淫獣捜査 隷辱の魔罠

【59】 活かされる経験

「少し、時間をもらいます」

 肩を竦めて応える八祥さんの脇を抜け、俺は玲央奈へと歩み寄った。
 近づいてくる俺がまとう気配が変わったのを感じ取ったのだろう、目の前の意外に華奢な肩に力が入るがわかった。

「……ッ」

 得体の知れぬ場所で裸同然の下着姿、更には拘束具で後手に拘束されて口枷で抗議の言葉すら発せられぬ。
 それでいても、目の前の少女は強気な態度を崩さず、思わず吸い込まれそうになる清んだ碧い瞳に強い力を込めて睨み付けてくるのだから、俺は心の底から感心していた。

(なんとか、この場で頑張れている俺には、涼子さんという存在がいるが……それに近いモノを、この少女も持っているのかもしれないな)

 そう思えると有名アイドル 翠河 玲央奈という少女を、益々冷静に観察できるようになっていた。
 改めて見れば玲央奈の身体が意外に小柄であるのに気がつく。顔が小さく、脚がスラリと長いバランスの良いプロポーションもせいもあるのだろうが、その全身から滲み出るカリスマ性が少女の存在を実際よりも大きく感じさせていたのだろう。

(……だが)

 その内側にいる本当の姿を垣間見てしまった俺にとっては、自信に満ちた鋭い眼差しも身に纏う存在感も、ただの目眩ましに感じてしまい、その奥にいる本当の姿になんともいえぬ感情が沸き立っていく。
 そんな事を内心に想いながら立っている俺も、玲央奈からすれば動じずにジッと見下ろして立ち塞がっているように見えるのだろう。徐々に焦りを隠せずにきているようだった。
 その少女のシャープな顎下におもむろに指をかけた俺は、次の瞬間には唇を重ねていた。

「――んぐぅ!?」

 俺の行動を予想していなかったのだろう、驚きで目を開き身体を硬直させる。
 その隙を逃さずに背後に回した手でグイッと玲央奈の腰を引き寄せ、心地よい感触であるブロンドの髪の中へと手をいれ頭部を固定していく。
 それに、ハッとしたように我にかえった少女だが、もう遅い。身を引くことも唇を引きはがす事も出来ずにいる状況に俺に追い込まれていた。
 脚が悪さをするのを封じるように更に腰を密着させて少女の自由を奪いとると、唇の感触を堪能しながら舌を挿し入れていく。

「んんッ!!」

 たっぷりと唾液をまぶした俺の舌先が、獲物に襲いかかる蛇のごとく口腔をはいまわる。
 その感触に嫌悪の呻きをあげる玲央奈であったが、噛まされているリングによって口を閉じる事も出来ず、ただ恥辱に顔を真っ赤に染め上げていく。
 有名アイドルの唇を奪う。玲央奈のファンが目にしたら卒倒し、刺殺されかねない行為の最中ではあったが、俺は自分でも意外なほど頭は冷めていた。
 その脳裏では今宵経験した数々のナナさんの愛撫を思い出していて、その身をもって経験した甘美な体験記憶の中から、舌愛撫を逆の立場でトレースするように玲央奈へと施していった。

「ンッ、うンッ、うぅン……」

 意外にも玲央奈が示した反応は嫌悪よりも戸惑いや驚きが多くを占めていた。
 その反応に対応するように、口腔への愛撫を次第に優しいものへと移行していった。怯えたように縮こまった舌へと、まるで手を差し伸べてダンスに誘うように優しくエスコートしてやると、徐々にではあるが身体の強張りが解れていくのが実感できた。
 そうなれば次第に鼻先から漏れていた嫌悪の呻きが聴こえなくなり、切なげな熱い吐息へと変わっていくのにそう時間はかからなかった。

「うふぅ……んッ、ん……」

 次第に俺の腕にかかる重みが増していくの感じとり、腰にまわした左手で弛緩していく身体を支えてやる。
 トロンと焦点がぼやけていく眼差しを覗きこみながら、予想以上の成果と玲央奈の反応に俺は内心で驚いていた。
 重ねていた唇を離すと、透明な糸が名残惜しむかのように二つ口元を繋いでいく。

(……もしかして……)

 足腰からすっかり力の抜けてしまった少女を支えてやりながら、俺は後頭部へとまわしていた指先で口枷のベルトを探り当てると、緩めて口元からリングを外してやった。
 手にした口枷をポケットへと押し込んで、再び顎下に指をやって玲央奈の顔を覗きこむ。
 焦点の合わぬ瞳でボーっとした様子の少女は、俺が見つめているのにようやく気が付くと、上気した頬を更に真っ赤に染めあげプイッと視線を外してみせた。
 先ほどまでの強気な態度からのウブな行動に、思わず俺の胸がドキリと反応してしまう。
 だが、周囲にいる会員の視線を感じ、それを表に出さず代わりに口端を吊り上げて、余裕の笑みを浮かべてみせるだけのスキルは身に着けていた。
 そんな俺の態度を横目で盗み見ていた玲央奈の顎を掴み、再び正面を向かせる。頭半分ほどの身長差の為に、上目使いとなる碧い瞳を覗きこむ。
 再びゆっくりと唇を重ねていくのだが、玲央奈は強い拒絶の反応をしめす事もなくそれを受け入れていった。
 そうして、快楽に翻弄されて完全に腰砕けとなった少女を両手を抱き上げると、俺は周囲の会員に会釈だけして背後の扉の中へと立ち去るのだった。



「ふぅ……」

 周囲の目が消えると、思わず口から息が洩れた。だが、タギシさんに教えてもらった監視カメラの存在を思い出して、気を引き締め直す。
 内部は、先ほどまで見てまわっていた調教室とほぼ同じ内装の部屋であった。
 違いがあるとすれば、部屋の中央に枷のついた鎖がいくつも垂れさがり、その周囲に切り裂かれた衣類の残骸が見受けられる事と、近くのテーブルセットに栓の抜かれたシャンパンがグラスと共に置かれている事だろうか。
 そこで先ほどのオヤジが玲央奈に何を行っていたのか容易に想像し、俺は苦笑いを浮かべる。

「さて、どうするか……」

 腕の中で未だ惚けた様子の玲央奈にも苦笑いを浮かべながら部屋の中央へと歩いていく。
 近くから椅子引き寄せて玲央奈を座らせると、両手を拘束しているアームバインダーを解いていった。我ながら慣れた手付きで拘束具を外しながら、駿河さんに叱責されながら涼子さんに同様の品を装着していた時を思い出す。あの時、沸き起こる興奮に戸惑い、それを隠そうとしていた時から僅か数時間、大きく変わってしまった自分に、更に笑みを深める。

「……心の赴くままに……だな」

 迷わず露出した玲央奈の手首を掴むと、垂れ下がる枷へと嵌めていく。
 そして、テーブルの上にリモコンらしき端末を見つけると、その鎖をゆっくりと巻き上げていくのだった。

ジャラジャラジャラ……

 鎖の巻き取られていく音と共に玲央奈の両腕が引き上げられていく。次第に肩にかかる負荷の痛みに眉が寄っていった。

「痛ッ……つぅ、な、なによ……って、ここはッ」
「ほら、とっとと立たないと肩が抜けちゃうぞ?」

 正気に戻った少女に微笑みかけるも俺には巻き取る鎖を止める気はなかった。痛みに腰を浮かした玲央奈の元から素早く椅子を引き抜くと、少女の正面へと代わりに座ってニヤリと笑みを浮かべてみせる。

「今度は、少し俺の相手をしてもらうぜ?」
「もぅ、最悪……」
「そうか? さっきのキスの反応は満更でもなさそうだったが、まさか……」
「う、うるさいわねッ!! もぅ、なんなのよぉ……気を失って、気が付いてみれば、いるのは気持ち悪い変態オヤジ共の巣窟なんてッ」
「まぁ、同情はするよ」

 端整な顔立ちを歪めてみせる玲央奈に対し、先ほどのカネキという人物の顔を思い出した俺は肩を竦めて同意を示す。
 その態度に、少女は少し意外そうな表情を浮かべてみせた。

「貴方は……」
「おっと、余計な詮索はここでは御法度らしいぜ」

 咄嗟に唇に指を立てるとウィンクをしてみせるのだが、どうにも慣れない行為にぎこちなさを感じ、俺は思わずマスクの下で顔を顰めてしまっていた。
 そんな仕草に玲央奈が眉を顰めるのに気が付くと、俺は誤魔化すように新たなグラスにシャンパンを注ぎ込んで立ち上がった。
 ちょうど爪先立ちになる高さで鎖を止めると、吊られた少女の前へとグラスを差し出す。

「ずっと口を開けてたから、喉が渇いたろう?」
「私……未成年なんですけどぉ?」
「はははッ、芸能界にいるにしては意外に真面目なんだな」

 豪胆なのか生真面目なのか、そんな反応を返してきた玲央奈に自然と笑みがこぼれる。
 そして、グラスの中身を口に含むと、戸惑いの表情を浮かべる少女に唇を重ね合わせ、口移しで有無を言わせずシャンパンを嚥下させていった。



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