淫獣捜査 隷辱の魔罠

【54】 しばしの別れ

「あッ、あ、おぉぉッ」
「あひッ、あぁぁぁぁ」

 涼子さんと美里さんが口に噛まされた金属筒から雄叫びのような声を溢れ出させ、彼女たちの尻肉の合間からメリメリと水色かかった半透明の固体がひり出されていく。
 散々、薬液によって腸内を洗浄させられると、今度は特殊なゲル状の液体が彼女らに注入された。それは、体温で暖められると体内で固体化し、擬似的に排泄物を作り出すものだった。薬品の配合率を変える事で固体化した際の堅さを変えることができらしく、支配人の出す細かな指示に従い厳密に配合率を調整された薬液が何度の涼子さんたちの腸内へと注ぎこまれ、彼女らは淫具による激しい肉悦の中で何度も排泄を繰り返させられていた。

「おぃおぃ、そろそろ止めねぇとナナたちに渡す前にダウンしちまうぜ?」

 あまりの執拗さにタギシさんも少し呆れたようにボヤくと、ようやく支配人は作業を止めた。

「おぉ、そうですな。こりゃ、儂としたことが、つい夢中になってしまいましたわ。ははははッ」
「はぁ、目が笑ってねぇよ。俺に言いくるめられて、今度は逆に奴隷を取り上げられたもんだから、腹の中では怒ってるんだぜ」
 
 目の前で笑う支配人を横目に、タギシさんが苦笑いを浮かべながら、俺の耳元でこっそりと囁く。彼の言うように、支配人は好々爺のような笑みを浮かべているものの、その目は冷たい光りを宿したままだった。

「どうか……されましたかな?」
「いーや、何でもねぇよ。おーッ、こわッ」

 タギシさんが肩を竦めて戯けてみせる姿に、笑顔の支配人の眉間にピキッと青筋が浮かぶ。だが、それ以上は何も言わずにガラスの向こうへと視線を向けると、その先では、何人もの作業員たちが涼子さんと美里さんの拘束をテキパキと解いていってる所だった。
 床へと繋ぎ止めていた鎖が外され、拘束台から降ろされた涼子さんら。作業員らは、次は淫具とその四肢を戒めていたヒトイヌ拘束を丁寧に外していく。そうして人の身へと戻された彼女らは、グッタリした様子で床の上に横たわった。
 その様子に、涼子さんの側に立って作業を見つめていたナナさんは、ヤレヤレと肩を竦めるのだが、相対するシオさんは何の反応も示さず、足下の涼子さんらを冷たい視線でジッと見下ろしているのだった。
 手際よく作業を進めていった作業員たちは、今度は涼子さんらの身を薬液で清め、タオルで拭き取っていくと、室内に運び込まれたストレッチャーの上にグッタリした彼女らを乗せあげ、その四肢にベルト状の枷を巻き付けていく。既にしっかりした意識があるかも怪しい状態の涼子さんらは、その間も抗う様子を見せず、その身体を精神病の患者にするように何本ものベルトでストレッチャーにシッカリと固定されてしまった。

「さて、それではしばらく、改めて貴方様の奴隷をお預かりしますね」

 ストレッチャーへの固定が終わるのを見定めると、ナナさんがガラス越しに俺へと深々と頭をさげ、室外へと運ばれていく涼子さんの後についていく。
 だが、部屋を出てドアが閉じられる寸前に、ナナさんが再び俺の方を横目で見て、クスリと笑ったように見えた。

「――!?」

 慌てて周囲を見渡すと、タギシさんは支配人と少し離れた所で話し込んでおり、それを見たのは俺だけのようだった。

――静かに閉じられていく扉の向こうに、涼子さんとナナさんの姿が消えていく。

 それを見た途端、俺の胸に不安や焦燥感が沸き起こる。

(……なんだ? 涼子さんを救うには最善の手だったはず……それなのに、なんでこんなに胸がざわめくんだ?)

 訳もわからず、不安がドンドンと大きくなっていく。だが、ここで彼女らを呼び止める訳にはいかないのは理解できた。
 人知れず拳を握りしめ、必死に沸き上がる不安を押しとどめる。そうしている間に、扉がゆっくりと閉じきられて涼子さんらの姿が完全に見えなくなった。

(落ち着けッ! ここにきた目的を思い出せ!! 涼子さんを……彼女を助けるのは当たり前だが、それとは別に、俺自身も兄貴の死の真相が知りたかったんじゃないのか? だから……)

 俺はポケットの中にあるライターに偽装された発信器をギュッと握りしめ、不安を振り払おうと試みる。だが、不安は消えるどころか、かえって膨れあがるプレッシャーに心臓が押しつぶされそうだった。

(くッ……なにが涼子さんを助けるだ……涼子さんが……彼女が側にいてくれたから、俺は……今までも、なんとか頑張れてこれたんじゃないかッ)

 どんな状態であろうが涼子さんの存在は、俺にとってどんなに大きな心を支えになっていたか……そして、そんな彼女がいなくなる事が、どんなに大きな事なのか、今更ながら身を持って知らされた気分だ。

(くそッ、くそッ、くそッ……情けないッ)

 細かく震え始めた正直で臆病な自分の身体に、俺は俯き、心の中で悪態をつく。

(こんな時……兄貴だったら……)

 無意識の内に、子供の頃から周囲から比べられてきた優秀な兄貴の姿を思い浮かべてしまう。

(涼子さんと組む事もあっただろう兄貴なら、こんな時にどうしたのだろうか?)

(彼女の無茶ぶりに苦笑いを浮かべつつも、兄貴なら、なんとかしてしまうのではないか……)

(そんな兄貴の側に立つ涼子さん……)


――ギリッ


 兄貴を見つめる涼子さんの表情を想像した途端、俺の頭の中に残っていた僅かな部分もドス黒い感情で染まっていき、それと平行して頭が再びスーッと冷めていく。気が付けば、沸き上がっていた不安は霧散しており、身体の震えもいつの間にか収まっていた。

「……あぁ、わかってるよッ。兄貴と同じ事が俺に出来る訳がないんだッ。俺は俺で、出来る事をするだけだ。その為に必要ならば……」

 心の中のもう一人の自分に話しかけるように静かに呟く。そして、本当の意味で腹を据えた俺は顔を上げると、いつのまにか支配人との会話を終えていたタギシさんと目が合った。彼はなにか面白そうなモノを見つけたかのように嬉しそうに口元をニヤニヤと綻ばせると、ゆっくりと俺の方へと歩いてくる。

「むッ……なんですか? 俺の顔が、そんなに変ですか?」

 なぜか彼の浮かべる笑みに少し苛ついた俺は、不機嫌そうにマスクの下で目を細め、睨み付けると、彼はなぜか笑みを益々深めた。

「いーや、ここの会員に相応しいイイ顔立ちになったなぁっと思ってね。俺が女だったら惚れそうな男前な顔してるぜぇ、ルーキー」

 そう嬉しそうに彼は言うと、俺の肩に手を回してガッシリと掴んで引き寄せる。

「はぁ? すみませんが、俺にはソッチの趣味はないですよッ」
「あははッ、俺もねぇよッ! 安心しろ男のケツより、女のケツの方が数万倍好きだぜッ!!」
「ぷッ、はははッ、まったく……タギシさんが言うと、含みが多そうですね」
「おッ、なんか吹っ切れたイイ笑顔だ。よーしッ、そんな男前のルーキーにここを案内してやるよッ。その後は、俺の奴隷ちゃんで一緒に楽しもうぜッ! お前さんの分も含めて、追加しておいたからなッ!」
「あぁ、それで何やら支配人と、話し込んでたんですね」
「はは、まぁなッ」

 そう言って白い歯を見せながらウィンクすると、タギシさんは俺を連れて部屋を出て行く。
 そんな俺たちの背後では、支配人がジッと鋭い視線で見つめていたのだが、その時の俺はそれに気付いていなかった。



 そうしてエントランスホールへと俺とタギシさんが戻ってくると、先ほどまでは明るかったホールは、今は足下を照らす照明以外は最低限の光量に落とされていた。 ホールのあちらこちらに設置されたソファに、先ほどよりも多くの会員達がくつろいでおり、何かを今か今かと楽しそうに待ち構えている様子だった。

「おッ、ちょうど良い時間にきたようだッ。ショーがそろそろ始まるところだよ」
「……ショー? なにが、始まるんです?」

 俺が聞き返すと、タギシさんは人の悪い笑みを浮かべる。

「まぁ、黙って見てろって……おッ、来たようだ。アレのお出ましだ」

 彼の指し示す方を見ると、天井近くのキャットウィークに何台もの大きな台車を押した黒服の男達が確認できた。台車は2メートルほどもある細長いボックス形状で、何を運んでいるのかは下から見上げている俺には確認出来なかった。

(……なんだ?)

 男たちはそのままキャットウォークを進み、ホール中央にある水槽の真上まで移動する。すると、それを見計らったかのよにホール内に点在して配置されていた大小のモニターが点灯し、一人の人物を映し出した。

「――ッ!?」

 バストアップで映し出されたのは30代の男性で、上等なスーツを着こなし、柔らかな笑みを浮かべおる紳士然とした人物……俺はその男を知っていた。

「……紫堂……」

 そう兄貴の残した映像、そして涼子さんと兄貴の元上司であった駿河さんに見せられた資料写真に写っていた目的の人物、紫堂 一矢がモニターに映し出されていた。

(やはり、紫堂は、このクラブに……)

 少し茶色かかった髪をオールバックに固め、シルバーフレームの眼鏡越しに細められた冷たい眼差しをこちらに向ける紫堂を、俺は睨み付ける。
 だが、当たり前だがモニターに映る紫堂はそれに反応する訳もなく、逆にニッコリとほほ笑むとゆっくりと口を開いた。

『選ばれし皆様、当クラブへ、ようこそいらっしゃいました。今宵も様々な催し物をご用意させていただいておりますので、存分にお楽しみ下さい。さて、本日は会員であるタニマチ様より、寄贈品を頂きましたので、まずはそのいつもながら素晴らしい作品を鑑賞いただき下さい』

 その紫堂の言葉を合図に、キャットウォーク上の黒服の男たちが動き出す。
 手元の操作盤に触れると、運ばれてきたボックスがゆっくりと傾き始め、その開いた上部から中身の液体がジャバジャバと巨大水槽へと注ぎこまれ始めた。
 そして、その大量の液体と共に何か大きな影が一緒に落ち、大きな水音と共に水中へと沈んでいった。

(なんだ? 魚……か?)

 照明を光量が落とされている為、水中のその物体をはっきり確認する事が出来ない。
 そうしている間にも、黒服の男たちは、運んできた他のボックスも同様に次々と傾け、その中身を水面へと投下していく。

「いったい、なにを……」
「しーッ!!」

 何が起こるのか訪ねる俺に、タギシさんは口元に人差し指を立ててウィンクするだけだ。
 薄暗い水槽の中では、時折、大きな魚影がチラチラと見えているのだが、これからなにが行われようとしているのか俺には想像が出来ない。しかたないので、それとなく周囲を見渡すと、他の会員たちは事態を飲み込んでいるらしく、戸惑っているのは俺だけのようだった。
 それが少し面白くなかったが、楽しげにする周囲の人たちの口元に浮かぶ笑みに、俺は外で出会った兎狩りをしていた会員たちと同じモノを感じていた。
 フロア内が大勢の会員たちの期待感と興奮が高まるほどに、ドス黒い空気が充満していく。以前の俺ならその空気に不安を感じていたはずなのだが、今はあまり気にならなくなっていた。それどころか、素直にその楽しげな雰囲気に浸り始めている自らの現状に、苦笑いすら浮かべていた。
 そうしている間に、黒服の男たちが作業を終えた。

『さて、準備も終えたようです。それでは……』

 バンッと大きな音と共に幾条もの強力な照明の光が水槽内を照らし出す。それによって、水中を泳ぐ魚影の姿が露わになった。

「――なッ!?」

 そこには何人もの美女たちが強い光に顔を背けながら、水の中を漂っていた。

―― 惚れ惚れするような染み一つ無い肌に、見事なプロボーションを誇る美女たちは、両腕を背後に真っ直ぐ揃えさせられて、袋状の拘束具で両腕の自由を奪われていた…… ――

―― 豊かな乳房を根元から絞り出すかのように黒いハーネスが身体に巻き付き、腰をこれでもかと絞りこんでいるコルセットへと繋がっている…… ――

―― 張りのあるヒップから爪先までは、スッポリとヒレの付いた袋状の拘束具で覆われており、パッと見た目では繋ぎ目もわからず本当の人魚ではと錯覚するほどの出来だった…… ――

―― そんな彼女らの口元には空気を吸う為のマスクが装着されていないのだが、苦しげな様子を見せるどころか、その多くは口元に微笑みすら浮かべている。だが、その細い首には装着されたメカメカしい肉厚の首輪が、彼女らの生命を握っているであろう事は、薄々俺でも理解できた…… ――


 そばに立つタギシさんは、そんな水槽の中の美女たちを黙ってジッと見上げている俺の表情を覗き込み、へぇと関心したような反応を示すと白い歯を見せて楽しげな笑みを浮かべる。
 そして、俺の耳にはモニターの中から語り掛ける紫堂の言葉が聞こえ、それが頭に響き渡る。

『タニマチ様によって作り上げられたマーメイド・スレイブ……どうぞ、ご堪能下さい!!』 

 紫堂のアナウンスの続きを聞きながら、俺の口元は自然と綻んでいたのだった。


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