

「う……うぅ……」

 悪夢のようなその光景に流石の彼女も恐怖で顔を青ざめていく。
 そんな彼女の背後にヌッと大きな黒い影が立つのが見えた。

「――Hey!!」

 声を掛けられて反射的に振り向いてしまう彼女。次の瞬間にはその腹部に黒い拳がめり込んでいた。

「――ぐふぅッ」

 激しく吹き飛ばされた彼女の身体は周囲に集まっていた男たちの中へと飛び込んでいった。
 そこへゆっくりと歩み寄っていくのは、先程の彼女に股間の蹴られた黒人の男だった。
 深緑の野戦用のズボンを履いた男は、黒い肌に怒りで血管を浮き出させて目を血走らせて迫ってくる。
 その様子に周囲に群がっていた野次馬が左右にわかれて道をつくっていくのだが、中にはパキパキと指を鳴らして迫る男に呼応するように倒れている彼女を掴んで荒々しく立たせる者たちまでいた。

「うぅ……」

 苦痛に表情を歪ませる彼女のようやく状況を理解したようだ。慌てて距離を取ろうとする彼女を野次馬たちが阻んでしまう。
 そこへ再び黒人のパンチが唸った。アッパーで繰り出された拳が再び腹部へとめり込んで彼女の身体が宙に浮かんで、くの字に折れ曲がる。
 崩れ落ちそうになる彼女の身体を周囲から伸びた無数の手が掴み、今度は倒れることを許さなかった。周囲の男たちが彼女逃げないようにガッチリと押さえ込んでしまう。

「ぐッ、うぐぅぅッ」

 拘束された身体を何人にも掴まれては振りほどく事もできない。目の前で振り上げられる強烈な拳を避けることもできなかった。

ドスッ、ドスッ、ドスッ……

 ハンマーのような威力をもつ黒い拳が彼女の腹へと打ち込まれていく。まるで生きたサンドバッグのように次々と拳がめり込み、肉を打つ音が響き渡る。
 それを周囲で見る男たちは乾いた笑みを浮かべ、喝采をあげる者までいた。



 そこはアジア辺境にある地図に記載されていない街だった。
 麻薬の一大生産拠点と名高いその地域でつくられる麻薬の生産とその警備に関わる人間の為につくられた歓楽の街なのだ。
 当然、公式には存在しない街であり、その国の権力も入り込めない裏の世界の場所である。法も権力も介入できない、麻薬犯罪組織による金と暴力が支配する街がそこだった。

 ようやく黒人が拳を止めるころには、彼女の腹部は無惨にも青黒く変色していた。
 グッタリと頭をたれる髪を掴んで俯いた顔を上げさせると、涙と鼻水で酷いことになっていた。
 その口元の穴を塞ぐゴム栓を男は摘まむ出す。するとズルリと男性性器を型どった内側が姿をあらわしていく。喉奥まで塞いでいたそれが取り除かれると、血の混じった胃液が大量に吐き出された。

「――げぇッ、げへぇッ」

 背を丸めて地面に胃液を撒き散らしていく彼女。それが落ち着くと黒人の男はおもむろにブラジャーを掴むと、強引にむしりとって投げ捨てた。
 それを野次馬たちがこぞって奪い合うのを尻目に、続いて胃液で汚れたブラウスを破り捨て、最後にはショーツを引き抜いて全裸にしてしまう。
 すでに反抗する気力までへし折られたのか、気丈な彼女が怯えた表情を浮かべ 無抵抗だった。
 男は全裸に拘束具姿となった彼女を肩に担ぎ上げると今度は歩きだす。
 これから起こることに期待をするように周囲の男たちも続いて移動していく。
 その行き先が先程の広場だとわかると周囲の男たちが乾いた笑みを浮かべ合い、何かを理解した何人かがアーチへと先回りして登りはじめた。
 そこから垂れ下がるロープのひとつをゆっくりと下ろしていく。輪っかになった先端を受けとった野次馬が地面に下ろされた彼女の首へとそれを掛けていった。
 足元にコンクリートブロックが置かれると期待に興奮するする群衆が見守る中、縦に置かれて不安定なその上に立たされた彼女が、ギリギリ爪先立できる長さへとロープの長さが調節されていった。
ーー見も知らない人々によって彼女は絞首刑にされようとしていた……  助けを求めようと周囲を見渡せば白い歯を見せて残忍に笑う男ばかり。そして見上げれば、そこにはアーチから首を吊られた死体がいくつも見えた。その多くが後ろ手に縛られた全裸の女たちで、垂れ下がる髪に隠れる女たちの死に顔が彼女の位置からはよく見えた。虚ろな死人の瞳が絶望的な今の彼女の姿を映していた。

「う……うぅ……ひや……ひひゃぁぁッ」

 恐怖に目を見開いた彼女の身体がガクガクと震えだした。
 その姿が愉快とばかりに周囲に群がった野次馬どもがゲラゲラと笑い合う。その光景がますます彼女を絶望へと追いやっていった。
 拘束具で後ろ手に自由を奪われ、衆人環視の中で絞首刑にされようというのだ。助けを請うことも口枷で許されず、それでもイヤイヤと首を左右に振って声にならない叫びをあげ続ける。
 だが、彼女を助けようとする者などその街にはいない。興奮した群衆がkillコールを連呼していく。
 グラグラと不安定に揺れるコンクリートブロックの上で必死に爪先立つ彼女は、迫る死の気配にポロポロと涙を流し、チョロチョロと失禁までしてしまうのだった。
 その様子にようやく怒りをおさめたのか、仁王立ちして作業を見守っていた黒人の男が手をあげて群衆を静めた。
 一転してシーンと静まり返る光景だけでも彼がこの街でそれなりの力を持っているのがうかがえる。
 男はニヤリと笑うと、おもむろに履いていたズボンを脱ぎ捨てて全裸になった。生粋のサディストらしく恐怖に震える彼女に興奮して激しく勃起していた。
 突然の行為に唖然としてしまう俺だが、群衆にはこれから起こることも解っているのだろう。ニタニタと嫌な笑みを浮かべだすとアフロヘアーの初老の男が場を取り仕切って何やら賭けはじめたのだ。
 そうしている間に黒人の男は彼女の正面に立つと片足を掬い上げて、ゆっくりと挿入しようとしていた。今の彼女にそれを拒むこともできない。ビール瓶ほどありそうな巨根が秘唇を押し広げて、メリメリと押し込まれていく。

「あ、あがぁッ」

 男には苦痛に泣き顔を歪ませるのも愉しいのだろう。頬を滴る涙を舐めとって実に満足そうにしていた。
 そして、そのまま両手で彼女の大きな尻を抱えるように抱き上げると一気に挿入を深めていった。
 ズンと突き上げられて激しく仰け反る彼女。その足元では置かれていたコンクリートブロックは撤去されていた。彼女にはもう戻る足場が無くなり、男が手を離せば即座に首が絞まってしまう状況に追い込まれていた。
 だが、男は彼女に長い脚で自らの腰へと絡ませると、なぜか彼女を抱えあげていた両手を離したのだった。
 当然、支えを失ってバランスを崩した彼女の上体が後ろに倒れそうになる。自ずと予想された通りにギリギリの長さに調節されていたロープが首を絞めあげた。

「――ぐえぇぇッ」

 ここで両手が自由なら男の首に両手を回してすがりつくことも可能だが、拘束具で両腕を背後で拘束されている彼女にはそれが不可能だった。
 だから慌てて腹筋を使って倒れそうになる上体を戻すしか術はなかった。警察官として鍛練を欠かさぬ彼女だから出来た芸当だが、普通の女性ならそのまま倒れていただろう。
 事実、野次馬たちの多くがそれを期待していたらしく落胆してため息をつきながら手にしていた賭けチケットを破り捨てていく。
 それで彼らが賭けをしていたゲームのルールを俺もようやく理解していた。

(彼女がいつ絞首刑になるか……人の生き死にを娯楽の対象にしている)

 その街での人の命の軽さを知らされる事実だった。
 そして、オッズが付けられていることから、賭けがまだ続いているのもわかった。

「ひぃッ」

 彼女の悲鳴で画面へと意識を戻すと、彼女に挿入していた男が腰を振って下から突き上げはじめていた。

「ひぃ、ひゃめ……ぐぅ、ひゃめへぇ」

 容赦ない突き上げで、只でさえ無理やり起こしていた上体が不安定に揺れていた。
 少しでも腹筋を緩めるとロープが首を絞めあげてくる状況だが、男が再び両手で抱えあげる気配もない。腰に回した脚を振りほどくかれないようにしながら、腹筋で上体起こし続けて耐えるしかないのだった。

(絶望的だ……)

 オッズの書かれたボードには三十分まで賭けられているのがわかる。少なくともそれまでその状態で犯され続けられるのは明白だ。
 そして、仮にそれに耐えきったとしても彼女が助かる保証などないのだった。