淫獣捜査 隷辱の魔罠

【67】 鞭の愉悦

 振り下ろした鞭は風切り音をたててイクさんの褐色の肌へと叩きつけられた。それは玲央奈の時とは違い、手加減のない一撃だった。

「ーーぐぅ」

 衝撃にイクさんが身を反らし、低く呻き声を洩らした。そこに続けて二撃、三撃と鞭を振り下ろしていく。
 拘束された女体に、みるみると朱色の鞭痕が刻み込まれていった。
 だが、そうした派手な行為が続いたのはわずかな間だけだった。続けていくうちに日頃の運動不足がたたって、息切れを起こしてしまったのだ。

「はぁ、はぁ……くそぉ……」

 玲央奈とのことで、俺はいい気になっていたのだろう。タギシさんによいところを見せようとした結果、逆に醜態をさらす羽目になってしまった。

(失敗した……だが、落ち込むのは後だ。今はこの場をどう繕うか考えろ)

 以前の俺ならここで落ち込んで思考停止していただろう。だが、自分を客観視できるようになった影響で、自分の感情を脇に押しやる術を覚えていた。
 吹き出る汗を滴らせながら、必死に思考を巡らせるのだが、そんな俺にタギシさんが見せた反応は予想とは違うものだった。

「へぇ、ルーキーは意外にも容赦のない鞭を打つんだなぁ」
「はぁ、はぁ……ありがとうございます」

 満面の笑みを浮かべる彼から、純粋な悦びを感じ取れる。
 そう評価されたものの正直にいえば、鞭をまともに振れていたのは最初の数回だけだろう。だから、彼の感想は意外であった。
 自己評価とのズレに釈然としない俺の様子に、彼はタオルを差し出しながら笑みを深める。

「たまにいるんだよ。サドを装って潜り込んでくるのがね。そういうヤツらは、鞭を振るときについ躊躇しちまうんだが……ルーキーは、なかなか見処があると俺は思うぜ」
「そ、そうですか」

 その潜り込んでいる人間である俺としては、彼の言葉にどう反応するべきなのか困ってしまう。
 それに、今の俺はそれよりも上手くできなかった事に苛立ちを感じていたのだった。

「だがなぁ、真面目にやると体力がもたないだろう? ちょっとコツがあってだなぁ、こうすると楽でいいぜ」

 俺の肩を叩いて場所を入れ替わると、タギシさんはゆっくりと鞭を振り上げていく。
 離れてみていると、イクさんがその気配を機敏に感じ取って身体が強ばるのがわかる。
 だが、タギシさんは俺のように鞭をすぐに振り下ろそうとはせずに、そのまま静止していた。

(なんだ? なにを見ているんだ?)

 ジッと彼が見つめるのがイクさんのキツく結ばれた口許なのだと気付いた。
 背後から打ちつけられる鞭に耐えようと、グッと食い縛っているのだが、予想に反して衝撃はやってこないことに戸惑っているようだった。
 張りつめた空気が続く中、根負けしたのはイクさんの方だった。
 一瞬だが呼吸のために、ふっと力が緩む瞬間があった。それにタギシさんがニヤリと笑う。

「ーーッ!!」

 鞭の鋭い一撃が打ちつけてられ、不意をつかれたイクさんが声にならない悲鳴をあげて、拘束された身体が仰け反らせる。
 そこへ畳み掛けるように鞭を次々と振り下ろされていく。堪える隙を与えないつもりなのがよくわかる。
 そうして、相手のタイミングをズラして相手を翻弄していくことで、より効果的に肉体的な苦痛を与えるとともに心理的な消耗を促していくのだと理解した。

(なるほど……俺みたいに闇雲に叩くだけではなく、鞭にも適切なタイミングというモノがあるんだな)

 タギシさんは口では説明せず、ただ自分のプレイを見せるだけだった。それでも、俺には貴重な情報が得られるものだった。
 隈無く観察して、自分との違いを読み取っていく。それをどう取り込んで実践するか脳内でイメージを作り上げていった。

「……って、まぁ、こうすると楽なんだが、わかったかい?」

 俺の時よりもイクさんの消耗は激しいのが見て取れる。すでに息も絶え絶えの様子だったが、今は教えてもらったことを、すぐに実践したいという想いが強かった。

「えぇ、もう一回やらせてもらって良いですか?」
「あぁ、いいとも」

 先程までのイメージを思い浮かべて、ゆっくりと鞭を振り上げていく。
 イクさんがグッと唇を噛むのを確認すると俺は彼女を避けて鞭で床を打ちつける。
 身を竦ませるような派手な打撃音が響きわたる。だが予想した衝撃が来ないことにイクさんが戸惑いをみせた。それを逃さずに、すぐさま直撃の一打をお見舞いする。

「ーーッ!!」

 身を捩り、悶絶するイクさんの姿を目にして、俺は口許が綻ぶのを自覚する。嗜虐者として嬲る愉悦を再認識した瞬間だった。

(さぞかし残忍な笑みを浮かべていたことだろうな)

 視界の隅に表情を強張らせる玲央奈を捉えたことで、それを確信する。
 そのまま今の感覚を維持しつつ、焦らずにじっくりと腰を据えて鞭をふるっていった。
 先ほどとは違い、焦らず、じっくりと責め立てていく。そのお陰で体力の消耗せずに、イメージ通りに鞭を振るえていた。

(鞭も愉しいものだな)

 肉悦をエサにした焦らし責めは玲央奈で試し、今度は苦痛によるマゾの支配を身につけたことになる。
 俺の鞭を受けて、苦痛の中に愉悦を感じ始めるイクさんの姿に手応えを強めていった。

「おぉ、やっぱりルーキーはスジがいいなぁ」

 タギシさんに声を掛けられるまで夢中になっていたようだ。気がつけば全身に鞭痕を刻まれたイクさんが木馬の上で派手に絶頂を迎えていた。

「ありがとうございます。タギシさんのお陰で少しは様になったみたいです」

 拘束された身をピクピクと震わせて、大量の潮まで吹いている姿に、溜飲を下がる俺だった。
 同時に、さらにこの感覚を味わいたいという想いが強くなっていた。

(あぁ、これは癖になりそうだ)

 暴力的な行為による激しい興奮。それによって分泌される脳内麻薬に脳が浸されているかのようにクラクラする。
 こうしたサドの快楽は、普通のセックスでは決して得られないものだろう。

(俯瞰して自分を見れている今だから、どうにか昂りを抑えられているが、以前のままだったら絶対に暴走しているな)

 イクさんの惨状に流石の玲央奈も血の気を引いていた。それを安心させる為に、優しく抱き寄せるだけの余裕を残せていた。

(怖がらせてしまったな)

 肩が微かに震え、身体も冷えきっているのがわかる。

「なぁ、いい汗かいただろう? 折角ジャグジーがあるんだから、ちょっと浸かろうぜ」

 奴隷たちにイクさんを介抱させる傍ら、タギシさんの提案で入浴することになった。
 もちろん、ただ入浴するわけではなく、ちゃんと彼らしく趣向も凝らしてくれる。腰まで湯船に浸かりながら、それぞれの奴隷にフェラチオ奉仕させようというのだった。

「文字通り、裸の付き合いってやつだな。さぁ、乾杯しようぜ」

 発信器であるライターとタバコを手の届くところに置くと、差し出されたグラスを手に取る。例のカクテルが注がれるとグラスを交わしていっきに飲み干した。
 このカクテルには精力効果があるらしく、疲れが消え去り、気持ちが昂ってくるのがわかる。
 拘束を解かれた奴隷たちが俺たちの脚の間にしゃがみ、湯船から頭をだす男根へと口を近づけていく。俗に言う『潜望鏡』というプレイをするのだが、俺も初めて経験だった。
 当然、玲央奈にいたってはフェラチオどころか男の性器に触れるのすら今日がはじめてなのだ。いくら奴隷に堕ちた役を演じているといっても限度ある。俺の男根を目の前にして冷静を装っているが羞恥で耳が赤くなっているがわかる。

「焦る必要はないよ。まずはタギシさんたちのを見させてもらって真似をしてごらん」

 優しい声音を意識しながら、先ほど俺が実践したことを提案してみる。
 その言葉が聴こえたのだろう。タギシさんへの奉仕を開始しようとした刺青の女性が目を細めて笑みを浮かべてみせた。
 見せつけるように彼の剛直に指を絡ませると、優しく這わせていく。その指の動きがなんともエロチックで、おもわずゴクリと生唾を飲み込んでしまっていた。
 男のツボを押さえた愛撫に、タギシさんが心地良さそうに吐息をつく。指だけの奉仕でも先端からトロトロと透明な液が溢れだしてくるのだが、それを指先で拭って潤滑油のようにして扱きはじめる。

「おッ、おぉぅ……なかなかだな」
「ふふ、ありがとうございます」

 肉茎を扱く一方で、もう片方の手は陰嚢を優しく揉みほぐしていた。その力加減が絶妙らしく、タギシさんが恍惚の表情を浮かべていた。
 その反応に嬉しそうに目を細め、彼女も奉仕に熱を入れていく。湯船に浸かる肌がほんのりとピンク色に染まり、身体が揺れるたびに肌に巻きつく龍の入れ墨が蠢いているかのように見えた。
 その艶かしい奉仕姿に、おもわず凝視してしまっていた俺と玲央奈だったが、ともに興奮も伝播していた。

「俺にもしてくれるかい?」

 そう聞いてみたものの、実際には玲央奈には選択の余地などない。それでも、聞くことで彼女が自分の意思を固める後押しにはなる。

「……はい、ご主人様」

 コクリと頷くと見よう見真似で俺の男根に触れてくる。それは初々しい指使いすら、俺には興奮の材料になっていた。
 みるみると硬さを持ちはじめる肉茎に玲央奈も驚きの表情を浮かべるが、指は離さずに奉仕を開始する。
 玲央奈の指使いにピクリと反応するのが不思議なようで、好奇心を感じはじめたようだ。
 俺がどう反応するのか探るよう触れてきて、次第に愛おしいモノに触れるかのような優しい表情まで浮かべてきた。
 もはや、それが演技なのか俺には、どうでもよくなっていた。横で行われる熱い奉仕を真似するように、俺に尽くしてくれる姿に胸が熱くなってしまう。
 そうしているうちにコツを覚えたのか、次第に指の動きもスムーズになってくる。それだけでなく俺が示すわずかな反応から、感じやすいところを探りだしてアレンジを加えるまでになっていた。

(頭の回転がよい努力家とはいえ、これは早すぎるだろう)

 時間とともに奉仕による肉悦は増していた。玲央奈の飲み込みの早さに舌を巻いてしまう。
 玲央奈の可愛らしい舌先が俺の肉茎を舐めあげる。それは次第に大胆になり、舌腹を押し付けるようにして唾液を塗りつけてきた。

「うッ、はぁぁ……」

 エラの張った亀頭の筋裏まで舌先で刺激する濃厚な奉仕。その心地よさにおもわず声を洩らしていた。

「ありがとう、気持ちいいよ」

 優しく頭を撫でると玲央奈は嬉しそうに微笑み見上げてくる。
 そのまま隣の奉仕に導かれるように、ゆっくりと亀頭を咥えていく。はじめての口腔奉仕に苦戦しながらも奉仕に熱をいれていった。

「焦らなくていいよ。まずは先端だけ咥えて慣れてごらん」

 俺の言葉にコクリと頷き、ゆっくりと先端を口に含んでいった。時折、奥歯は触れてしまうこともあったが、それも徐々に減っていく。
 彼女なりに試行錯誤しながら、舌を絡め、頬をすぼめて口腔奉仕をはじめた。

(ふぅ、今夜だけでもナナさんに涼子さん、そしてアイドルの玲央奈にまでフェラチオ奉仕をしてもらうなんて、本当に夢のようだな)

 ふたりと比べると稚拙な奉仕だが、相手が国民的アイドルであるという事実がそれを補っている。
 しがないサラリーマンである俺の足元に座り込み、嬉しそうに俺の肉棒を咥えているのだ。一生懸命に奉仕する姿にグッとこないはずがなかった。

「そっちも心地よさそうだが、あんまり飛ばすなよ。本番が残っているんだからなぁ」

 その言葉に心地よさに浸っていた俺もハッとさせられる。彼の言う本番とは違うが、俺にも本来の目的があったのだ。
 この地にオーナーである紫堂がいる確証を掴み、涼子さんと合流する。その為にも、少しでも手掛かりを見つける必要があった。
 幸いなことに、VIPルームには施設内の光景が壁に映し出されている。そこから有益な情報が得られるかもしれないのだ。
 だが、流れる映像からは紫堂どころか涼子さんの姿すら確認することはできなかった。

「はっはぁん、さては自分の奴隷が恋しくなってきたのか?」

 落胆していたのが表にでてしまっていたのだろう。タギシさんが白い歯をみせて笑っていた。

「え、えぇ、いろいろ怖い話も聞かされましたからね。流石に心配にもなりますよ」
「なら、そろそろ会えると思うぜ」

 奉仕を中断させるとタギシさんは湯船からあがる。中肉中背のほどよく引き締まった裸体に、奴隷たちが用意していた青紫のバスローブを羽織らせた。
 そのまま映像が投射されている壁の方へと歩きだすのを見て、俺も慌ててジャグジーから上がるとライターを手に取る。そのまま差し出された濃紺のバスローブを身につけて後を追った。

「ちょうど時間だな」

 その言葉が合図であるかのように目の前の白い壁がせり上がりはじめた。
 その向こうには円形のホールがあった。直径は30メートルぐらいだろうか、そこを囲むように今いるVIPルームと同様の部屋が設えてあるのが見える。  俺たちと同じく何人もの上級会員たちが見守る円形のホール。そこは、この地下施設の入り口近くにあったエントランスホールを思い浮かばせる吹き抜けの空間だった。違うのは中央にあった巨大水槽の代わりにステージが設けられてあることだろう。
 幾重ものスポットライトに照らされたそこには、涼子さんと美里さんの姿があった。


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